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9.残念なマーシェリン 2

騎士団本部の受付の女性に、今日の第二騎士隊の任務を聞けば、半数が魔獣討伐、残り半数は詰所で待機中とのことなので、オルドリン隊長がいれば相談ができると思い、案内してもらった。



 「オルドリン隊長、昨日はありがとうございました。」

 「ああ、マーシェリンか、昨日はお疲れ様。パトリックなら医務室だぞ。昨日の疲労がまだ抜けきらなかったらしい。」

 「そうですか。後で寄ってみます。」

 「やけに浮かない顔だが、どうした?」

 「昨日の件で、父にひどく叱られまして、剣術禁止を言い渡されました。」

 「騎士団の訓練の事なのに、なぜそんなことで叱られるのだ。」

 「ペレスターノ侯爵様のお怒りを受けることがあれば、バートランド子爵家はもうおしまいだと、父と母が蒼い顔で申しておりました。」

 「バートランド子爵は領主城勤務なのか?」

 「はい、事務仕事をしているらしいです。」

 「らしいとはどういうことだ。父親の仕事だろう。」

 「騎士団以外は興味がありませんので。」

 「まあいい、城で聞いてみよう。マーシェリン、付いてきたまえ。」

 「オルドリン隊長は騎士団の仕事はよろしいのでしょうか。」

 「騎士団の事務方に行き先を伝えておくから大丈夫だ。それに緊急出動は、今の時期は無いしな。」

 「申し訳ありません。お手数をお掛けいたします。」


 人に聞きながら父の執務室を見つけたが、同室の方に『ペレスターノ侯爵様のもとにいらっしゃってます。』と聞き、そちらへ向かった。


 「オルドリン隊長、面会予約もなく、突然伺っても良いのでしょうか。」

 「パトリックの件での話でもあるし、バートランド子爵も同席しているのなら、話も一度で済むから丁度いいのではないか?」

 「父は大丈夫でしょうか。爵位返上を言い渡されたりは、していないでしょうか。」

 「まさか、そんなことはあるまい。騎士団の訓練での怪我や疲労であるし、ペレスターノ侯爵様がその程度の事をつついて大事にするようなお方ではない。」


 ペレスターノ侯爵の執務室の扉の前には、護衛騎士と思われる人が二人立ち塞がっていた。隊長が名前と要件を伝え面会できるか聞いたところ、騎士の一人が『伺ってみます。』と中に入っていった。


 一人残った騎士に隊長が、


 「君達は特殊部隊員のようだが、なんだか物々しいな。ペレスターノ侯爵様にはいつも付いているのか。」

 「いえ、そうではないのですが・・・ 」

 「ああ、すまん。特殊任務中か。余分な事を聞いてしまった。」

 「とっ! 特殊部隊とは何ですか? 私は初めて聞きます。」

 「要人警護に特化した部隊なんだがな・・・ え? 中に要人がいらっしゃるのか?・・・ まずいところに来たようだ。マーシェリン、すまない、今日は出直そう。」

 「あ、待って下さい。そちらのお嬢様が、先に来ていたお客様の御息女だと伺ったので、多分会いたがるのではないかと思っておつなぎしているのですよ。今お帰りになられると我々が困ります。」

 「し、しかし、中にいらっしゃるのは領主様であろう。わ、私は領主様に拝謁する心積もりなど、全くできていないぞ。」

 「オルドリン隊長、なぜ領主様が。」


 まさか、バートランド子爵家、おとり潰しなのか。


 「そんなに心配しなくても、ご本人は『面白いのを見つけた。』って感じで、すっ飛んできたようなものですから、」


 突然ドアが開き取り次いでくれた騎士が、


 「どうぞ、中へお入りください。」


 扉の中へ入れば、女性が一人机に向かっていて、


 「奥へどうぞ。」


 と奥の扉の前に案内してくれた。ノックすれば中から扉が開かれ、開いた男の顔を見たオルドリン隊長が、ひぅっ、と変な音を立てて息を吸い込んだ。


 「だ、団長まで・・・いらっしゃるとは、」


 オルドリン隊長、声が裏返っています。


 「団長とは、騎士団の団長ですか。」


 オルドリン隊長は声も出せずにコクコクと頷いている。


 「さっさと中に入って扉を閉めたまえ。」


 団長に促され部屋の中に入れば、他に三人の男性がいた。一人は私の父だった。背中を向けて座っているその姿は、とても縮こまって見えてプルプルと震えているような気がする。

