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79.ファントム

 俺とマーシェリンのまわりを魔力で包み、ファントムを形成。ファントムの滑走路として使うにはこの平原は起伏があって無理そうだ。ハリアーみたいに垂直離陸をさせよう。空中に機体を浮かせて、魔力エンジン全開っ!!

 体が座席に押し付けられ、顔の形が歪むぐらいのGがかかる。はずである。でも、俺の体はコナンの体内で濃密な魔力に包まれているおかげで、その強烈なGは緩和されている。マーシェリンは大丈夫かな。


 もう野営地の山が見えてきた。と思ったら通り越してしまった。機体を旋回させる。下には領都が見える。領都で騒ぎが起きていそうだけど・・・・・ まっ、いいか。誰も俺だとは気付かないでしょ。

 今度は通り過ぎないように・・・・・・・ やってみたいことがある。緊急脱出だ。せっかくファントムに乗ってるんだ。やってみよう。脱出装置を作動させる手順なんか知らないから、俺のイメージで俺とマーシェリンの座席の脱出装置を作動させる。

キャノピーが吹き飛び座席が射出される。機体は魔力供給が途絶え、野営地を飛び越えたあたりで塵と化す。俺とマーシェリンの座席は宙に放り出された状態から、パラシュートが開き落下スピードが減速されフワフワと落下していく。

 あ、マーシェリンが気を失っている。

 俺の座席の魔力供給を止め、マーシェリンの元へ飛んでいく。股間がぬれてる。ジェット戦闘機はよほど怖かったらしい。ちびってしまったようだ。

 マーシェリンの座席も魔力供給を止め、お姫様抱っこで地上に向かいながら、【洗浄】の魔法円を展開、発動。俺達二人が水に包まれ・・・・・  そして水が消える。

 うん、マーシェリンの服も綺麗になって、ちびったあともなくなった。

 山頂へ降り立った時は、もうそこにはアドリアーヌが待ち構えていて、問い詰めてきた。


 「さっき飛んでったのは、あなたでしょうっ!! 一体何を飛ばしてるのよっ!!」

 「あー、あれはファントムだ。」

 「ファントムって? 幽霊なの?」

 「ジェット戦闘機ですよっ!!」

 「マーシェリンはどうしたのよっ。」

 「あまりの加速Gとスピードで意識を失ったみたいだね。」

 「怪我をしたわけではないのね。大丈夫ならいいわ。で、魔獣はどうなったの。こんなに急いで帰ってきたって事は、待機している騎士隊に出撃をさせるためかしら。」

 「いや、その件はもう片付いた。アステリオスも帰ってくると思うよ。」

 「もう? 巣の中も?」

 「腹が減ったんだけど、報告は食事しながらでいいかな?」

 「あら、ごめんなさい気がつかなくて。」


 トラネコバスに乗り込み、テントのある下段に降りる。マーシェリンを座席に横たえ、俺はショウの姿に戻る。ご飯を食べるのに、コナンじゃ食べにくいしね。

 マーシェリンはリベルドータが運んでくれた。


 俺専用の椅子に腰掛け食事を待つ。食事はスープとパンだ。俺専用のご飯は用意されておらず、小さくちぎってもらった固いパンをスープに浸し柔らかくなったものをスプーンで口に運ぶ。まだ歯が生えそろっていないから固いパンが食べれないんだ。口の中でモゴモゴしながら飲み込む。


 「魔獣はどうなったのかしら。」

 「予定通り巣の中を燃やしたんだけどね、女王がもうすでに大きくなってて巣穴の奥底で大暴れしたんだ。あいつらの土を掘るスピードって凄いんだよ。俺の触手が土に阻まれて追えなくなったんだ。で女王は土を掘って地上に逃げ出したんだけど、子供達、卵、幼虫まで食らい尽くして出てきたみたいで、地上でさらにでかくなったんだよ。」

 「そんな巨大な魔獣を相手に、騎士達は大丈夫だったのっ。怪我人とかは?」

 「心配はしなくてもいいよ。怪我人はいないよ。」

 

 アドリアーヌがほっとしたようだ。


 「騎士達の攻撃を見たんだけどね、凄かったよ。さすが騎士団、あんな攻撃があるんだ。驚いたよ。下向き空中開花だよ。」

 「? 下向き? え? なに?」

 「下向き空中開花だっ。上空から地表に向かって加速しながら魔法を撃ち込んだ後、花が咲くように散開するんだよ。ブルーインパルスを彷彿とさせるような技だったよ。」  「ブルーインパルス? 魔獣の名前なの。」

 「なに言ってんですかっ!! 『特別飛行研究班』ですよっ!!」

 「よけい分かんないわよっ!!」


 しょうがない。分からない奴には分からない。ブルーインパルスは男の子のロマンだったんだよっ!!

