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40.元凶はあんたですよっ!!

 もう日は高く昇り、ウルカンドラの初刻を過ぎたぐらいでしょうか。まだ約束の正刻までは早いけど、時間前行動よ。身だしなみはバッチリね。忘れ物はないかしら。


 「マーシェリン、ショウに飲ませるお乳はあるわね。」

 「はい、昨日の夜から、何も飲まれておられないようでしたので、そのまま持ってきました。」


 時間凍結の革袋ね。魔力は足りてるのかしら。


 「魔力充填はしてあるのかしら。」

 「はい、大丈夫です。朝、充填してきました。」


 アンジェリータ様へのお土産は、リベルドータが大事そうに持ってくれてるわね。テルヴェリカ領謹製、おいしいお菓子詰め合わせセットよ。これでアンジェリータ様母娘のハートをわしづかみね。


 「では、皆さん。時間は4半刻ほど早いのですが、参りましょう。」


 転移円の中に私とその護衛、ショウの護衛、全部で6人が立ち、その外にはアステリオス様が心配そうな顔で立つ。先ほどまで、『私もついて行こう。』と言ってこの転移円の間まで付いてきたんだけど、なんとか説得して残ってもらうことになった。アステリオス様が付いてきても何もやることも無いし、今回ははっきり言って邪魔ね。

 床の魔法円に手を付き、魔力を込める。魔法円が光り、部屋の景色が変わった。王城側の魔法円の間ね。


 「これはこれは、アドリアーヌ様。ようこそおいで下さいました。セバスティアンです。アンジェリータ様の元までご案内致します。」


 「ご機嫌麗しゅう存じます。セバスティアン様。侯爵様に案内をされるなんて、恐れ多いことですわ。」

 「いえいえ、領主様をご案内するのに、小姓や侍女などにさせる訳にはいかないでしょう。それこそ恐れ多いことです。あ、護衛の方々の武器類は警備の者にお預け下さい。」



 案内をするセバスティアン様の後ろを歩きながら、会話をする。少しでも情報を得ておかないと。

 

 「魔道具での会話で、セバスティアン様が『神々の御子がご降臨された。』とおっしゃっていたのですが、何故、神々の御子と思われるのでしょう。」

 「天空を輝かせた魔法円の光とともに舞い降りられ、今もなお正視できないほどに、光り輝いておられるのですよ。」


 光り輝く、ってショウは何やってんのよ。電飾のトラックみたいにピカピカしてるわけじゃ無いでしょうねっ。


 「そっ、そうなのですか。一体何が光っているのでしょう。」

 「神々の尊い魔力ですよ。」


 案内されているのがいつもの、貴賓室とか、会議室とかでは無さそう。王宮の奥へ奥へと歩き続ける。


 「どちらへ向かっているのでしょう。」

 「国王夫妻の寝所ですよ。」

 「わたくし達を寝所へ案内してよろしいのですか。」

 「アンジェリータ様がそちらでお待ちです。」


 自分たちのベッドに寝かせてそのままなのね。


 ドアの前に護衛の立つ部屋が見えてきた。

 セバスティアン様がドアをノックし、


 「アンジェリータ様、アドリアーヌ様をご案内致しました」

「入って頂いて。」


 セバスティアン様が恭しくドアを開け、どうぞと言って後ろへ下がる。


 部屋の中へ一歩入り足が止まる。唖然としてベッドの上を凝視してしまった、しかもご挨拶もせずに・・・・・


 「ご機嫌麗しゅう存じます。アドリアーヌ様。」

 「あ・・・ ご、ご機嫌麗しゅう存じます。アンジェリータ様。」


 大失態です。王に先に挨拶をさせてしまったわ。でも、目がまん丸くなるとか、開いた口がふさがらないとか、本当にそんな表現がぴったりはまるわね。ショウの廻りがまあるく光に包まれて、その光の圧力がかなり強い。