 突然、オルドリン隊長がその場に片膝をつき、私の腕を掴みグイッと下へ引っぱる。私を睨み同じようにしろと首を振る。横に同じように片膝をつき(こうべ)を垂れる。


 「イクスブルク領騎士団第二騎士隊隊長オルドリン・サウザンルースと申します。こちらの娘はバートランド子爵家息女マーシェリンです。本日はこちらに領主様がいらっしゃるとは露ほども思わず、この会合を中断させてしまったことへの非礼をお詫び申し上げ、この場を速やかに退出させていただきたく存じます。」


 オルドリン隊長、噛まずによく喋れました。でもこの場を逃げる気満々ですね。私を置いて逃げ出そうと思ってませんよね。


 「いや、今こちらのバートランド子爵に『今すぐ娘を呼び出せ。』と迫っていたんだが、丁度良かった。オルドリン隊長、お手柄だよ。」


 ?? 今喋っているのは、領主様? だと思う。なぜ領主様が私を? 顔を上げたオルドリン隊長も?? の顔で私を見ている。


 「我々も非公式で突然押し掛けたんだから、君達もそんなにかしこまらずに座りなさい。」

 「団長、私もですか。」


 オルドリン隊長、まだ逃げようとしてますね。


 「君も昨日の当事者だろう。」


 その一言で逃げられないことを悟ったらしいオルドリン隊長はソファーに向かい『失礼致します。』と私の父の横に座った。私は父を挟んだ反対側へ座った。


 正面のソファーに座っているのが領主様かな? オルドリン隊長が団長と呼んでいる人が左に座ってる。右がパトリック様のお父様、ペレスターノ侯爵様のようだ。


 「私がイクスブルク領領主、ヴァ―ソルディだ。これが騎士団団長のマクファード、それと君達が訪ねてきたのだから、フレデリック・ペレスターノ侯爵は知っているのだろう。」

 「いえ、皆さま初めてお目にかかります。初めまして、バートランド家長女マーシェリンと申します。本日は昨日のパトリック様の件でペレスターノ侯爵様に謝罪のつもりで伺ったのですが、なぜ領主様がいらっしゃる場に招き入れられたのでしょう。」

 「昨夜、騎士団員が若い娘に訓練中にボロボロに叩きのめされたとマクファードに聞いてな、叩きのめされたのがフレデリックの三男坊だと聞いて笑いに来てやったのだ。」


 領主様、何を考えていらっしゃるのか。

 騎士団長が、


 「謝罪の件についてはバートランド子爵にも伝えたのだが、謝罪の必要性は全く無かろう。騎士団内部の訓練における怪我なのだろう。どうなのだ、オルドリン隊長。」

 「はい、訓練の見学に来たマーシェリンにパトリックが、勝ったら妻になれと剣で挑んだのです。」

 「ほう、妻に欲しかったのか、フレデリック?。」

 「ええ、パトリックが何処かで見染めたらしくて、それでバートランド子爵に話をしたのですが。まさか剣で挑んで返り討ちにあうとは情けないことです。」

 「そもそも何故剣の勝負を挑んだのだ。その勝負はどんな試合だったのだ?」

 「私がお答えいたします。領主様。」


 私が何も答えなくてもどんどん話が進んでゆく。オルドリン隊長お願いします。


 「マーシェリンが、『私よりも弱い男に嫁ぐ気は無い』と言い放ったのがパトリックが剣で挑む原因なのですが、結果は一瞬でパトリックが打ち据えられました。その後は私が誘って、マーシェリンに訓練に参加してもらったのですが、マーシェリンが入団してくるまでにマーシェリンよりも強くなるのだと、パトリックが挑み続けボロボロになったという次第です。」

 「パトリックは自分自身で『騎士団の中でもかなり腕が立つ』などと、父親の目から見ても随分と増長したようなことを言っておりましたから、今ここで鼻っ柱を叩き折られて良かったと思いますよ。」


