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81.築城

 「そろばんって、掛け算や割り算ができたわよね。」


 アドリアーヌの執務室でそろばんを教えていると、そんなことを聞かれた。


 「俺は、加減乗除の加減しかやってこなかった。学校や塾で教わったわけじゃ無いからね。もしやりたかったらアドリアーヌの記憶にあるはずだから、記憶を探りながら研究してみてよ。」



 執務室でそろばんを教えながら何日かを過ごせば、ようやくアステリオスが執務室を訪ねてきた。


 「予定どおり『カラードアント』討伐及び捜索を終了する。そして、魔力溜まり解消からの『カラード』討伐作戦を終了する。野営地の撤収は明日中に完了する予定である。」

 「アステリオス様、ご苦労様でございました。約束どおり撤収後は立ち入り禁止として下さいね。」

 「ふむ、約束なのであるからしょうがない。あの山は野営地としてはなかなかに便利だったのだが。」

 「便利なのは俺が綺麗に整地したからであって、なにもしてなければ鬱蒼と木が生い茂る山だったんだよ。」

 「そうであったな。あれだけの場所を創り上げられるショウの魔力量には驚くばかりだ。あれと似たような物を騎士団のために作ってくれないか。」

 「気が向いたらね。でも、あの山をずっと立ち入り禁止にするわけじゃないんだ。あそこでの【建築物創造】が終わったらまた使ってくれていいよ。」

 「おお、そうか。それは助かる。」



 「じゃあ、そろばん教室も今日で最期だね。俺は騎士団が撤収したら山に行くからね。」

 「ありがとう。ショウのおかげで本当に助かったわ。そのついでなんだけど、子供部屋でそろばんを教えてあげてくれないかしら。」

 「いやですよっ!! それはアドリアーヌがやることじゃないのっ。」

 「だめですか~。」


 子供達に赤ん坊が教えるっておかしいよね。教えられる子供達だって自分たちより小さい子に教えられるのは、あまり気分がよろしくないのでは?

 まあ、そんなことはどうでもいい。ここしばらくの数字とのにらめっこでイライラしてたんだよ。もうこの状況から解放されるんだ。


 騎士団は明日撤収。そうかそうか、あさってには本格的な【建築物創造】ができるぞ。


 「じゃあ、俺は明日はお休みでいいよね。このところ、討伐から事務仕事まで、0歳児が働き過ぎだよね。0歳児がっ!!」

 「凄く強調するわね。」

 「そりゃそうさ、0歳児なんだからね。世間一般、0歳児をこき使う大人っていないと思うんだよ。」

 「それは承知してるわよ。本当にショウには感謝してるのよ。必ずお礼はするわ。」

 「あの山を自由に使わせてもらってるから、お礼はいいよ。」




 今日は朝からお弁当持ちで山頂に来ている。マーシェリンとアシルも一緒だ。アシルは魔獣がいなくなったという話を聞きつけてから、連れて行って欲しくて俺につきまとってたな。

 騎士団も撤収して山自体が、シンと静まりかえっている。討伐時に人があふれかえっていたのが嘘のような静けさだ。こんな時って本当に耳に、シーンと聞こえているような感じがするのは俺だけだろうか。

 アシルがいれば賑やかなんだろうけど、山頂に着いた途端林の中へ飛んでった。林の中を飛び回っているのだろう。きっと城から出なかったせいで退屈してたんだろうな。


 さて、これからやろうとしていることは【建築物創造】だ。

 【魔力精製】【魔力放出】【読込】【土石創造】【魔力固定】この流れで【土石創造】を【建築物創造】に置き換えるんだけど、俺の建築物創造は【魔力精製】【魔力放出】は省いてしまう。魔力精製も放出も、魔法円の介在無しで実行しているのだから、はなから必要が無い。魔力を形成しながら形を整えていけるぐらいの魔力量はあるはずだ。