 「アドリアーヌ様、驚かれたでしょう? 時間がたっているのですが魔力の強さが衰えないのです。まだお目覚めになりませんし。」

 「え、ええ、あの、贈り物をお持ちしたのですが、護衛騎士を中へ入れてもよろしいでしょうか。」

 「あら、前に頂いた、テルヴェリカ領のお菓子でしょうか。あれは皆が大好きなのですよ。喜びますわ。」

 「ええ、さようでございますか。

 リベルドータとマーシェリンは入って。」

 「こっ、これは。」


 やはり、入ってきた二人が絶句している。


 「いかがでしょうか、アドリアーヌ様。この赤ちゃんは神々の御子ではないのでしょうか。この光り輝く魔力は、人の魔力ではありません。神々が王宮で育てなさいと、天より遣わされたのではないでしょうか。」

 「いえ、確かにわたくしが今まで育ててきた子供です。起こしてみましょう。」


 ベッドに近づき・・・・・ これは・・・・ この魔力の圧は凄いわね。なんとか耳元に口を近づけ、


 「ショウ、起きなさい、ショウ、今日はマーサがいないからお乳をあげられないわ。おなかが減っているんじゃないの。あなたが起きないと、お乳を飲めないわよ。」


 「う、う~ん」


 あっ、起きそうだわ。ちょっと揺すってみましょう。


 「ショウ、起きなさい。」

 「ん、アドリアーヌ?・・・・・ 何?」


 ぼんやりとした表情でうっすらと目を開け、焦点の合わない感じで見つめてくる。


 「おなか減ってない?」

 「あ~、減ってる。」

 「今日はね、マーサがいないのよ。だからいつものように哺乳瓶を創らないと、お乳が飲めないわよ。」

 「あ、そうなんだ。ポットある。」

 「マーシェリン、ポットを持ってきて。あ、待って、わたくしが取りに行くわ。」


 今度は、アンジェリータ様が驚いた目を向けてるわ。


 「アドリアーヌ様は大丈夫なのですか。わたくしは今のショウ様にはとても近づけません。」

 「大丈夫ではありませんわ。かなり我慢しております。

 マーシェリンは無理して近づかなくてもいいわ。」


 ショウの元へ戻りポット出せば、いつものように哺乳瓶にお乳を注ぎ飲み始める。アンジェリータ様、目玉が飛び出しちゃいますよ。


 「ショウの廻りの光っている魔力はなんとかならないの。誰もショウに近づけないわよ。」


 え? と言って廻りを見回して、


 「部屋中が金色のもやに覆われているわけじゃないんだ。俺だけなのか。」

 「それがね、魔力の圧が凄いのよ。一体何をしたのよ。」

 「ちょっと待って、抑えるように努力してみる。」


 何かを考え始めたショウをそのままにして、アンジェリータ様の元へ向かう。


 「アドリアーヌ様、わたくしは何から質問をすればよろしいのかが、分からなくなってしまいましたわ。」

 「わたくしが説明を致しますので、こちらの椅子に座ってお話を致しましょう。」

 「ああ、申し訳ございません。わたくしが椅子を勧めなければいけなかったのに。」


 今度はアンジェリータ様が慌てふためいてしまって、どうしましょう。落ち着いてもらえるかしら。


 「あまり慌てていらっしゃると、ご説明をさせて頂いても、ご理解されない事もあります。少し落ち着きましょう。」

 「そうですわね、アドリアーヌ様。落ち着かなければ。そうだわ、お茶を持ってこさせましょう。お茶を頂きながらお話を伺えば、落ち着いてお話が聞けるでしょう。」


 アンジェリータ様がドアに向かおうとしたら、ドアの外から『お茶をお持ちしました』との声がかかる。侍女が外で待ち構えていたようね。



 アンジェリータ様も、お茶を頂いて落ち着かれたご様子で、ふー、と吐息をはく。でもお茶を含んだときは話してはだめね。私みたいに吹いたらまずいわよね。


