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44.お仕置きを受けます

 アンジェリータ様の騎士達に運ばれ、ベッドに寝かされたショウ様とマーシェリンを見れば、酷い有様です。顔中に血を流した後があります。

 ヴァネッサ様が血で汚れたショウ様のお召し物を着せ替えようとしましたら、息を飲みました。排泄物が真っ赤に染まっているのです。俗に言う血尿、血便という物でしょうか。大丈夫なのか聞きたくても、アンジェリータ様は図書館を出たときに、従魔を出し飛び去ってしまいました。ショウ様は大丈夫なのでしょうか。 


 突然、扉が開かれ、アドリア―ヌ様が入ってきました。アドリア―ヌ様です。アドリア―ヌ様さえいらしていただければ、何の心配もいりません。

 あ、その後ろには、アンジェリータ様が。アドリア―ヌ様をお呼びしていただいたのでしょうか。


 「また、この子は人騒がせな事をしたらしいわね。この出血の跡は何なのっ。ショウは大丈夫なの?」


 アドリア―ヌ様が、ショウ様とマーシェリンの体に手をあて魔力で探っているようです。


 「全く問題は無いようだけど、ここまでの出血をするほどの損傷って、何をしたの。外傷があるわけでもないし、体内に攻撃を受けた様子もないし。」


 私への問いでは無いような独り言のようでしたが、その問いに答えられるのは私しかいません。


 「アドリア―ヌ様、ショウ様が何かをしたわけではありません。突然、魔法円が光り何処かへ転移してしまったのです。」

「わたくしもあの部屋には何度も行っていますが、そのような仕掛けが発動したこともないし、他の領主からも聞いたことありませんね。」

 「そうはおっしゃられても、わたくしの目の前で魔法円が光り輝き、その光と共にこの二人が戻ってこられたのです。」

 「アンジェリータ様に調べていただいても、その魔法円が発動しないのは、わたくし達を遙かに超えた魔力量でなければ反応しないと言うことでしょうね。」

 「アドリア―ヌ様、やはりショウ様は神々の御子なのでは・・・・・」

 「それは、ございませんわ、アンジェリータ様。本人は神の眷属になることを、とても嫌がっていますし、その道から外れるためなら、何でも試しそうな気がいたしますわ。」

 「それは、わたくしがこの王宮で、様々な教育を施し、立派な神々の御子、いえ、神の眷属として育て上げてさしあげます。」

「そのように致しますと、ショウは逃げ出しますよ。ショウは常に自由を求めているようですし、縛り付けておく手段はないと思っています。わたくしの元で暮らしていてもいずれ、自らの意思で何処かへ旅立つのでしょう。」


 国王様と領主様の会話に入ることも出来ず、只々聞き入っているだけなのですが、ショウ様は、領のため、国のために働くのではなく、何処かへ旅立ってしまわれるというのですか。私もそんな自由な旅をしてみたいものです。



 「イブリーナ、引き続きショウの護衛に付いていて。ヴァネッサとマティネータもお願いね。マーシェリンの意識が戻るまで、グレーメリーザにこちらにいてもらいましょう。ショウの意識が戻ったら連絡をちょうだい。もう一度こちらへお邪魔するわ。」

 「かしこまりました。」


 アドリア―ヌ様もアンジェリータ様も、お忙しいようです。お忙しい中をショウ様のために、お時間をを使っていただきありがとうございました。


 アドリア―ヌ様が戻っていらっしゃいました。


 「何か、お忘れ物でしょうか。」

 「アンジェリータ様がおっしゃったのだけど、イブリーナは怪我をしたまま治ってないそうじゃないの。私が治癒を施しましょう。」

 「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


 凄いです、アドリア―ヌ様。アンジェリータ様の治癒よりも、遙かに早く痛みが引きました。腕を回しても、痛みも不具合も残っていません。少しは不具合があるかも、と心配していたのですが。


