82.『明日之城』
「できた―――――っ!!」
「ショ、ショウ様っ。これはっ、まさか、城でございますか。」
「そうだ、『白鷺城』だっ。あ、いや、これは命名しないといけないな。どんな名前がいいかな~。」
近づいて、高く積み上げられた真っ白な石をペタペタとさわってみる。石だ。触感は確かに石になっている。表面のざらざら感。大雑把な作りでは無い。
ここで気になっていたことが・・・・・ 写真を大きく拡大していくと画質がすごく粗くなる。この城も1/300スケールを300倍まで拡大させている以上、仕上がりの粗さはある程度は目をつぶるつもりだったのが・・・・・
たしかに【読込】の魔法円の中に補正を表しているような記号が、入っていた気はする。しかし、ここまで補正されるとは思ってもみなかった。
これは内部も期待できるのでは?
内部の確認前に、命名だな。
・・・・・・・うん、『明日之城』これだ。
でかでかと看板を作っておこう。
魔力で、地面に杭を突き立て木製っぽい看板を作る。その表面には一文字が3尺角程度で『明日之城』と浮き彫りにする。色は、長い年月、日に焼けたような黒。
【魔力固定】展開、発動。
全てが白い城の前に黒い看板。凄く目立つ。これで誰も名前を間違えないだろう。メインタイトルが決まったら、サブタイトルも欲しいかな?
左側に少し小さく、黒っぽい木製看板。『萌えたよ・・・・・・・真っ白に・・・・・・・萌え尽きちまったよ』、よし、これで【魔力固定】。
右側にも、もう一つ立てておくか。『建てぇー、建つんだ、城―っ!!』
「なんなのさーっ!! これーっ!!」
アシルだ。完成後でよかった。繊細な作業中にアシルに乱入されてたら、変なものができてたかもしれない。
「俺の家だ。かっこいいだろう。」
「かっこいいっ。かっこいいよっ!! ねえっ。入っていい?」
「入ってもいいけど、お昼ご飯に戻ってきたんじゃないのか?」
「そうだよっ。お弁当あるのっ?」
収納から、テーブルや椅子を取り出し並べていく。お弁当やポット、カップをテーブルの上に乗せれば、マーシェリンがテキパキとお昼ご飯の準備をしてくれる。
「いただきま~す。城を眺めながらのお昼ご飯はまた格別だね。この外周に桜でも植えたい気分だな。」
「桜とはなんでございましょう。」
「綺麗な花をいっぱい咲かせる木があるんだよ。冬が過ぎて暖かくなってきた頃に花が咲くんだけどね、その桜の花を眺めるのが風流なんだよ。」
「それは素晴らしいですね。是非ともショウ様と一緒に、その桜を眺めてみたいものです。」
「あたしは、桜を眺めながらご飯を食べたいよっ。」
いかにもアシルらしい台詞だ。花より団子、色気よりも食い気だな。いや、アシルに色気を求めても無理か。幼女体型のミニチュア娘だし。
東の空に何か変なものが飛んでる。あれか、本来飛ぶはずのないもの。ネコだ。
トラネコバスが開けた場所に降り立った。降りてきた面々が一様に、口をおっぴろげて大天守を見上げてる。今日は子供達は乗っていないのか。降りてきたのはアドリアーヌと護衛達だけだ。
アドリアーヌが降り立ったところへ、マーシェリンが駆け寄り挨拶をしてる。そのおかげか我に返ったアドリアーヌ、俺に向かって歩いてくる。ここに効果音を入れるならこうだ。 ズンッ ズンッ ズンッ ズンッ
大天守を指差し叫ぶ。
「なんですかっ、これは―っ!!」
「なにと言われても困るんだけど、俺の家だ。」
「家って、これはお城でしょうっ!!」
「自分の家のことを比喩で、俺の城って言ったりするから、その呼び方はあながち間違いじゃないな。」
突然、アドリアーヌにつかみ上げられた。
「比喩でもなんでもなく、間違いなく、城、し・ろ・で・す・ねっ!!」
「はい~、そうですっ、城です。真っ白城すけ(まつしろしろすけ)が出てきたんです~。」
「それを言うなら、黒じゃないのっ!!」
「その前に、これは幼児虐待じゃないですかっ!!」
ようやく椅子に戻された。アドリアーヌ、フーフーと息が荒い。腹減って怒りっぽくなってるんじゃないか。って言うよりも、ここへは昼飯のつもりで来たんじゃないか?
