35.ハンター登録
「あの、質問してもよろしいでしょうか。」
「ああ、どうぞ。」
「デブリコン様、は非常に変わったお名前だと思われるのですが、本名なのでしょうか。」
「世を忍ぶ仮の名前だから、騎士達とかにはデブリコンの話は絶対しないように。」
「そっ、そうなのですか。ケリーとアウラに口止めしていないのですが、もし喋ったりしたら亡き者にされるのでしょうか?」
「しねーよっ!! 喋らずにいたらいいことがあるかもって、ぐらいかな?」
「そうでございますか。しかし、ケリーとアウラには早めに口止めをしておきます。」
「よろしくたのむ。」
「あちらに見えてきました建物が、ハンターギルドの建物になります。」
あたりは暗く寝静まった町並みの中に、一軒だけ明かりの灯った建物が見えてきた。たかが猟師組合の建物だと思っていたけど、意外に大きい?
「これで食肉ギルドよりも小さいのか?」
「食肉ギルドは事務所が小さいのですが、倉庫が大きいのです。」
「あ、そうなの。なんでハンターギルドだけ明かりが点いてるんだ?」
「夜行性の獲物を求めて、今も3組ほどハンター達がハンティングに出ていますので、夜中でも職員を常駐させております。」
アートが、ギシィ、と軋ませながらドアを開ける。蝶番、油差せよ。
「中へどうぞ。」
「いや、俺、始めて来たんだから、アートが先に入って案内しろよ。」
「そ、そうでございますか。ではわたくしが、先に入らせて頂きます。」
なんだか、見たことあるような・・・ 郵便の簡易局の受付みたいな感じ? カウンターの向こうは深夜のせいか、男が一人しか人がいなくて、しかも机に突っ伏して眠りこけてる。
「おいっ、起きろっ!!」
「ふがっ、・・・ あ? あれ? アート隊長、どうしました? え、まさか、誰か怪我でもしましたか?」
ああ、そうか。門番がわざわざここまで来てるんだから、ハンティングに出てるハンター達が怪我を負って命からがら逃げてきたのを、知らせに来たとでも思ったか。
「そうじゃない。たしか今日はギルドマスターが夜番で詰めてると聞いたが、大至急ギルドマスターを呼んでこい。」
「え~、2階で寝てますけど、起こすと機嫌が悪いんですよね。」
「御貴族様が夜の狩りに出掛けられて、獲物を持っていらっしゃっているのだ。さっさと叩き起こしてこい。」
「もう、こいつでいいよ。」
「いえ、デブリコン様。こういう事はその場の長にさせなければいけません。」
「じゃあ、俺が門の前に置いてきた物を取りに行ってる間に、起こしといてくれ。」
「分かりました。」
アートがカウンターの中を振り返り、
「名は何という?」
「オ、オバル・・・ です。」
「そうか。オバル、デブリコン様を解体場まで案内を頼む。くれぐれも失礼のないようにだぞ。」
「い、いえ、マスターを呼んだ方が、」
「デブリコン様のご指名だっ!! さっさと動くっ!!」
「は、はい~」
貴族だと聞いていきなり腰が引けたな。この国では貴族ってそんなに怖がられているのかな。今度アドリアーヌに聞いてみよう。
「そんなに怖がらなくてもいいだろう。解体場まで案内するだけだし。」
「そ、それだけでよろしいのでしょうか。」
ハンターギルドの建物に併設された解体場に案内されれば、なかなかの広さがある。これなら全部持ってきてもまだ余裕がある。
それじゃあ、転移で持ってくるか。
「オバル、後は勝手に持ってくるから、事務所に戻っていいぞ。俺が事務所に行くまで、この部屋に入らないほうがいいな。」
「は、はい。事務所にいます。」
オバルは走って戻っていった。それじゃ、俺は転移で門の前へ、そのまま魔獣の死体と一緒に解体場へ転移。事務所に歩いていけば、オバルが声高に叫んでいる。
「だめですっ。解体場へは入らないようにと、デブリコン様に指示されています。こちらで待っていて下さいっ!!」
「ここは、ハンターギルドで俺はギルドマスターだっ!! そのギルドマスターを閉め出そうとはどういう了見だっ!!」
「ちょっと待て。デブリコン様は閉め出そうとしたのではない。何か平民には考えも及ばないような事が起こるから、入るなと言われたんだと思う。もう少し我慢してくれ。」
