表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/154

42.順序が逆.です

 十分な睡眠をとって、爽快な朝を迎えた。

 テルヴェリカ領から、イブリーナと一緒に、俺の身の回りの世話係として、新たに侍女が二人来ていた。『ヴァネッサ』と『マティネータ』と名乗った。二人とも貴族家の出らしい。ヴァネッサは、厳しそうな侍女長という感じの40代前半ぐらいか。マティネータはマーシェリンより上かな? 見た感じでは、ほんわか癒やし系? さすがに、王宮に平民のマーサを連れてはこれないらしい。

 マティネータのいないときに、ヴァネッサが話しかけてきた。


 「ショウ様が、大人の方々と同等かそれ以上の聡明さを持って会話をされると、アドリア―ヌ様より伺っております。ご用がございましたら私にお告げ下さい。マティネータはアドリア―ヌ様から何も知らされておりません。」

 「そうなんだ。その時はよろしくたのむよ。」


 ひくっと頬が動き、ヴァネッサが後退(あとずさ)る。


 「なんだ、聞いてたんじゃないの。」

 「もっ、申し訳ございません。聞いてはいましたが、このような小さなお子様が目の前でお話になるのを見ますと、やはり驚きます。」

 「これからも普通に話しかけるから、気にしないで。」

 「かしこまりました。」


 マティネータがヤギのお乳を持ってきてくれた。マーシェリンも一緒に行っていたようで、二人で部屋に入ってきたけどヴァネッサがマティネータを連れて出て行った。気を利かしたのかな。0歳児が魔力を自在に操って、一人で勝手にお乳飲んでたら驚いちゃうよね。でも面倒だよね。そのうちにマティネータにも教えておくかな。イブリーナはもう説明をされてると言ってた。マーシェリンと会話をしてるとイブリーナも普通に会話に混ざってくるようになっていた。

 おなかも膨れて、洗浄魔法で股間もすっきり。さて、王立図書館が俺を待っているぜ。


 テルヴェリカ領から持ってきてくれたベビーカーに乗せられて、揺られている。前にマーシェリン、後ろにイブリーナに守られている。さすがにマーシェリンも、他領なので周囲を警戒しなければいけないらしく、俺を抱きかかえて歩かないようだ。護衛としてはマーシェリンは一流か? ちょっと残念な所あるけど。

 でもこんなにぞろぞろと人を引き連れて、大げさすぎだよ。『マーシェリンと二人だけでいいよ。』と言ったら、ヴァネッサに却下された。


 王立図書館の受付みたいなところで、ヴァネッサが封筒の手紙を出して渡している。王様からの案内状かな? それを読んだ受付嬢は、


 「王宮から連絡を頂いております。アンジェリータ様のお客様がいらっしゃるので、ご案内するようにと、申しつかっております。ショウ・アレクサンドル・テルヴェリカ様ですね。どなたがショウ様でしょうか。」

 「こちらのお子様がショウ様でございます。」

 「それでは、小さなお子様向けの絵本が、テルヴェリカ領より届いております。そちらにご案内を致しましょう。」

 「あ、いえ・・・ ちょっと、待って下さい。」


 受付嬢から離れた物陰に連れていかれて。


 「ショウ様、どうしましょう。どんな本を読みたいのですか。」


 喋る前にマティネータを指差す。ヴァネッサが振り向き、あっ、と声を上げ難しい顔で考え込む。こういうときに面倒なんだよね。もうマティネータにも教えようよ。


 「マティネータ、驚くかも知れないけど、俺は普通の大人並みにしゃべれる。ここにいる大人達で知らないのはマティネータだけなんだ。皆、秘密にしてくれている。マティネータにも秘密にして欲しいんだけど、お願いできるかな?」