 「アンジェリータ様、あの子の名前は『ショウ・アレクサンドル・テルヴェリカ』と申します。神々の御子でも神の使いでもありません。ごく普通の赤ちゃんです。」

 「いえ、アドリアーヌ様は先ほど、あの赤ちゃんと会話していらっしゃいましたよね。それにあの輝く魔力は何なのですか。普通の赤ちゃんにはできないことだらけです。」

 「いいえ、ごく普通の、天才的な赤ちゃんです。魔力に関しては本人に、」


 ドンッ!! と一瞬叩き付けられた魔力、現実の衝撃ではなく、擬似的とも言うべき魔力の衝撃。

 ショウがまた何か、と思って振り向いたら??? 圧が消えてる 廻りを覆っていた光が いえ、それよりも、あの魔力を押さえ込む事ができたのね。


 「アドリアーヌ様、今のは一体・・・ 何が起きたのでしょう。」

 「本人に説明させましょう。」

 「説明って、赤ちゃんですよ。そんなことができるのですか。」

 「アンジェリータ様、こちらへ。」


 アンジェリータ様の手を取りベッド脇へ移動すると、ショウがアンジェリータ様に目をやり、


 「誰?」

 「ショウ、失礼ですよ。この方はこの国の王様です。」

 「ああ、今の王は女王だって本に載ってたね。

 アンジェリータ・ヴァランタイン様ですね。ショウです。」


 アンジェリータ様、口開いてますよ。


 「何故・・・ 赤ちゃんですよ。なんで、しゃべれるのですか。」

 「いろいろな本を読ませたりしまして、言葉を覚えるのがとても早いのですよ。」

 「早いと言っても限度があるでしょう。やはり、神々の御子なのではないでしょうか。」


 立ち話も何ですので椅子を持ってこさせましょう。


 「リベルドータ、マーシェリン、椅子を持ってきて下さる。」


 腰を掛けて、これでじっくりショウの話を聞けるわ。


 「何? 御子って。」

 「ショウ様、あなたは、天の魔法円から神の魔力を身に纏いご降臨なされ、わたくしが抱きとめた神々の御子なのです。」


 わたくしが抱きとめた、の圧が凄く強いですわ、アンジェリータ様


 「神の御子設定は勘弁してほしいね。助けてもらったことは、ありがとうございます。それと、ショウ様はやめてよ。ショウと呼んでくれればいいよ。」

 「そんな、恐れ多いことです。ショウ様、王宮の者達は皆そのように認識しておりますし、私も信じております。あなたは王位を継ぐ者として、この王宮で大事にお育て致します。」


 えー、って顔をして私の方を見るけど、元凶はあんたですよっ!!


 「アンジェリータ様、本人も嫌がっているようですし、テルヴェリカ領へ連れて帰りたいのですが。」

 「嫌がってなどいませんよ。あなたは王になるのです。さあ、私の腕の中へいらして下さい。」


 手をショウに差し伸べ抱き上げようとする。あら、そういう取り合いなら私も参戦しますよ。


 「ショウ、母と一緒に家に帰りたいでしょう?」


 私も同じように手を差し伸べる。あ、手を伸ばす私達を、いや~な感じで見比べてる。これは失敗かも。マーシェリンに手を伸ばさせればよかったかしら。

 ベッドの上でくるりと振り向き、ダダダッと勢いよく這っていき手を伸ばした先には・・・ やっぱりね。マーシェリンが大粒の涙を流しながら、ショウに近づき抱き上げた。


 「ショウ様っ、ショウ様っ、ショウ様っ、もう二度と置いていかないで下さい~ ずっとショウ様のおそばに~ ひぐっ おっ おいっ 置いて うぐっ  下さい~。」

 「どういうことですか。この方は護衛騎士ではないのですか。」

 「ずっとショウの護衛で付いてますから、ショウもマーシェリンのことが大好きなのでございますわ。」

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