表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/154

73.カラードアント

 騎士団は何日かの捜索の上、森のかなり奥まったところに魔力の澱みを発見した。森のへりから三日ほど歩く距離だったと言っていた。

 三日程といってもその場所に向かって三日間歩いて行ったわけじゃない。捜索しながら歩いて行くんだから、倍ぐらいの日数を費やしたようだ。

 その澱みは騎士団が解消したようだが、把握できていない『カラード』の魔獣が発生してるかもしれない。その危険性を考慮して、魔獣探索に森の上を騎士達が従魔で飛び回っていた。

 その騎士達の野営地がこの山頂になっていた。

 勝手に使うんじゃねーよ、と思ってもしょうがない。テルヴェリカ領の皆様のために日夜頑張っている騎士達を追い出すわけにも行かず、お互い譲り合ってこの場所を使っている。とは言っても、昼の食事休憩の時しか顔合わせないんだよね。俺は夜は自分の部屋へ戻るし。

 騎士達のいない間に、木を()ぐ、収納する、を繰り返す。


 山頂の木を()いだ空き地が二町ぐらいになったかな? 6,000坪ぐらいだな。それがまだ平らにはなっていない。山状になっている。ここを平らに整地するとなると、とんでもない土の量を残土として麓へ降ろさなければいけない。

 二段にするか。二段に盛った超豪華デコレーションケーキみたいな形はどうだ?

 下の段はこの山そのもの、上の段は土魔法でまわりの土を削って、削った面を石垣に加工しよう。削った土は石垣の中で締め固めて強固な地盤にすれば建物を建てても安心出来る。

 さて、その工事に取りかかるにあたって邪魔なものが・・・・・  騎士達が野営用のテントを張りっぱなしなんだよな。山頂部の中央あたりにテントが集まってるし、なんとかテントのあたりは土をかぶせずにいけるかな。

 土を削り、石垣を作り、残土を石垣の中側へ積み上げる。その魔法円は麓で石壁と堀を作る魔法円より複雑になったな。

 よし、準備OK、土魔法を発動。歩きながら石垣を作っていくその後ろは、山の斜面が削られ、デコレーションケーキの一段目の平らな部分ができていく。

 騎士達はさっき昼食休憩を終えて出ていったばかりだから、帰ってくるまでにはまだ時間があるだろう。

 一段目の平らな部分をぐるっと半分ぐらい廻ったところで、一度山頂に登りテントを全部収納して、一段目の平らなところに設置し直す。

 これで問題無く工事を続行できるぞ。


 なんとか夕方までに石垣を一周作り終えた。山頂の山盛りになった土は明日にしよう。石垣には水抜き穴も作らないといけないな。いろいろやることがあるな。


 次の日は石垣に水抜き穴を空けまくった。土魔法で作った石垣だから水の漏れ出る隙間も無いと思うんだ。水が出てくれないと石垣崩落の危険性もあるしね。これは崩落防止対策だ。お昼休憩の後は山頂部の整地をしよう。


 領都の方角からリベルドータが飛んできたようだ。他にももう一人、イブリーナか。そうか、お昼時か。

 リベルドータとイブリーナがアドリアーヌの収納袋から、パンを詰め込んだバスケットや鍋や食器類を取り出しテーブルに乗せていく。

 そろそろ騎士達が昼休憩で戻ってくる頃合いか。

 続々と騎士達の従魔が戻ってきているが、様子が昼休憩のようではない。緊迫した雰囲気の中で騎士が叫ぶ。


 「リベルドータッ、連絡魔道具がテントの中にあるっ!! 治癒魔法を使える者を手配してくれっ!! 他には騎士団の増援を頼むっ!!」


 従魔で飛んできた騎士達は、乗せてきた血まみれの騎士をその場に次々と放り出して森に戻っていく。森の奥で何かが起こっている。


 「ショウ様、どうしましょう。」

 「リベルドータは治癒は?」

 「できます。」

 「じゃあ、イブリーナが連絡をっ。この場は俺達3人でなんとかするっ。」


 そう、イブリーナは治癒が使えない。リベルドータとマーシェリンと俺、3人で応援が来るまでなんとか切り抜けよう。イブリーナがテントに向かって走っていく。


 「重傷者は俺が診る。重傷者がいたら呼んでくれ。」


 腕が無かったり足が無かったりする中で最も危険なのを見つけた。首からピューピュー血が噴いてる。あ、これもう完全死ぬぞって奴に、原初の女神の治癒の魔法円を発動。なんとか間に合ったか? 頬に赤みがさしてきた。さすが原初の女神の治癒だ。