 ペレスターノ公爵様がパトリック様をこき下ろしてますが、あなたのご子息ではないでしょうか。

 騎士団長が聞いてくる。


 「パトリックはどのくらいなのだ。マーシェリンはそんなに凄いのか? オルドリン隊長。」

 「パトリックは第二騎士隊では中堅どころ、騎士団全体では中堅よりやや上ぐらいかと思われます。」

 「マーシェリンはどうなのだ。」


 私の話になった。オルドリン隊長は私の事をどの様に評価してくれたのだろうか。


 「私が辛うじて勝てるぐらいでしょうか。マーシェリンが貴族学院を卒院して入団するころには私を超えているのではないでしょうか。」


 オルドリン隊長、それはほめ過ぎです。頬が赤くなってしまいそうです。


 「そんなに凄いのか。マーシェリン、騎士団の特殊部隊に来る気は無いか? 領主権限で私が優遇するぞ。」

 「お待ち下さい、団長。マーシェリンは是非我が第二騎士隊に配属をお願いします。」


 どうしたことか私の取り合いになっているみたいだ。モテているのか? 


 それまで石のようになっていた父が小さな声で、


 「あ、あ、あの・・・」


 領主様が気付いて下さって父に声を掛ける。


 「ああ、すまなかった。バートランドの娘の話であったな。勝手に盛り上がってしまったが、何か話したいことがあれば遠慮なく申せ。」

 「お、恐れ入ります。あの、騎士団に誘われるのは大変光栄な事なのですが、問題はそこではなく、貴族学院を卒院できるかどうかなのです。」

 「は?」

 「なっ!」

 「なにーっ!!」


 ちょ・・・ ここで暴露するのか。この父親はーっ! 顔から火が出るほど恥ずかしい。


 「この娘は剣術ばかりしか頭に無く、座学が苦手で、落第ぎりぎりで辛うじて合格をもらったような状態なのです。最終学年はもう無理でしょうと、家庭教師の方も諦めています。」



 廻りの四人が残念そうな目で見つめてくるのを、真っ赤になって俯くしかない。



 「どうするのだ。これだけの逸材を卒院できないからと言って、騎士団は諦めるのか。あ、騎士団が駄目なら私の専属護衛というのもありか。」

 「バーソルディ様の専属護衛と申しましても、騎士団に所属していなければ。」

 「いや、しかし、騎士団入団の条件には貴族学院卒院の条件が入っております。長い年月守られてきたことを今ここで破棄するわけにもいかないでしょう。」

 「フレデリック、何かいい案は無いのか。」

 「学院に領主権限で働き掛ければ・・・」

 「そんな事ができる訳が無かろう。そんなところで融通を利かせれば後でどんな無理難題を学院から、いや、王宮から押し付けられるかわからん。」


 こちらの偉い方々は、本人を目の前にして話す事では無いと思うのですが、いたいけな乙女の心はズタボロです。もう勘弁して下さい。


 「あの、よろしいでしょうか。」

 「おお、オルドリン、何かいい案があるのか。」

 「いえ、いい案という訳でも無いと思われますが、卒院のために座学の単位が取れれば良いのでしょう。」

 「それが難しいらしいから困っているのだろう。」

 「我が騎士団の座学の成績優秀者を募り、マーシェリンに徹底的に教え込みます。こちらで用意された課題を達成できた場合のご褒美として、騎士団の剣術訓練に参加させることにすれば、本人の勉学に対する意気込みも変わるはずです。」


 訓練に参加できるっ!! 父に剣術禁止を言い渡されたが、これなら大手を振って剣術が出来る。


 「訓練参加が褒美になるのか?」

 「やりますっ! 私は頑張りますっ!」


 ついつい声が出てしまった。


 「え?」


 「昨日、マーシェリンに次回の訓練にも参加するように求めたのですが、とても輝かしい笑顔で応じてくれまして、余程剣術が好きなのだろうと、」

 「よしっ! マクファード、座学を教えられる人員を選び出せ。マーシェリン、学院が始まるまで領主城に泊まり込みで勉強だ。課題達成するたびに訓練参加できるようにしてやろう。バートランド、今日中にマーシェリンの座学の教材一式と身の回りで必要な物を、城に届けさせろ。」


 あれよあれよという間に領主様が話を進めて、私は領主城に缶詰め状態になる事が決定した。その間お父様は目が左右に泳ぎ、何か喋ろうと口があうあうしているだけで、一言も喋る事が出来ずに全てが決まってしまっていた。

 剣術が出来るのなら、まあいいか。いや・・・ 出来るのか? 課題を達成しないと・・・ がっ、がんばりますっ!!

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