74.野営地
野営地に向かう途中、増援の騎士達が野営地から飛んできた。先頭にケルベロスが羽ばたいているのが見えた。騎士団長のアステリオスだ。ぐるっと旋回してマーシェリンの横を飛ぶ。
「怪我人は全て救い出せたのかっ。」
「はいっ、野営地で点呼を取らないと、正確には分かりませんが、全員連れだしたと思いますっ。」
マーシェリンが応対してくれた。アステリオスが俺に目を向け問いかける。
「後ろに乗っているのは、ショウだなっ。」
「いや、俺はコナンだっ。」
「そうかっ、コナンとは初めてお目にかかるっ。」
もう、従魔で飛びながらの会話はしにくいよ。野営地に着いてからにしようよ。
野営地まで戻ってきたら、アドリアーヌまで駆り出されたようだ。重傷者に治癒を施している。
アステリオスが詰め寄ってきた。
「コナン、帰ってきた人数が足らないぞ。」
「ああ、3人だよね。」
「そうだ、3人だ。」
よかった。3人で合ってた。それ以上の人数言われたら、また探しに行かなきゃいけないところだった。
その3人をこの場で出すのはまずいよな。テントを一つ借りよう。
「一つ空いてるテントを借りたいんだけど、いいかな?」
「それは構わないが、3人はどこにいるのだ。」
うぜーな、アステリオス。あ、アドリアーヌがこっちに歩いてくる。アドリアーヌのそばまで行って、耳元でささやく。
「怪我人を収納してきたんだけど、アステリオスに覗かれないように抑えてよ。」
「分かったわ。」
すぐに理解したようで、短い返事の後アステリオスに話しかける。
よし、今のうちにテントの中で3人を出しちゃおう。マーシェリンを連れてテントに入る。
一人目は巣穴に連れ込まれる寸前の騎士だな。【門】から取り出し即座に原初の女神の治癒円を発動。こいつは全身鎧の腹に大穴が空いてる。魔法の槍でも食らったかな。
マーシェリンが兜の部分を外してる。死人のようだった顔色が生気を取り戻しつつある。こいつはなんとか助かるな。生死を確認してなかったのが一人いるんだよな。それが心配だよ。
腹の大穴は塞がって、呼吸も落ち着いたようだ。
次に出したのが、死んでるかもって思った奴。鎧を全て外し心音を聞く。案の定、心停止だ。
心臓マッサージをやって蘇生するかな。心臓マッサージも胸の上から圧迫する方法じゃない。開胸心臓マッサージなんてのをドラマで見たことがあったから、直に心臓圧迫が効果が高いんじゃないんだろうか。魔力の触手を胸に差し込んで直に心臓をわしづかみ。ギュッ、ギュッと圧迫をかける。触手で胸を圧迫させ離す時にコナンの口で人工呼吸。一気に息を送り込む。
「ショウ様っ!! 何をやっているのですかっ。その男はもう死んでます。死者への冒涜です。おやめ下さいっ!!」
「マーシェリン、黙って見てろっ。」
マーシェリンは口を押さえ黙り込む。アドリアーヌが入ってきてすぐに気がついたようだ。
「心停止ね。私が胸を圧迫するわ。」
「たのむっ。」
「ア、アドリアーヌ様まで・・・・・・・」
なんとか心臓は動き出した。自発呼吸も始めた。後は治癒円を展開、発動。なんとか助かったようだ。
「ショウ様っ、どういうことなのです。この男は確かに死んでました。何故生き返ったのです。神の奇跡だとしか思えません。」
「これが、医療というものだ。治癒魔法とは全くの別物。神の奇跡ではないから必ず助けられるというものでもない。でも他の奴らに言うと神の奇跡にされてしまうから、黙っておくようにね。
アドリアーヌもお疲れ様。」
「いえ、助けることができてよかったわ。ここに寝てるのは二人だけど、もう一人はどうしたの。」
「もう一人は怪我はしてるけど、元気だと思うよ。悲鳴を上げながら収納したからね。」
【門】を開き最後の一人を出す。
「ああああぁぁ―――――・・・・・・・・ ????? あれ?」
「ほら、元気だろ。」
「元気だけど鎧がひどく焦げてるじゃない。やけどしてるんじゃないの?」
「何事だっ!!」
悲鳴を聞いてアステリオスが飛び込んで来た。アドリアーヌに止められてテントの前で悶々としてたんだろうね。