 話がそれたけど、アドリアーヌには『レインボークイーン』の名前、数多くの魔法を使うこと、走って逃げ出した『レインボークイーン』を騎士団が追いつけず、俺がファントムで追いかけ討伐したことを説明した。


 「それで『クイーン』が走ってる間、ずーっと卵を産み続けていたんだ。今、騎士団はその産み落とされた卵の処理をしてるから、帰ってくるのはまだ先だね。」

 「皆が無事に帰ってこれるなら、よかったわ。ありがとう、ショウのおかげね。」

 「それで『クイーン』を討伐した後もなかなか生命活動が止まらない胴体が卵を産み続けてたもんだから、胴体を切り落として異空間収納に収納してきたんだ。あれは俺がもらってもいい?」

 「そんな気持ちの悪いもの、何をしたいのよ。」

 「その胴体に魔石があるんだよね。」

 「そういうことね。いいわ、今回もショウが討伐したんだから、あなたが持っていなさい。」

 「アステリオスは、胴体を収納してからそこへ来たんだ。収納を教えたくなかったから、胴体は破壊したと言っておいた。口裏合わせておいてね。」

 「分かったわ。怪我人がいないのなら、私は城へ戻るわね。ショウはどうするの。」

 「マーシェリンが起きたら帰るよ。」


 アドリアーヌは、マスカレータとイブリーナを連れて城に帰っていった。リベルドータとグレーメリーザは、もしもの時のために野営地に残された。今日はもう危険な事は無いだろう。明日の作戦で森の中へ散った働き蟻や兵隊蟻の討伐をするだろうから、怪我人が出るかもしれないとなると明日だな。

 でも、女王がいなくなれば、残った蟻は死滅するんじゃなかったかな。いやいや、魔獣化してるから単独で生き延びる可能性もありそうだ。ここはしっかりと残党の討伐をしておかねばいけないよな・・・・・  騎士団が。



 救護用のテントにマーシェリンが寝かされている。起きそうな気配は無い。疲れているのかもしれない。十分に寝かせてあげよう。

 まだまだ時間が早い。騎士団が帰ってくるまでには山頂を整地するぐらいの時間はありそうだ。

 今この野営地には、第1から第4までの騎士隊が待機中だ。ここに第7から第10までの騎士隊が帰ってきたら手狭になるよな。

 

 山頂に行きたい、と伝えたら、それでは私が、と声を上げたのがリベルドータだった。珍しい。マーシェリンがいない時の護衛はいつもグレーメリーザだったのに。

 グレーメリーザが出遅れた感じで、ええぇ、と言ってる。

 まあ、俺は誰でもいいんだけどね。って言うより護衛はなくてもいいかな、なんて思ってる。

 リベルドータのグリフォンで山頂に飛ぶ。山頂部と下の段をつなぐ階段を作っていなかったな。でも今日は階段までは手が回らないだろう。無理せずに、整地だけで済ませよう。

 外側を石垣で囲まれ、その内側に土が土手を作ったような感じで山盛りになっている。もんじゃ焼きを焼いてる時に具材で土手を作ったような感じだ。


 あ、もんじゃ焼き食いたくなってきた。もんじゃに限らず、広島風、関西風、お好み焼きは大好きだ。鉄板作ってもらおう。この世界で材料揃うのかな。いつか作ってやる。


 その盛り上がった土手を、土石操作の土魔法を発動させ内側に崩し、平らにならしていく。石垣の内側が全て平らになれば、後は土の締め固めなんだけど、魔法にしようか、ロードローラーにしようか、悩むところだ。

 ロードローラーと言えば、アスファルト舗装でアスファルトの締め固めに使われてるのをよく見るんだけど、土の締固めにも多大な威力を発揮する。ローラーを振動させながらあの超重量で締め固めていくのだ。その振動ローラーを、従魔として作るか。

 あれ? 振動? 震動?・・・・・  【土石震動魔法】の震動を緩やかにして、土同士の密着度を上げてやれば、土はギュッと締まっていくのではないか。

 【土石震動魔法】魔法円を展開、震動スピードを緩やかに、そこへもう一つの魔法円【土石操作魔法】土同士の密着度アップ。

 この二つの魔法円を発動。足元に感じられる僅かな振動。振動と共に土が密着していくのだろうか、軋むような音が地中から響き足元の土が沈み始める。土の密度が上がり体積が減っていく。

