175.明日はどっちだろう。
どうかしてた、美月は思う。
後悔はしていないけど、あんな事言うなんて、どうかしてた。
今までだってショータはモテた。当人はポンコツだから気が付いていなかったけれど。
デートしている美月の方が気になった、ショータを意識して見ている人は横に居る美月を査定してくる。
気にしている話し方だって余程慌てなければどうという事はない、というか慌ててまともに話せる人の
方が少ないだろう。
『野球部の男子は世間的にはハイスペック』とてもそうは見えないけど、と女子で話しているが
ショータはその中でもトップクラス、今や街を歩けない程キャーキャー言われている。
それで焦ったかな、もっとロマンチックなシチュエーションが良かったな。
後悔はしていない。優しく私の事を思ってくれている。相手は問題ない。他は考えられない。
でも、でも、やっぱり、場所が、ツインのホテルの部屋を見渡した。
部屋に帰ってきた心晴が不思議そうな顔をしている。
さっきスマホを見てから美月はおかしい。
窓の外の雨は上がったようだ。
どうしよう。ショータは悩んでいた。
美月にあんな事を言わせてしまった。
語彙とか表現力、ないな。美月不満というより不安だったんだろうな。
絶対大丈夫と言って上げたいけど、無理だよな。
美月とずっと一緒に居たい、その為には生活力がいる。
今の自分に何がしてあげられるだろうか?僕には何の力もない。
恵まれた家に生まれたんだから、働かなくても大丈夫だろうと言われた事があるけど、
家族からお小遣いもらって美月と暮らすの?そんなの嫌だ美月を幸せにしたい。
プロ野球選手なんて想像もつかないし、将来が不安だ。
ちゃんと生活が出来るまでまだ時間がかかる。
僕、自信ないよ。待ってくれるかな、そんな相手じゃ不安だよな、頼りないよな。
『好きです。僕を選んでくれてありがとう。』
メッセージを送る、既読はついたが返事はない。
溜息をつく、好きな気持ち、不安な気持ち、申し訳なさが混じり気持ちが整理できない。
美月の、ただ一人の想い人の顔を思い浮かべる。
キスした後見つめ合った。ただ愛おしかった。
山崎先生、監督は困っていた。
彼はこの春大学卒業したて、新卒である。
授業の方はいきなりは無理だろうと補助的な業務だけにしてもらっている。
問題は野球部だ。
春にやって来た時、しっかりした基礎の上にグングン伸びていた。
二線級とはいえ大学野球の選手だった彼の訓練がその伸びを加速させた。
それは良い、自分の力が形になる事は嬉しい事だ。
実力以上に評価されて、親族は大騒ぎだ。
相手の隙を巧みにつく作戦の評価は高く、大学時代の関係者も驚きと称賛の嵐だ。
だが、実際に作戦を立案、実行しているのは記録員の女子とその兄だ。
秘密にしているように言われているが、化け物を見ている気分になる。
ミーティング時に作戦を説明している間違い探しの画像を頭の中で重ねてみる事が出来るという。
数試合分の画像を見せると、投手のクセ、捕手の配給の傾向を見破ってしまう。
その妹は超能力でもあるんじゃないかという位現場で相手の心理(味方の心理も)を読む。
とても敵わない。
前監督に、作戦は彼らに任せるように言われ、最初戸惑ったが今は納得している。
そういや世間は前監督が糸を引いてると思ってるんだよな。
でも、まあいいか。
わかってきた。甲子園に来れるのはこれが最初で最後になるだろう。
選手としての限界を感じた時から、教員に、指導者になろうとしてきた。
夢は叶った。このチームの後は、野球を楽しみ、予選を何回か勝てるかどうかの学校に戻るだろう。
そのチームの監督兼顧問。それはそれで良い人生じゃないか?甲子園の思い出まである。
同棲している年上の彼女の事を思い出す。
学生時代態度の固かった彼女の両親は就職し、野球部監督としてTVに出だすと態度を一変させた。
気分が良いとはいえないが、そりゃそうだろうとも思う。
数年のうちには結婚するかもしれない。
アニーの作った資料を読み返す。ショータの失点確立がほとんどない事が説明されていた。