 「具合はどうかしら。」

 「とても、怪我をしたとは考えられないほどです。」

 「ショウに感謝しなさい。この治癒の仕方はショウに教わったのよ。」


 ショウ様は賢いと、マーシェリンが言っていました。賢いの基準を遙かに超えていませんか。アンジェリータ様のおっしゃるように、神々の御子と言われても信じてしまいます。


 「アンジェリータ様に、連絡魔道具の間の使用許可を先ほど頂いたから、いつでも連絡をして。」

 「かしこまりました。」


 アドリア―ヌ様はリベルドータ様達と共に、慌ただしく帰って行かれました。

 ショウ様のお体は、ヴァネッサ様が綺麗に拭いて、お着替えは終わっています。マーシェリンは、ショウ様のようにお漏らししているわけではないので、そのままベッドに寝かせてあります。ショウ様が目覚めるまで、何もすることがありません。

 食事をしてきなさい、と言われ、ショウ様をヴァネッサ様にまかせて食堂に向かったら、グレーメリーザ様と一緒になりました。


 「アンジェリータ様は、イブリーナに責任はないと、おっしゃったのでしょう。あまり思い詰めない事ね。」

 「そんな思い詰めたような顔を、していましたでしょうか。」

 「表情が堅くて・・・  怖いわ。」


 パッと、顔に手を当て揉みほぐしていたら、そういうのじゃ無くてー、と・・・ 違うのですか?


 「少し休んだほうがいいかも知れないわね。ショウ様のおそばに付くのは、3人で交代で付くから、イブリーナは今晩は休みなさい。」

 「いえ、私もショウ様に付かせて下さい。とても一人で寝ていられません。」

 「分かったわ。ペルセポーノの初刻ぐらいに起こしに行くようにするわ。それまでゆっくり体を休めなさい。」

 「かしこまりました。」


 部屋を暗くしてベッドに横になっても、全く寝入ることが出来ない状況は時折あるものです。目をつぶれば、あの場面が脳裏に浮かびます。

 ショウ様を守らなければ・・・ ショウ様に手を伸ばして・・・ 僅かに手が届かず・・・ 

 自分のふがいなさ、弱さ、魔力の無さがうらめしい。

 マーシェリンの強さ、魔力量がうらやましい。

 私は、まだ鍛えれば強くなれるのでしょうか。魔力量は鍛えようが無いと言われています。ショウ様の魔力量は、アンジェリータ様が神々の御子ではと、おっしゃるぐらい大きな魔力量らしいのですが、その魔力量を持ってお生まれになったのでしょうか。魔力量を増やす(すべ)があるのでしょうか。

 悶々としながらも時間は過ぎていきます。そろそろ交代の時刻です。ショウ様の部屋へ向かわなければ。


 「イブリーナ様、起きられたのですか。休んでいらしてもよろしかったのですよ。」

 「そういうわけにはいかないでしょう、マティネータ様。交代致します。」

 「グレーメリーザ様が、イブリーナ様を起こさないようにと、おっしゃっていました。私も交代したのはつい先ほどなのです。」

 「そうだったのですか。」


 グレーメリーザ様の暖かいお心遣いが胸にしみます。


 「でも、ショウ様のおそばに付いていたいのです。ここにいさせて下さい。」

 「いいですよ・・・   それじゃ、お任せしてもよろしいですかね。寝不足は、お肌の大敵なんですのよ。」

 「あ、え、 ええ、大丈夫です。私が見ています。」

 「おねがいしまーす。」


マティネータ様、 出て行っちゃいました。あ、あの性格が、うらやましいっ!!


 小さな明かりを、一つ灯しただけの薄暗い室内で、じっとショウ様を見つめ・・・ またもや昼間の光景が、次々と浮かびます。ショウ様に手を伸ばして階段を飛んだとき、あの時は届かなかったのではなく、届かないふりをしたのではないか、本気で助けようとはしなかったのではないか。そんな恐ろしい考えに至ってしまったのです。

 あの階段の上まで吹き飛ばされる恐怖で、私の体は萎縮して手を伸ばしていなかったのではないか。そのせいでショウ様が、酷い苦しみを、痛みを受け、血まみれになって戻られたのです。ショウ様は私のことを、恨んでいるでしょうか・・・・・




 「あ―――――っ!!」


 あっ。寝入ってしまいました。ショウ様の驚きの声で、我に返ります。


 「ショウ様、どうされましたっ。お体は大丈夫ですか。」


 突然、私の目の前に魔法円が展開されました。ああ、ショウ様がお怒りです。魔法で制裁を与えられるようです。イブリーナは甘んじてそのお仕置きを受け入れます。

 魔法円が光ります。目をギュッと(つぶ)って衝撃に備えます。

 衝撃は?・・・  無く・・・ 体が温かく感じ・・・ 疲れがとれ・・・ 顔が?