 まず、イメージだ。考えている建築物はあの超有名な建築物、『白鷺城』。

 この山の上に、あの白く美しい巨大な天守はどれほど映えるのだろう。

 高さにして25間ほどの高さ、その最上階からの眺望、それを目にした時、きっと城主の気分が味わえるのだろう。


 で、()いだ木が大量にあったので、最初はそれを製材して、乾燥させて、墨付けをして、刻んで、削って、組み立てて・・・・・・・  大工仕事をしようと思ってたんだよっ。でもっ、【建築物創造】だなんて、そんな便利な魔法があったらやるよねっ。ズルしたいわけじゃ無いんだよっ。便利なものがあったらそれを使いたくなるもんなんだよっ。そうやって文明は発展してきたんだよっ。

 と、まあ、言い訳はそのへんにしておいて、さっさとズルしよう。



 さてさて、実は『白鷺城』は紙で作った事がある。紙に印刷されたものを切って貼って組み立ててと、そういうキットを売ってた。なんかかっこよかったから、ついつい買っちゃったんだよね。

 最初はよかったよ。物珍しさや、作っていく過程のドキドキワクワク感・・・・・ 根気が続かずに、途中で放置されること数ヶ月。

 ある時ふと思い出した。築城が中途半端な状態だだったことに・・・・・  頑張ったよ。その後は頑張って完成させたよ。着工から完成まで1年を越える大工事だったぜぃ。

 それだけ苦労して完成させた『白鷺城』1/300スケール、クラフトモデル。いまだに頭の中にその形状が記憶されてる。


 いきなり現物に挑戦して大失敗はしたくない。一度1/300スケールで作ってみよう。

 記憶を再現して、そのイメージを魔力で形作る。こんな感じだったっけ? まあいいや。【魔力固定】。1/300モデルが光り固定される。

 う~ん、なんか違くない? 大天守と小天守のバランスが悪い? あれ? 桁行方向に唐破風とか千鳥破風とか、なかったっけ?

 覚えているようで、記憶の曖昧さが露呈してしまった。

 そうだ、【読込】の魔法円があった。【読込】は俺の記憶の中の曖昧な部分を取り払って、鮮明な記憶として読み込むことはできるのかな。でも、過去の記憶にどうやってアクセスする? 脳内図書館も俺の記憶の中のものだ。脳内図書館から過去の記憶をのぞき見ることはできるのだろうか。

 いや、脳内図書館自体が俺の記憶なんだから、その中で記憶を呼び覚ませば、鮮明な『白鷺城』が・・・・・   無理かな~。今のこの状況で出てこなければ脳内図書館でも無理のような気がする。


 でも、ものは試し、やってみよう。

 その場に座り込み瞑目し、意識を深い記憶の底に沈めていく。

 脳内図書館だ。ここから床の魔法円を発動させるイメージ・・・・・  原初の女神の書庫だ。ここでなら古い記憶を呼び覚ますことができるだろうか。ここで無理なら諦めよう。その場合は独自のイメージで城を築城しよう。

 書庫の中でも、現実と同じように座り込み瞑目する。記憶の中の1/300スケール『白鷺城』を思い出しながら、そのイメージを魔力で形成する。

 目を開ければ・・・・・  おおー、そうそう、これだよ。俺が作った1/300スケール『白鷺城』がそのまま俺の目の前に現れた。

 記憶の中の書庫で探った記憶、それがより一層正確な記憶を呼び覚ましたのだろう。


 この1/300スケール『白鷺城』を【読込】で現実世界に再現してみれば・・・・・

 いや待て、紙で作った物がそのまま現実世界にできてもしょうがない。ここからは現物に近い構造の1/300スケール『白鷺城』を完成させよう。


 まずは、城の土台となる石垣だ。確か、地下室があったはず。大きさは大きめに作りたい。7間の5間、深さは地面まで8間ぐらいの空間を空けておけば、4層構造くらいの巨大な地下空間ができる。よし、空間だけ空けておいて、後でいろいろ細工しよう。ゆくゆくは隠し通路なんかも作って、非常脱出口とか・・・・・   忍者屋敷ですかっ!!

