1.ボーイズリーグにて
甲子園目指すんだから軟式野球なんかやるな。
祖父に全国屈指のボーイズリーグチームに入れられた主人公は小学校からずっと野球をやっていたけど。
才能が全ての世界ですからね。
ボーイズリーグ 多摩ネーキッズ監督 桜庭の視点
中三の選手達が最後のアピールをしている。
夏休みも終わろうとするこの時期に有力高校の監督が来るなんて事はほとんどない。
有望な選手は既に有力校への進学が決まっている。
今いる選手は良い選手を出す代わりに他の選手を入れてもらう”バーター”にさえ
かからなかった。
甲子園を狙えるような強豪ではなく、甲子園とは無縁の学校に行くしかない。
野球を楽しむか辞めるかの選択をするだろう。
冷たいようだが、野球には才能が必要だ。
チームとしてはなるべく名門高に入ってもらいが。
保護者にお金を出してもらうためには強豪校に何人入った、甲子園に何人行った、
プロ野球や社会人野球に何人入った、というのが必要になる。
有望な子はそんなチームを探して来るし、そんな子を育てないと試合に勝てない。
・・・でもな~。
皆一生懸命やっているし、少しきっかけがあったら伸びそうなのは大勢いるんだよな。
才能的に甲子園は無理だろうって奴ばかりだけど、
皆素直で可愛いし・・・。
今回視察があった理由は今投げている左投手、ショータこと、射沢翔太の件だ。
他の選手は可哀そうだがノーチャンスだ。
あいつの祖父はW実業野球部で甲子園準優勝している。このチームに入れたのもその爺だ。
ショータの親はそれ程乗り気でないようだったが。
ショータは実に綺麗なオーバーハンドで投げる。安定したフォームは貴重な才能だ。
綺麗といえば奴はとてつもなく見た目が良い。
BLなんて興味のない俺でさえ見惚れ、チームの保護者達が
「野球やるよりタレントの方が。」と騒ぐ位の見た目だ。
今は関係ない、ショータにタレントは無理だろう。
しかし今日のピッチングは良いぞ、ボールがスッと伸びてくる。
いいぞ上手くいけばW実業に追加で送り込めるかもしれない。
W実業の監督がこちらを向いた。
「彼を呼んでもらえないでしょうか。」
少し不安があったが「射沢」と呼ぶと彼が走ってきて帽子をとる。
「W実業の監督さんだ。お前と少し話したいそうだから挨拶して。」
言い終わらないうちにショータの顔が真っ赤になる。
ヤバい、落ち着けショータ。
「イ。イージャわは、はショタ、タです。よ、ヨーロシクオネシマス。」
普段はそれ程でもないのに、ここで強烈な吃音が出てしまっている。
W実業監督、少し表情が動いた後、挨拶と簡単な質問をしてくれた。
ショータ―、お前ボロボロだよ。
どうなるんだろうなこれ。
さてある程度の才能は有りそうな翔太君ですが、どうなるのでしょうかね。