 次は手や足を失った奴らだな。こいつらにも原初の女神の治癒円を展開。おおー、すげー、部位欠損も治癒するのか。でもあまり乱発はできないぞ。持ってかれる魔力量ハンパねー。今のところ溜め込んだ魔力でなんとかなってるけど、使い切ったら倒れるかもしんねー。

 マーシェリンとリベルドータを確認すれば重傷者で手一杯のようだ。重傷者は俺が診るって言ったのに・・・・・・・  よく考えたら軽傷者がここにいるわけがない。騎士達が、かすり傷を負いましたので戦線離脱します、なんてことを言うわけが無い。ここに放り出された者達は戦えなくなった重傷者しか転がっていないんだ。

 とりあえず、最も危険そうな者達は生命の危機は回避できたと思う。骨折ぐらいなら後回しでもいいだろう。


 「マーシェリン、リベルドータ、後は頼むっ!!」


 コナンの体を纏い、宙を駆ける。騎士達が飛び去った方角へ飛んでいけば、負傷者を運ぶ騎士達とすれ違う。

 これだけの負傷者が出るなんて、一体なにと戦闘になってるんだ?

 高木の生い茂った森を越えた先には低木の群生地が広がっている。かなり離れた所に火の手が上がっている。まさか、森の中で火魔法を使っているのか? 自分が火に巻かれる事を考えないのか。

 近づくにつれ戦闘範囲の広さに驚く。軍隊と戦っているとでも言うのだろうか。あちらこちらで魔法が飛び交っている。

 戦闘区域に到着した途端、下から風の刃が飛んできた。よけながら魔法を打ち出した相手を探せば・・・・・? アリ? 成人男性ぐらいのサイズだ。毒々しい程の黄色に染まった蟻。『イエローアント』と呼べばいいか。このまわりは全て『カラードアント』との戦闘なのか。

 こちらからも風の刃を飛ばす。見事に命中、首がポロリと落ちる。それほどの強敵ではなさそうだ。しかし騎士団はこの数におされているんだろう。

 まだ胴体と足がジタバタとうごめいている。落ちた首はどうなんだ? 複眼にギロリとにらみつけられたような気がした。背筋に悪寒が走りその場を飛び退く。俺が立っていた場所に風の刃が通り過ぎる。首を落としても即死せずに反撃するのか。騎士達はこの反撃を食らっているのだろうか。

 魔力の触手を槍状にして蟻の頭に突き立てる。この頭は生命活動を止めたようだ。もう反撃はしてこない。こいつらは脳を破壊しないといけないようだ。

 向こうから赤い蟻が向かってくる。『ファイヤーアント』か? それとも『ヒアリ』?

 うわっ、火の玉打ち出してきたよ。こいつらが森に火を付けてるのか。

 向かってくる『ファイヤーアント』の頭に触手の槍を突き立て・・・・・ 脳を破壊したのに向かってくるよっ!! 体はまだ死んでないって事?

 横に躱しながら剣で片側の3本の足を切り落とす。残った3本の足をジタバタさせて地面をぐるぐる廻っている。

 一撃で即死にできない。反撃される。かなり戦いにくい魔獣だ。騎士達の怪我も理解出来た。


 「ショウ様っ!!」


 ペガサスからマーシェリンが跳び降りてきた。


 「怪我人はどうしたんだっ。」

 「私はショウ様の護衛騎士ですっ。ショウ様のおそばでお守り致しますっ!!」


 まあ、来ちゃったんだからしょうがない。マーシェリンにも戦闘に参加してもらおう。


 「こいつらは、頭を切り落としても魔法を撃ってくる。頭に剣を突き刺して脳を破壊しろ。脳が破壊されても体が動いて突進してくる。足を切り落とせっ。」

 「了解しましたっ!!」


 俺とマーシェリンが併走する。前方に現れる色とりどりの蟻を、俺の触手が突き刺しマーシェリンが剣で足を切り落とす。うん、いいコンビネーションだ。

 一人の騎士が複数の蟻と対峙している。酷い怪我を負っているようだ。全ての蟻の頭に向け触手を突き立て、抜いた触手で騎士を絡め取りそのまま手元へ引き寄せる。

 騎士の悲鳴が聞こえたが知ったこっちゃない。怪我人は戦線離脱だ。俺の手元へ飛んでくる騎士を、【門】を発動させて【異空間収納】に放り込む。この中は時間停止状態だから瀕死の重傷でも死ぬことは無い。出した時に治療してやろう。