「だ、団長、ここは一体どこなんですかっ。ありっ!! ありはっ、どこっ!!」
「ここは野営地のテントの中だ。おまえはどうやってここに来たんだ?」
「どうやって? ありに襲われてて、突然後ろに引っ張られて、宙を飛んで、そしたらここですよ。わけが分かりません。」
種明かしはしないけど、安心はさせてやろう。
「大丈夫だ。全員生きて戻った。おまえも鎧を脱いで治癒魔法を受けろ。」
「うっ、ううぅぅ、ありがとう。もう生きて帰れないと思ったんだよ。妻の元へ・・・・・ 子供の元へ帰れるぅー・・・・・ 」
男泣きの騎士はほっといて、アドリアーヌとアステリオスを呼び一緒にテントを後にする。テント内の騎士3人はマーシェリンに後を頼んでおけばいいかな。
3人で歩きながら今後の対策を話す。
「あの蟻ども、『カラードアント』と呼べばいいのかな。奴らへの対策を考えずに無策で戦いを挑めば全滅の可能性もあると覚悟はした方がいいよ。」
「ショウ、その『カラードアント』というのはそんなに強いの。この騎士団の状況はひどいわよ。」
「アドリアーヌ、騎士団の戦い方は私に任せなさい。」
「『カラードアント』はそれほど強い魔獣じゃないんだけどね。数が多いのと様々な魔法を使うんだ。中には仲間を治癒する蟻もいた。」
「なんだとっ、まさか・・・・・」
「このまま放置はできないと思うし・・・・・ 隊長クラスを集めて対策会議を開いた方がいいと思うんだ。」
「わかった、集めよう。あの大きなテントで待っててくれ。」
腹が減った。昼飯も食わずにバトルしてたんだよな。腹も減るわけだ。でも、コナンの中で身動きしていないんだけどね。
「腹減ったよ。」
「あら、それじゃあ、時間の空いてるうちに食事を済ませましょう。あ、ショウが食べられるものはあるかしら。スープにパンを浸して柔らかくしてあげれば食べれるかしら。」
アドリアーヌと連れだって歩いていたら後ろから、マーシェリンが追いかけてきた。
「コナン様、先ほどの3人は他の騎士に任せてきました。」
「あ、マーシェリン、お昼のお弁当を持っていたよね。おなかすいたよ。ご飯にしよう。」
「それなら会議用に張ったテントの横が、食堂用のテントよ。そこへ寄りましょう。」
人目につかない物陰でコナンを解除、ショウの姿に戻る。マーシェリンに抱かれてテントの中に入った。さすがに人がいっぱいいるところで、コナンが消えて赤ん坊になるのを見せるのは目立つだろうと思った。
でも、違う意味で目立った。騎士達がひそひそとささやいてる。
「なんでこんな危険な所に子供がいるんだ?」
「あの子?・・・・・ アドリアーヌ様が養子に迎え入れた子じゃないのか。マーシェリンが護衛してるって言ってた。マーシェリンが抱いてるし。」
「いや、でも、こんな所に連れてくる意味が分からないぞ。」
「治癒を受けてる連中に聞いたんだけどな、マーシェリンと共闘してた剣士がいるらしいんだよ。きっとあの子を守るために駆けつけるんだよ。だからあえて連れてきたんじゃないか。」
「剣士の話は私も聞きましたよ。とんでもなく強いらしいですよ。その剣士とマーシェリンのおかげで全員生きて帰れたって言ってましたよ。」
噂話が聞こえる中、マーシェリンがうつむきながらモゴモゴと、冷めたお弁当を食べてる。自分の噂話が聞こえて恥ずかしいんだろうか。
大活躍だったんだから、そんなにうつむかなくても堂々とすればいいのに。
「ショウ様、温かいスープをお持ちしました。」
「ショウ様の椅子も用意しましたが、いかがなさいますか。」
「ありがとう、助かるよ。」
アドリアーヌの膝の上に座ってるんだけど、低くて食べにくい。やっぱりこの専用椅子が落ち着くね。
アドリアーヌの護衛達は、全員ここに来ているようだ。護衛対象がここにいるんだし。前線には出ず、後方支援だね。
温かいスープをスプーンですくって口に運ぶ。あ~、暖かい。おなかの中が暖まる~。おなかだけじゃないよ。うわ~、手まで温まってきた~・・・・・・・ ん? 手が温まる?・・・・・・・