 マティネータが目をまん丸にして、俺からヴァネッサ、マーシェリン、イブリーナへと視線が泳ぐ。


 「マティネータ、命令して然るべきところを、ショウ様はお願いとおっしゃっておられます。ショウ様のお優しさを決して裏切ることのないように、私からもお願いしますね。」


 ヴァネッサの言葉に、声を発することを忘れてしまったらしいマティネータが、頭をぶんぶんと縦に振ってる。肯定と受け止めていいんだよね。


 「まず、読みたい本は、国境門の向こう側の書物があれば読んでみたい。」

 「ショウ様、そのような書物があるのですか。」

 「あるかどうかは知らないよ。でもあるのなら、向こう側の世界を垣間見ることができるんじゃないかな。」

 「それでは、そのように受付で伺ってみましょう。」




 「ございます。でも誰も文字を読めないそうですが、いかが致しましょう。」


 そうか、別次元の世界だ。言語が違うのか。誰もその言語を解明しようとは思わなかったのか。それとも、長い時の流れの中で、話せる人も、それをひもとく書物でさえも失われてしまったのかな。

 でも、ルーナレータの門の、外の世界に行きたい。その世界の言語を知りたい。ヴァネッサに、本を読みたいと言う意味で頭を縦に振る。


 「そのような書物があるのでしたら、是非拝見したいのです。拝見させていただけますか。」


 やれやれといった感じで説明を始める受付嬢。『読めないのに』とか思っているんだろうね。でも、複写して持ち帰って研究するから、いーんだよ。


 「各領の国境門に通ずる国の書物が、12の部屋に分かれて保管されています。扉には12神のお名前が記されています。その部屋に入る事を許されているのは、その国境門がある領の領主のみです。例えばテルヴェリカ領の領主様ならペルセポーナの扉しか入れません。それらを全て閲覧できるのは、国王様のみとなっています。と聞き及んでおります。」 


 この受付嬢、あなた方は入れませんよ、と宣言してるのか? 国王様にお願いして許可をもらってくるか、本人をここまで引っ張ってこないとだめなの?


 「それで、先ほどの国王様の書簡には『国王との同待遇』とのお言葉が記されておりましたので、ショウ・アレクサンドル・テルヴェリカ様は、ご希望される部屋へご案内致します。」


 なんだ、いいんですか。国王様、気を利かしてくれたね。

 受付嬢に案内され・・・ 図書館で本の案内をしてくれてるんだから、受付嬢というより、司書と呼ぶべきか。

 司書さんに案内され奥へ奥へと進んでいく。その間も説明をしてくれたが、部屋に拒否される場合があるらしい。その時は諦めてくれと言われた。部屋が意思を持っているのか?


 「ご案内は扉の前までです。そこに通じる間には、私は入れません。」


 そんなことあるわけないだろ・・・・・ とも言い切れない。魔力量が少ないとはじき出されるとか。そうすると俺だけしか入れないのか。


 この図書館の最も奥まで歩いたのだろうと思われる突き当たりの壁に、重厚そうな木製扉が俺を待ち構えていた。開けられるものなら開けてみろと言わんばかりに・・・・・

 司書さんが鍵を取り出してガチャリと解錠し扉を開ける。

 開くのかよっ!! そこで拒否されるのかと思ったよっ。


 「部屋の中央に地下へ降りる階段がありますので、そのショウ様の乗っていらっしゃる乗り物は中では使えません。」

 「それでは私が抱いていきましょう。」


 マーシェリンに抱き上げられ、さあ行きましょう、と思ったら呼び止められた。


 「お待ちください。初めてここに来られるかたににお伝えすることがございます。中央の階段は()(せん)階段になっています。下へ下りられますと円形の部屋に出ます。壁には12の扉があり、12神のお名前を記してあります。その鍵がこれです。国王様用の12個そろった鍵です。くれぐれも無くさないようにお気を付け下さい。」

 「私が預かりましょう。」


 ヴァネッサが受け取り先頭で部屋に入る。小さな悲鳴を上げて後ろへよろけるのを、マーシェリンが空いている手でささえる。どうやらヴァネッサは拒否されたようだ。後ろで見ていた司書さん、『ほらね。』といった顔をして、


 「おやめになることををおすすめします。」

 「いえ、ショウ様なら、問題はありません。」


 俺を抱いたマーシェリンは、なんの抵抗もなく入り口を通る事が出来た。後ろを見たら、司書さんびっくりしてる。子供が素通り出来たのが、驚きなのかな?