 普通に石垣って茶色っぽい感じだったかな。しかし、ここで俺の選択は石垣の色は白。


 石垣の上に建つ大天守、小天守、その他建物群、建物に入るための通路を囲う塀、瓦は本葺き瓦、瓦色は白、外壁全て白漆喰。

 内部は6層、天井無し構造材露出、床板桧無垢板、露出木材全て白、内部壁白漆喰。

 ここまで、きっちりできていれば【読込】はいらないんじゃね? そのまま【魔力固定】をやってみよう。

 【魔力固定】の魔法円を展開、発動。目の前の『白鷺城』が光り輝き固定化された。

 脳内で固定化されてもね~、現実世界で固定されてなければ意味ないよね。魔法円の複写をした時は、現実世界で複写できていたよな。それなら現実世界の俺の目の前に1/300スケール『白鷺城』が固定されているかもしれない。


 脳内図書館の一番深いところから、意識を覚醒させる。現実の感覚に戻り目を開ければ・・・・・

 よっしゃーっ!! 目の前に1/300スケール『白鷺城』だ。

 近くに寄ってまじまじと見てみる。かっけーっ!! しかも、本物の『白鷺城』よりも白い。石垣や瓦まで白で作ったのだから、白以外の色が無い。

 恐る恐る手を伸ばし、さわってみる。紙じゃない。石垣はちゃんとした石垣だし、屋根は瓦だし、壁は漆喰だ。今の俺では重くてびくともしない。


 「ショウ様、これはなんでしょうか。建物の模型でしょうか。」

 「そう、これをここに建てたかったんだよ。かっこいいだろう。」

 「見たことの無い建物のようですが、とても美しく感じられます。」

 「この美しさが分かってくれるか~。さすが、マーシェリン。」


 さて、この1/300スケールを読み込んで、1/1スケールで築城したい。今俺達がいるのは、山頂部の南の端だ。いい位置にいる。1/300スケール『白鷺城』の向きは? 正面が南向き。少し東に振れている。これもいい。このままいってみよう。


 魔力を放出、と同時に【読込】の魔法円を展開、発動。1/300スケール『白鷺城』をサーチしているようだ。淡い光りに包まれている。

 魔力放出量が一気に増大した。目の前に膨れ上がる魔力の塊。勝手に形が整えられ、石垣ができ、その上に大天守がそびえ立つ。その廻りには小天守、(くる)()、塀や門まで形作られていく。

 石垣の高さだけでも8間ぐらい、大天守の高さが17間程度、合わせて25間ほどの高さにまで膨れ上がった魔力の城。壮大だ―――――っ!!


 外観の形状が整い、もう終わりかなと1/300スケールに目をやれば、まだ光りに覆われている。まだサーチを続けているのか? 外部は終わって今は内部を探査しているのだろうか。まだ時間がかかりそうだ。


 1/300スケール『白鷺城』を包んでいた淡い光りが、ひときわ明るく輝いた後、ふっと消えた。

 これ多分【読込】が終わったよね。また光り出したりしないよね。1/300スケール『白鷺城』を指でツンツンつついてみても変化は無い。大丈夫そうだ。

 【読込】が終わった今、外部はもちろん、内部もしっかりできあがっていると思われる。ここからは最後の仕上げ【魔力固定】だ。

 これだけの大物の【魔力固定】だ。魔法円も巨大なものになるだろう。

 魔法円展開、全てを覆い尽くさんばかりの巨大な魔法円が、大天守の上に現れる。こっ、これだけのデカい魔法円、発動するとどれだけ魔力消費するんだ。やってみないと分からないという怖さはあるけど・・・・・・・

 昔からよく言われていること、やったもん勝ち?・・・・・  なんか違いますっ!!


 気を取り直して、発動っ!!   おっ、おお、結構魔力を持ってかれた気はする。でも、俺の魔力の総量からすればまだまだいける。ガンガン行こうぜっ!!

 目の前に魔力で創り上げられたものが、まばゆいばかりの光りを放ち、光りは消える。【読込】に比べて【魔力固定】は随分とあっけなく終わる。

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