 生命体は収納出来ないのでは? などという疑問もあるだろうが、そもそも俺達が存在するこの世界を構成する魔法円を素にして創った【異空間収納】なんだから制限などあるわけがない。何でも放り込めれる。



 マーシェリンも複数いた蟻の足を全て切り落としていた。


 「怪我人を収納してしまって大丈夫なのですか?」

 「俺の収納は大丈夫だけど、マーシェリンの収納は駄目だからね。」


 そう、マーシェリンに持たせているウエストバッグは時間が経過する。そんな中に怪我人を収納したら、中で死んでしまうかもしれない。後でしっかり説明しなきゃいけないな。

 騎士が倒れている。怪我人なのか死人なのか分からないけど収納していく。死んでいたら丁重に弔ってあげなきゃいけないし。

 騎士が5人で戦ってる。魔法を撃ちまくってる。相手は? 数が多い。まわりを囲まれそうだ。

 蟻の中におかしな動きの個体がいる。白だ。シロアリですかっ!! ってシロアリは蟻とは種類も形状も違うんだけどっ!!

 だけどこいつは『カラード』の蟻、『ホワイトアント』か。

 こいつの動きが、騎士の魔法でダメージを受けた蟻に寄り添う、ダメージを受けた蟻が元気になる。

まさか、治癒してるのか? こいつを先に倒さないと騎士が全滅するぞ。


 「マーシェリン、後ろにいる白い奴、治癒を使ってるっ。先に倒すっ。マーシェリンは近くの奴をたのむっ。」


 触手の槍が宙を走る。騎士達の向こう側、最も遠いところにいた『ホワイトアント』の脳天を穿つ。これで蟻の治癒を防げるだろう。

 他の蟻達も次々に脳天を突き刺していく。騎士達の中に走り込むマーシェリン。踊ってでもいるような華麗な剣さばきで蟻の足を切り落としていく。

 程なくその場にいた蟻どもは片付いた。


 「マーシェリン、この方は?」

 「コナン様です。援護のために駆けつけました。」

 「そ、そうか。助かる。・・・・・  何故半裸なのだ?」

 「そのような()(まつ)な事に気を取られている暇は無いでしょう。他の騎士の方々はどうされました。」


 マーシェリンが喋ってる間に、怪我をしている騎士の治癒に廻る。


 「怪我人はほとんど野営地に運ばせたつもりだが、まだ倒れているものがいるかもしれん。撤退ができない状況だ。」

 「何人でこの森に入っているのでしょう。」

 「48名だ。12名一班を怪我人の運搬に飛んでもらっている。」


 怪我人運搬は2回行ったはずだ。そっちの数が36人か。


 「じゃあ、あと12人の騎士がこの森に残っているってことか。で、ここに元気な騎士が5人、さっき俺が保護した二人、あと5人消息が分からないってことか。」

 「保護してくれたのか。ありがとう。よし、あと5人だ。みんな、しっかり探せ。」

 「ちょっと待て。むやみに動くな。被害が大きくなる。」

 「そんなことを言われても、」

 「静かにっ!! コナン様が探していらっしゃいます。」


 マーシェリンが騎士達を黙らせる。

 もう、さっきから魔力を広げて探索してる。人の魔力を探す。右手の方角に二人、戦っているようだ。蟻は? 5匹か、危険だ。指を指し騎士達に伝える。


 「この方角、約70m、二人戦っている。敵は蟻が5匹。急げっ!! 白い蟻がいたら最初に倒せ。」

 「マーシェリン達はどうするんだ。」

 「俺が後3人探す。」

 「そうか、頼む。」


 騎士達は指示した方角へ走り去っていく。

 見つけた。二人が逆方向へ走っている。蟻に追われて逃げているのか。逃げているんなら余裕はありそうだ。あと一人は?