「アドリアーヌ、まずは落ち着いてご飯を食べよう。いや、その前にお茶を一杯どうだ。
マーシェリン、アドリアーヌにお茶を入れてあげて。」
アドリアーヌが席に着き、マーシェリンの入れたお茶を一口飲んで、ようやく落ち着いたかな。
アドリアーヌの護衛達が、俺達の横にテーブルと椅子を出し、昼食の用意を始めた。アドリアーヌの昼食は俺のテーブルの上に乗せられた。
さっさとそれ食べて、お怒りモードが沈静化すればいいのに。
「家を作るとは聞いていたけど、城を作るとは聞いてないわよ。」
「いえ、これは家です。」
「あそこに、『あすのしろ』って書いてあるじゃない。」
そうだ。看板立てたんだった。
「城といえば城かな。でも様式が全く違うし、他の人達が城と認識しないんじゃないかな。あ、ちなみに『あしたのじょう』です。」
「リベルドータ、この建物を見てなんだと思いますか。」
「領主城とはまた趣が違いますが、城でしょうね。中を見せてもらわないと詳しくは分かりませんが、この造りは攻められた時の防御を意識しているようですね。あの塀に空いている穴は魔法攻撃用の穴では無いでしょうか。」
「ショウ、そうなの?」
「鉄砲を撃つための穴だよ。リベルドータ凄いね。」
「リベルドータは城と認識したわよ。」
「はいはい、城ですよ。あの有名な『白鷺城』ですよ。城だと駄目だったの?」
「領主城と目と鼻の先に、それに匹敵するような城が建っていたらおかしいでしょう。城同士でにらみ合って、戦が始まるだなんて噂が立ったらどうするつもり。」
「いや、そんな、戦だなんて。城として機能させなきゃいいんだよね。領主様管理の下で観光名所にしようか。」
「ショウが住みたくて建てたんじゃないの。観光客がぞろぞろ来てたら、住んでいられないわよ。」
「そうか。じゃあ、部分的に騎士団の駐屯地として使ってもいいよ。」
「騎士団がいるのも、騒がしくて落ち着かないわ。」
「使用範囲を限定するんだよ。使っていいのは曲輪と小天守まで、大天守は俺専用で進入禁止、でどう?」
「ショウがそれでいいんなら、騎士団も助かると思うわ。ここを立ち入り禁止にした時に、アステリオス様から、ここを中継地点に使わせてもらえないか、ショウに聞いてくれ、って言われてるのよ。よほど、ここが便利だったのね。」
「じゃあ、その話はそれで決定ね。話は変わるんだけど、アドリアーヌに聞きたいことがあるんだ。樹木で、桜ってある?」
「それなら、ポスダルヴィア領にあったのを城の庭に移植してもらったものがあるわ。庭を桜で一杯にしようと思って、植木職人さんに今、取り木した苗木を育ててもらってるのよ。」
「あるのっ。それ、欲しいんだけど。分けてくれない?」
「そうね、領主城の庭よりも、ここが桜で満開になった方が映えるわね。でも満足できるほどの苗木の数はないわよ。」
「そのポスダルヴィア領に行けばあるの?」
「ええ、近いうちに領主会議があるから、お願いしてみようかしらね。」
「是非ともお願い。お金がかかるようなら、俺が預けているはずのお金を全部使ってくれていいよ。」
「そうね、使わせてもらうわ。でもそんなに高いわけじゃないわよ。」
そうかぁ、桜があるんだ。やっぱ城には桜だよね。桜を眺めながらの一献は、また格別なんだよね。って、赤ん坊が酒飲んだらまずいか。
でも、桜を植えて見頃になるまでには、20年30年ぐらいはかかるだろうし、その頃にはお酒もおいしく頂けるようになってるでしょう。
「ショウ―っ!! 凄いよ―っ!! いちばん上まで行ってきたけど、眺めがサイコウーだよっ。」