 「あ、私・・・ 入ってしまいました。」


 イブリーナは、入れるのか。それほど魔力量は大きくなくても大丈夫なのか。予想通りマティネータは拒否された。


 「ショウ様、大丈夫でございますか。マーシェリン、僅かでも危険を感じたらすぐに戻るのですよ。」

 「お任せ下さい、ショウ様は絶対お守りします。では、私達3人で行ってまいります。イブリーナ、鍵を受け取って下さい。」


 螺旋階段を下り始めたら、手すりの外に司書さんに聞いたとおり円形の部屋があるのが見える。その壁沿いに扉が並んでいる。豪華そうな木製の扉だ。

 おのおのの方角に扉が付いているのだろう。階段は・・・ 長いな、2階分の高さはある。そして、床を見ると・・・・・ これは、魔法円だ。どんな効果のある魔法円なのか見当も付かない。直径が10mぐらいだろうか、この円形の部屋いっぱいの魔法円だ。原初の女神様の(トラツプ)だったとしても、天空の魔法円に比べたらかわいいもんだ。ちょっと魔力を供給してやればいいだろう。問題はどんな効果があるのか、だろう。

不用意に最後の段から、床へ足をついたマーシェリンが口を大きく開け『あっ、あっ、あっ、』悲鳴とも嗚咽ともつかない声を上げ、床に前のめりに倒れていく。

 しまったっ!! 俺ではなく、マーシェリンの魔力を吸い出されている。マーシェリンが倒れたら俺の魔力を魔法円にぶつけてやる。

 マーシェリンは床に倒れ込む寸前、俺を床に打ち付けないようにギュッと抱きしめながら体をひねり床に自らの背中を打ち付ける。俺の手が床に届かない。


 「マーシェリンッ」


 イブリーナが手を伸ばしてマーシェリンを追う。イブリーナの足が床に着く寸前に体が弾かれたように上に向かって飛ばされていく。しかも螺旋階段なりにぐるぐると回りながら。何もないときにこのシーンを見たら笑えるような滑稽なシーンだが、そんなことはどうでもいい。今はマーシェリンが危険だ。


 「マーシェリンッ、俺を放り出せっ。」

 「ま、 護り ます。」


 クソッ、こうなったらマーシェリンの体を経由させ、魔法円に魔力を流し込んでやる。大量の魔力をマーシェリンの体を通り抜けるように流し込む。それほどの時間はかからず、床の魔法円は光が満ち、魔力の強制吸引は止まった。

 イブリーナは地下の部屋に拒否された。マーシェリンは俺を抱いていたから、円形の部屋に足を着くことができたんだろう。

 部屋は俺の魔力を感知して魔力の強制吸引を始めた。だけど、足を着いていたマーシェリンから強制的に吸引された。途中から俺が魔力供給をしたけど、それまでにかなり魔力を失ったらしく(おか)に上がった魚状態だ。口をパクパクしてる。

 この魔法円は、大きさの割に結構な魔力量を奪っていたらしい。そして魔法円に魔力が満たされ・・・ 転移トラップ発動ですかっ!!


 で、円形の部屋の魔法円から飛ばされた先は、まただよ。あの、『原初の女神様』の声だけが聞こえる空間だよ。ん? 空間でいいのか? 今度はマーシェリンまで一緒に。

 マーシェリンを触ってみたら、触った感覚がある。死後の世界、みたいなところへ魂だけが飛ばされたというわけではないらしい。



 あなたは    あなたがたは 大きな力を 望みますか


 何だ? 言い直したぞ。二人も来るとは、思ってもいなかったのか? 神様にも想定外あるんですかっ!!