 いた、意識がないのか身動きがない。しかし移動している。餌として巣穴に運ばれているのか? 魔力はまだ感じられるが、どんどん弱くなっていく。こっちを優先して助けよう。


 「マーシェリン、こっちだ。」


 その方角へ向かえば、蟻が増えてくる。しかし俺とマーシェリンのコンビネーションは最強だ。手当たり次第に魔力の槍が蟻の脳天を貫く。マーシェリンはこちらに突進してくる蟻だけを足を切り落とし、他の方角へ走る蟻は放置だ。脳を貫いているんだから、いずれ活動は止まるんだからね。

 凶悪な(あぎと)に騎士を咥えた蟻に追いついた。その周りにいる蟻たちは俺達に気付いて向かってくる。脳天を貫き足を切り落とす。

 仲間意識は無いのか、他の蟻が倒されても振り返ることもせず一点を目指し突き進む。その先は、巣穴だ。そこへ逃げ込まれたら騎士を取り戻すことは難しくなる。

 ダッシュで追いかけ、俺達が左右に分かれ抜き去り際に、マーシェリンが足を切り落とし俺の魔力の槍が脳天から地面まで串刺しにする。地面に射止められた蟻はその場から動けず反対側に残った足であがくが、その足もマーシェリンに切り落とされ胴体だけでうごめいている。

 まだ騎士を離さなかったのは立派だと褒めてやりたいぐらいだ。

 その顎を剣で切り落とし騎士を解放して、生存確認をすれば僅かに息がある。よし、このまま収納。

 

「マーシェリン、向こうに二人いる。このまま飛んでいくぞ。」


 マーシェリンを片腕に抱き、コナンが宙を駆ける。

 マーシェリンの顔が真っ赤になって目が泳いで・・・・・・・  いかんっ。マーシェリンの攻撃力がダダ下がりしてしまった。しょうがない、後の戦闘は俺が引き受けるか。

 蟻の集団から逃げ惑う二人を発見。これは上から蟻を狙い撃ちしよう。蟻の上から脳天めがけ何本もの魔力の槍が襲いかかる。全てを脳天から地面に縫い付け動きを止めて、二人の騎士の元へ舞い降りる。


 「うわぁ―――っ!! なんだ、おまえはっ!! え? マーシェリン?」


 マーシェリンを知ってるなら話が早い。マーシェリンを前に押し出して対応させよう。


 「あれ? マーシェリン?」

 「・・・・・コナン様・・・・・  なんでございましょう。」


 顔を覗き込んでみた。ぽーっとして夢見てるような。あ、だめだ、上の空だ。


 「おまえ達は自力で逃げれるか?」

 「た、助けてくれたのか。恩に着る。ど、どこへ逃げればいいんだ?」

 「従魔を出せるんだろう。野営地まで逃げろ。残りはあと7人だ。さっさと行け。」


 騎士が飛んでいく時に、マーシェリンを預けようとしたら必死で抵抗された。


 「いやですっ!! 私はコナン様と共にいます。絶対に残ります。」

 「上の空だったじゃないか。そんなマーシェリンを連れてったら危険だろう。」

 「も、申し訳ございませんっ。もうそのような事にはなりません。連れて行って下さい。」


 きっとペガサスで後を追いかけるんだろうね。しょうがないから連れてくことにしたけど、ペガサスで飛んでもらうことにした。

 7人の騎士と5匹の蟻の戦闘だ。もう決着はついていた。

 二人で騎士達の元へ降り立ち怪我人を診る。一人が重傷、他の6人は自ら従魔で帰れるようだ。

 重傷者の外傷を治癒して連れ帰れるようにする。


 「騎士達は48名確認できたと思う。一度野営地へ撤退しよう。」

 「すまない、騎士でもないのに随分と助けて頂いたようだ。団長を通して是非とも礼をさせてもらおう。」


 帰りはマーシェリンのペガサスの後ろに乗せてもらった。騎士達の手前、俺が単体でコナンで飛ぶのを控えておいた。

 しかし、火の手が上がっているところをそのままにしたら、大規模火災に発展しかねない。マーシェリンに火の手が上がっている所や煙の立ち上る場所を飛んでもらい、その上に巨大水球を落としていく。これで火災は防げるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