昼食を早々に切り上げて、飛んでったアシルが戻ってきた。城内を飛び回っていたようだ。
「ショウ、一緒に行こうよ。もうご飯、終わったんでしょー。」
早く来いと言わんばかりに、俺の手を引っ張る。俺、幼児用の椅子に座ってるんですけどっ、このまま引っ張られたら椅子ごとひっくり返って地面に叩き付けられるんですけどっ!! まあ、魔力で固定してるから、そうはならないんだけどね。
じゃあ、大天守の最上階の眺めでも堪能しようかな。
「アドリアーヌも上にあがってみる? 360度の大パノラマが楽しめるよ。」
「ええ、あがらせて頂くわ。護衛の皆さんもよろしいのかしら。」
「ああ、構わないよ。みんなで景色を楽しもう。」
さすがに乳幼児の足で上まで登ることは無理だった。大天守が鎮座する石垣だけでも8間ほどの高さがある。14mぐらいだろうか。大天守に至る通路を上っているだけで疲れて、早々に諦めマーシェリンの腕に抱かれて最上階までたどり着く。
足元には築城するために整地された場所以外は、鬱蒼と生い茂る高木に覆われた山。山裾には山を囲う石壁が、木の間に見えている。東には平地に木が山積みされ、その向こう側に塀が見える。そこからまだ東、遠くに望む領都。さすがに領主城は確認できないか。
領都の向こう側には海が広がっている。海があるなら、船で漁に出るのもいいな。
「領主城も充分な高さがあるけど、山の上に建つこの城にはかなわないわね。素晴らしい眺望だわ。この山を囲っているあの塀は門を閉めておかないと、魔獣が侵入するわよ。」 「開口部だけで、まだ扉を作ってないんだよ。近いうちに造っておくよ。他にもまだまだ造らないといけない物もあるしね。」
領都から西へ走る街道、そこから麓の門までの道を整備。門から山頂に至る道の整備。堀に水を張るために、川からの水路の整備。
まだまだ大変だ。城ができたからといって、浮かれてる場合じゃないな。
『レインボークイーン』の胴体の処分もあったな。魔石も取り出さないといけないし。午後はここの前の広場で『レインボークイーン』の処理をしよう。
「俺は下におりるから、アドリアーヌ達は好きなだけここにいていいよ。」
「あら、そう、お言葉に甘えて楽しませて頂くわ。」
アドリアーヌはここの風景が気に入ったようだ。アドリアーヌが動かなければ護衛騎士も動けない。ここに放っておいてもいいよな。
下まで階段で降りるのも面倒だ。コナンで飛んでいこう。マーシェリンはどうするんだろうね。
「マーシェリンはどうする?」
「もちろん、お供致します。」
うん、答えは分かってた。言わずもがな、だね。
マーシェリンを横抱きにして窓から飛び出る。
「・・・・・・・・・・――――――――――っ!!」
これが声にならない悲鳴というやつか? コナンの首に抱きつくマーシェリン。コナンの腕で宙を飛ぶのが初めてではないはずだが、予告も無しに跳び降りたのが怖かったのか?
地面にマーシェリンを立たせても、足元がおぼつかない。顔を見れば上気している。
「具合が悪い?」
「なっ、何をおっしゃいます。コナン様。わたっ、わたくしは元気でございますともっ。」
「元気ならいいや。隅に寄ってて。ここに『レインボークイーン』の胴体を出すから。」
「あたしもいくよ―――っ!!」
アシルまで飛んできた。魔獣の解体とか大丈夫なのかな。恐かったら飛んで逃げてくからいいか。
胴体を出す前に、1/300スケール『白鷺城』を出しっぱだった。またどこかで使うかもしれないし、しまっておこう。【門】を開いて収納。




