6.いざかまくら?
このヤギの群れと行動を共にして、どのくらいの日が過ぎたんだろう。こんなに長くなるとは思ってなかったから、何日経ったのか記録してないんだ。勘で言えば2ヶ月は超えているんじゃないかと思う。
子ヤギ達ももう子ヤギではなく、親と同じぐらいのサイズに成長している。その間随分とヤギのお乳に助けられた。
その代わりに、襲ってくる様々な魔獣共を倒して守ってきた。おかげで光る石が二つの革袋にいっぱいになった。数は数えてないけど、これだけあれば人里に辿り着いたときに、生活に困ることも無いだろう。
コナンの活躍が凄かったんだけど、中でぬくぬくしているしている俺の運動不足があまりにも酷く、かなりふくよかな体形になってしまった。ような気がする。
ヤギのお乳は栄養価が高いのだろうか。
運動しなければと思っても、それが出来ない。赤ん坊の運動って這いまわることしかないんだけど、この2ヶ月くらいの間にどんどん気温が下がり、雪が降り積もってしまった。この気温のなかで這いまっわたらあっという間に凍え死ぬだろうし、まだ這う月齢でも無いか。
生まれてから半年以上経ってからかな? ようやく首が座るかなってぐらいなのに、赤ん坊の体を酷使し過ぎじゃないか? いや、酷使してるのはコナンなんだけどね。中でぬくぬくしているだけです。
よく意識を失った様に眠り込んだりするんだけどね。これって魔力の使い過ぎで、疲労して意識を失うのかな。
体内の焼けるような熱は、無くなったわけではないけどだいぶ解消されている。魔力消費によって熱が外に出ていく感じで、意識を失うほどの魔力消費の後は、魔力の容量が大きくなったような感じが・・・ しないでもない。
今現在は、コナンのパワーで、降り積もった雪を山のように盛り上げて硬く固め、穴を開けて中で洗浄魔法を使い溶けた雪ごと水が消え去れば、中に空間が出来上がる。それを数回繰り返し、徐々に中の空間を広げ、巨大なかまくらを作り上げた。外側は降り積もった雪に水魔法で大量の水を降り注ぎ凍らせて、外壁の強度を上げる。それを数回繰り返せば、どんな魔獣が襲ってきても簡単に破られないぐらいの強度が出るだろう。襲われても入口一ヶ所を守れば大丈夫だ。
これだけの建築物を作り上げたんだから、命名しよう。
『いざかまくら』 入り口横に彫ってみた。どういう意味だっけ?
『いざかまくら』の中でヤギ達と寒さを凌いでいる。群れを守るために何度も彼らの目の前で戦ったせいか、気を許してくれたようでコナンのままでもお乳を搾らせてもらえるぐらいに仲良くなった。もう俺達、家族だぜ。
で、このヤギの群れは何故こんな雪深い所に来てしまったんだろう。魔獣に襲われ、進む方角を無理やり変えられたりもしたと思うけど、普通に考えれば暖かい方角へ向かいそうなもんだと思うんだけど、こいつらアホなの? こんなに雪深いと餌も食べれない状態だよ。『いざかまくら』の中は雪を溶かして地肌が出てるから草があるけど・・・ 雪の下でも草が残ってるもんなんだね。
もしかしてこのヤギ達は魔獣の餌としての存在? 助けなくても良かった? 雪解けの季節になると、ポップアップしてくるの?
いやいや、例えそうであったとしても、これだけの長い間を共に過ごしお乳を飲ませて頂いている俺としては、何が何でも守ってあげたい。それだけの情が生まれてしまった。
突然の危険を知らせる警報が鳴り響く。鳴り響くとは言っても、俺の頭の中だけ。魔力を薄ーく広ーく広げているだけで、そこに敵意むき出しの敵対生物が引っ掛かると、脳内アラームが鳴り響く。
それで、今回そこに感知した敵対生物がヤバい。デカいんだ。それが2体。どれくらいのサイズなのか、ここからでは把握できないが、とにかく巨大で敵意むき出しの魔獣が、わき目も振らず一直線にここに向って来る。進む方角がぶれないんだ。
あんなのがぶつかってきたら、頑丈に作ったつもりの『いざかまくら』でも一撃で砕け散りそうだ。
打って出るしかないか。ここを戦場には出来ないな。
まだ魔獣との距離があるうちにかまくらから飛び出し、雪上を駆ける。そう、雪に埋もれる事無く雪上を駆ける。この魔力で作りあげられた肉体は、ジャンプをすれば宙を飛ぶように、走れば雪の上でも駆抜けられるようになった。どんな魔獣が来たって、負ける気など全くしない。
魔獣に近づいて気が付いた事が・・・ 魔獣の後方上空にもう二体、何か飛んでる。そっちは小さいから簡単に倒せそうだけど、今まで空飛ぶ魔獣なんて見たことも無かったぞ。
魔獣を目視した後、後方上空を確認。
えええええ――――っ?! ペガサス??? しかも中世ヨーロッパの全身鎧みたいなのを着た奴がまたがってる。メルヘンというか、ファンタジーというか、 いや、それよりもあれ人間だよね。鎧型魔獣とかいわないよね。この世界に来て初めての、人類との邂逅なのか。
ガシ―――ンッ!!
魔獣が口を開けて噛みつきにきた牙を剣で受け止める。口がデカいから剣をデカくして対応する。
全身鎧の何者かがペガサスを駆り、女性の声で何か叫んで切り込んできた。
え? 助けてくれるの? うん、それほど必要では無いな。言葉が分かんないから連携も取れないし。
と思ってたら、剣を抜きペガサスから飛び降りそのまま切り掛かり、魔獣の片目を切り裂いた。
チャンスッ!!
片目を切られてのけぞった魔獣に向ってジャンプ、喉元目掛けて剣を振り上げる。喉に達する瞬間、剣に魔力を流し込み一撃で切断出来るほどの長さに伸ばし、全力で振りぬいた。綺麗に首が飛んでいく。その時に気が付いた。俺の剣の動きと飛んで行く首に、目を奪われている女騎士。ヤバい。雪上に落ちる前に回り込んでいたペガサスの上に着地。その高さは雪を巻き上げるぐらいに低い。
デカい魔獣の陰に隠れるように動いていた、一回り小さな魔獣。小さいとは言っても首をはねた魔獣に比べればというだけであって、全長は20mぐらいあるし頭の高さが7mを越している。そいつが突然牙を剥きだして襲い掛かって来た。俺ではなかった。加勢に来た全身鎧の女騎士が、その牙の餌食になった。彼女が乗っていたペガサスごと噛みつき首を振っている。
おおおお―――――――――っ!!!!!!!!!!!!!!!
吠えた!俺は吠えたっ! 俺を助けに来たこの女騎士を救わねばっ!!