 「いえ、望みません。原初の女神様。」


 その呼び方は あなたは つい先程 ここへ来ましたね 


 「天空の魔法円を満たしました。」


 順序が 逆ですね 地下を訪れ ここへ飛び 大きな力を得て 育て 天空を満たすのです


 「あ、そーなんですか。でもあの地下の本を、読みたかっただけなんですよ。それを、有無を言わさず、魔力を吸い取り強制的にここへ転移させるのは、酷いと思うんですけど。」


 そちらの娘は 大きな力を 望みますか


 相変わらず人の話を聞かないな。


 「ショウ様、私が答えるのですか。」


 あ、マーシェリンの意識が戻ってる。回復系の魔法でも掛けられたのだろうか。


 「ああ、心に思うことを読めるから、嘘を言っても分かるみたいだぞ。」

 「女神様、ショウ様が望まないものを、私も望みません。」


 では 何を 望みますか


 「何が何でも、何か押しつけるみたいだ。マーシェリンは何を望む?」

 「わ、私が望むのは、ショウ様とともにあること、それはかなっております。ショウ様の望みがかなうことが、私の望みです。」

 「じゃ、俺の望むものは、あの地下の書庫の本を読むための知識が欲しい。」


 それで よろしいのですか


 「えっ、出来るのですか。文字の連なりが単語になり、単語をつなげて文ができ、その文法の解釈まで、その全てを。」


 はい


 いきなりだっ!! ガーンと頭を殴られたような衝撃が走った。突然、大容量の知識の強制的な脳への流入。

 マーシェリンが仰向けに倒れていく。マーシェリンにまで同じだけ知識を流し込んでいるのか。マーシェリンは望んでなかったじゃないかっ。

 この知識量はヤバい。血管が切れるぞ。マーシェリンの頭に治癒の魔法円を展開。毛細血管が切れ始めてるのか? 目から、耳から、鼻から血を吹き始めた。魔法円を小さく、大量に展開。血管修復、流れ出た血液の除去。

 これだけのでかい情報量は・・・・・   データ圧縮? 出来るかどうか分からないけど、展開した治癒の魔法円にデータ圧縮のイメージをぶつける。圧縮っ!! 圧縮っ!! 圧縮っ!! 圧縮っ!! 圧縮っ!! 出来てるのかどうか、全く分からない。

 マーシェリンが、ゴホッと血とともに咳をする。内臓まで損傷してる?

 それは俺も同じか? 視界が真っ赤だ。目も耳も鼻も、口からも何かが垂れてる。頭が爆ぜそうだ。ガンガンたたかれているように痛い? 中から爆発するように痛い? 何かが突き刺さったように痛い? どこがどう痛いのか、もう分からなくなっている。でも痛い痛い痛い痛い痛い 自分の頭にも魔法円を展開、それ以外にもマーシェリンと俺を、そっくり囲うぐらいの魔法円を展開、魔力を注ぎまくる。  

 この痛みで意識を失ったりしたら、二人とも二度と目覚めることはなさそうだ。意識を保て、痛みに耐えろ、マーシェリンは絶対に守る。


 頭の中への、知識の強制流入が、突然止まった。終わったのか・・・・・ でも頭はガンガンし、身体中に痛みが広がり、奥底でずーんと広がる疲労感でとても動けない。でも、まだ治癒の魔法円に魔力を供給し続けている。そうでもしないと、頭の痛みで気が狂いそうだ。

 ふわっと風が吹いたような感じがして、俺の治癒の魔法円が全て消え去った。うわーっ!! 痛いっ!! 痛いっ!! 痛いっ!!

 また別の魔法円が二人の上に現れた。これは俺が展開させたものじゃない。なんの魔法円なんだ。魔力が注がれたようだ。みるみるうちに痛みが引いていく。原初の女神様の治癒魔法か。その魔法円に手を伸ばし魔力を注ぐ。俺でも魔力を注げるようだ。疲労まで回復しているようだ。だけど、眠い、眠くて・・・ 目を開けて・・・・・ いられない・・・・・


 地下の 書庫には もう一つの部屋が あります その部屋の書物も 読めるでしょう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