 下がっているのが発動させた魔法円の大きさ、俺の足元だけだ。これじゃあ駄目でしょ。この山頂部分全体を締め固めたいんだ。

 この山頂部全体に魔法円を広げて発動させてみるか。


 山頂部全体が軋み土が圧縮され、下がりだす。石垣は多分大丈夫だと思う。上から圧をかけて締めているのではなく、土自体が引っ張り合い密着していく。外に向かっての圧はかかっていないはずだから、石垣が崩れ落ちたりすることはない。

 

 これだけの軋む音は、下の野営地にも聞こえているはずだ。騒ぎが起きて誰か飛んできそうだ。もうかなり締め固められたと思うし、この辺で終わっておこう。

 

 従魔の群れがこちらに向かって飛んできている。どこの隊なのか分からないが、卵の処分は終わって帰って来たのだろう。

 山頂が綺麗に整地されてるから、皆ここに一度降りそうだ。

 先頭がケルベロス、アステリオスか。先に帰ってくるかと思ってたけど、最期まで騎士隊を率いていたんだな。


 あれ? 俺が山頂にいるのをちらっと見ただけで通り過ぎていった。その後に続く騎士達。


 「リベルドータ、後ろの騎士達が怪我人を運んでるっ。」

 「はいっ!! 私も確認しましたっ!!」


 コナンの姿になり、リベルドータのグリフォンで救護用のテントへ飛ぶ。

 グレーメリーザがアステリオスに応対している。


 「アドリアーヌ様は城へ帰られました。」

 「なんと、治癒を任せたかったのだが。」

 私もリベルドータ様もいますし、コナン様もいらっしゃいます。アドリアーヌ様がいなくても大丈夫です。」

 「そうか、コナンか。コナン、治癒を頼めるか。」

 「ああ、任せて。何が起きたの。」

 「森の中で卵の捜索をしていた隊が『カラードアント』の襲撃を受けた。奴らはまだ森の中にかなりの数、徘徊しているぞ。」

 「そんなに多いのか。巣から外に出ているのは少ないと思ってたけど、予想が外れたな。」

 「私はもう一度、平原の隊の元へ飛ぶ。治癒はたのんだぞ。」

 「団長、一人では危険です。私達も行きます。」

 「いや、おまえ達は休め。待機組の隊長を連れていく。」


 アステリオスが飛び出ていった。

 平原なら危険はないだろう。そっちを担当していた隊もそろそろ引き上げる準備でもしているんじゃないだろうか。

 この騒ぎでマーシェリンも目が覚め、今まで寝ていた毛布を怪我人に譲っている。

 さて、重傷者はいるのか? 今にも死にそうな奴がいたら、優先しないとな。

 ざらっと見回してみて・・・ 13人か。命にかかわる怪我は無さそうだ。骨折とか火傷ぐらいか。じゃあ、元気な奴は出てってもらおう。


 「さて、今から治癒を始める。関係ない奴らは出ていって、ってちょっと待て。」


 明らかに一人、顔色が悪い。土気色とでも表せばいいのだろうか。そいつの腕を捕まえて問いただす。


 「何かの攻撃を受けたか?」

 「死んだはずの蟻が突進してきてぶつかりました。」

 「腹で受けたんじゃないのか?」

 「え、はい、そうです。」

 「鎧を脱いでそこに寝ろ。

 マーシェリン、鎧を脱がせるのを手伝ってくれ。

 よし、他の奴らは出てけっ。」


 多分この騎士は内臓損傷だ。放置すると死ぬ。それなら損傷した臓器に治癒を施せばいい。でも俺は医者じゃないから、どこが損傷したのか分からない。そんなときの神頼み。原初の女神の治癒円だ。完全回復しちゃうあれだよ。ついでにもうめんどくさくなってきた。怪我人全部真ん中に集めさせて。全員をカバーする治癒円を展開&発動。

 土気色だった顔色に赤みがさしてくる。他の騎士達も、火傷や骨折が見る間に修復されている。

 全員、回復したようだ。皆が起き上がり感嘆の声を上げ、口々に礼を述べてテントから出ていく。

 もう俺は必要はないかな。


 「後はリベルドータ達に任せてもいいかな。」

 「ショウ様はどちらへ行かれますか。」

 「もう、帰って寝るよ。」


 もう、かなり疲労を感じている。おなかが減ってきているのに、睡魔に勝てる気がしない。部屋まで帰る気力もなくなってきたな。


 「申し訳ありません。ショウ様に頼りすぎていました。ここは私とグレーメリーザにお任せ下さい。

 マーシェリン、ショウ様を・・・・・・・


 リベルドータがしゃべってるけど最期まで聞き取れなかった。コナンが崩れ、俺の体が毛布に向かって倒れ込む。

 倒れる時のショックは無かった。ああ、これは・・・・・ マーシェリンの腕だ・・・・・  暖かな・・・  腕の中で・・・・  意識が・・・・・・・

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