 「今のは何なのですかっ。体の疲労が消えてしまったようです。体力回復の魔法でしょうか。」

 「治癒だと思ってやってみたんだけど・・・ 原初の女神が使った魔法なんだけどね。顔の腫れは治ったみたいだから、治癒でいいのかな?」

 「腫れていましたか。ありがとうございます。」

 「でも、よだれの跡は残ってるから、顔洗ってこれば。」

 「すぐに、グレーメリーザ様を呼んでまいりますー。」


 涙がこぼれそうで、部屋を走り出てしまいました。ショウ様に恨まれ、憎まれ、制裁を与えられると思っていた、私の矮小な考えがあまりにも恥ずかしく、何も気にしていなかったようなショウ様のおおらかな心に、私の涙腺は崩壊してしまいました。


 グレーメリーザ様の部屋の扉を叩きながら、涙がこぼれ落ちます。

 「グッ、グレーメリーザ様、ショウ様が・・・ ぅっ おっ、  お目覚めですっ。」


 グレーメリーザ様に中へ入るように言われましたが、テルヴェリカ領へ連絡しなければいけません。


 「それほど急がなくてもよいでしょう。まだアドリア―ヌ様も起きてはいないでしょう。イブリーナはまず落ち着きましょう。」

 「アドリア―ヌ様にでは無く、テルヴェリカ領に情報を送るのです。その情報を受けた者が、アドリア―ヌ様が起き次第情報を伝えていただけると信じて。」

 「それはいい考えですが、イブリーナの気分が高揚しすぎていると思うのですよ。少し椅子に腰掛けて、落ち着いてみたらいかがかしら。」

 「でも、ショウ様には今誰もついていません。連絡魔道具の間で連絡したら、すぐにショウ様の元へ戻ろうと思っています。その間グレーメリーザ様に、ショウ様をお願いしたいのです。」

 「マティネータは、どうしました。」

 「私が交代の刻限にマティネータ様は、自室へ返しました。」

「そうですか。ショウ様が目覚めているのなら、それほど心配する事も無いでしょう。まず、顔を拭きなさい。」


 グレーメリーザ様にタオルを出して頂きました。ずっと涙が流れ続けていたのです。ご心配をお掛けしてしまったようです。


 「そこに掛けて、お茶をどうぞ。」

 「いえ、しかし、連絡を、」

 「熱いお茶を、時間をかけてゆっくり飲みなさい。少しは落ち着くでしょう。連絡を焦る気持ちも分かりますが、報告は落ち着いて正確に、ですよ。」

 「そうでした。すこし慌てすぎですよね。ショウ様の前で泣き出しそうになったので、慌てて逃げ出してきたのです。」

 「何をそんなに慌てることがあるのです。」

 「ショウ様を助けられなかった私を、恨み、憎まれていらっしゃるのでは無いか。目覚められたら、イブリーナなどもういらないとおっしゃられるのではないか。昨日から悶々と考え続けてきました。ショウ様が目覚めたとき、私の目の前に魔法円を展開なされたのです。お仕置きをされるのだと覚悟しました。でもその魔法円は治癒の魔法でした。顔が腫れていたそうです。何も咎めること無く、治癒を施していただいたショウ様のお優しさに泣きそうになって、逃げ出してきたのです。」

 「イブリーナは難しく考えすぎでしょう。ショウ様はそこまで深いお考えは無いと思いますよ。」

 「そんなことはありません。ショウ様のお優しさに触れて、私はショウ様に尽くすと決めたのです。」

 「マーシェリンみたいなことを言い出しましたね。アドリア―ヌ様が1番では無かったのですか。」

 「う、そ、それは・・・・・  アドリア―ヌ様もショウ様も1番ですっ!! 連絡をしてきますっ!!」



 今度はグレーメリーザ様の部屋を逃げ出してきました。どちらも1番と言いましたが、今の私の中ではショウ様が1番になってしまったのですっ!!

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