「なぜ私は深夜に連れてこられたんだっ。何の騒ぎだ、これは。」
「ハンターギルドでは入らないと思って、食肉ギルドの倉庫に入れようと思ったのですよ。」
「ああ、もう入ってもいいぞ。しかし、大人が何人も集まって、こんな深夜に騒ぎすぎじゃないのか。静かにしろよ。」
「誰のせいだ――――っ!!」
がたいのいい厳つい顔のスキンヘッド?・・・ ハゲ?・・・ が、食って掛かってきた。それをアートが慌てて止める、んじゃなくて、いきなり殴り倒した。乱暴な。
「申し訳ありませんっ。この男には、後ほどしっかりと言い聞かせますので、切り捨てることだけはご勘弁をお願い致しますっ。」
「しねーよっ!! 俺に接する態度、極端だよっ。平民として接してくれよっ。」
「いえ、しかし、今の勢いでこのライトが突っ込んでいきましたら、デブリコン様にお怪我が、」
「この程度のやつが突っ込んできたって、あの巨大イノシシに比べたら可愛いもんだよ。って、そんなことは些細なことだ。今この場で一番の問題は、こいつの名前はライトと言うのかっ。」
アートの態度で、身分が高いのではと感じたのかもしれない。いきなり振られて、今はおどおどした感じのライトが、
「は、はい、ハンターギルドのマスターのライトと申します。」
ビシッとライトの頭に指を指し、
「ライトの頭がスキンヘッドなのは、ウケ狙いなのですかーっ!!」
「ブフッ!!」
誰か吹いたぞ? 同じ事思ってた奴は・・・ オバルか。
「いえ、決してそんなつもりはありません。単に洗髪の手間を減らすためです。」
「あ、そうなの、ふ~ん。で、こっちのじいさん、誰?」
服装も顔も、今まで寝てました感がハンパねー。すっげー不機嫌そうな顔してる。あ、食肉ギルドのマスターか。
「食肉ギルドのマスターをさせて頂いております、ミックと申します。よろしくお願い致します。」
「肉やのニックじゃないんですかーっ!!」
「いえ、わたくしは、ライトとは違いますので。」
「ブブ――ッ」
またオバルか、ツボにはまったか? しゃがんで腹を抱えてプルプル震えてる。
「もうこいつは放っといて、解体場に行こう。」
「そうで御座いますな。私が夜中に起こされるほどの獲物を拝見しに参りましょう。」
「じいさん、イヤミか? 小物しかいないから、じいさんはもう帰ってもいいぞ。」
「いえいえ、滅相もない。そのようなつもりは全くありませんよ。せっかくここへ来ておりますゆえ、どんな獲物でも一目見させて頂きましょう。」
通路を抜け、解体場の扉をライトが開ける。
門番のアートとアウラ以外が息を飲む。
「デブリコン様・・・ こ、この・・・ ビッグボアーをまさかお一人で? 他にもパンサーやウルフまで・・・」
「そうだ、肉やのミック。小物ばかりで申し訳ないが。」
「あの、『肉や』は付けなくてもよろしいのですが、ミックとお呼びください。お一人でしたので、まさかこんな大物をしとめられるとは思ってもおりませんでした。しかも、この大量の獲物をどのように運ばれたのでしょう。」
「そんなことはどーでもいいから、ここへ置いて解体ができるのか。買い取ってくれるのかを聞きたい。」
「はい、喜んで買い取らせて頂きます。それと、解体ですか。
ライト、ここでこの大物は解体出来るのか? 無理そうなら、食肉ギルドで引き受けるが。」
「このビッグボアーは無理だろう。ウルフも面倒を見てくれるとうれしいんだが。こっちは人手が少ないし、今狩りにでてるハンター達も獲物を持ってくるだろうからな。」
「分かった。うちで引き受けよう。
デブリコン様、この獲物はどうやって運ばれたのでしょう。外へ通じる戸は大きく作ってありますが、このビッグボアーは通らないのではないかと思われます。」
よく見りゃ、俺たちが入ってきたドアの反対側に大きな引き戸が2枚ある。あの引き戸を全開にしても、高さが通りそうもない。しょうがない。もう一回転移か。
「それじゃあ、そっちの解体場へ案内してくれ。俺が運ぼう。門番達はもう仕事に戻っていいぞ。」
「はい、では我々は戻ります。
ミックさん、ライト、くれぐれも失礼のないようにお願いします。」
俺の炎の魔法で照らしながら、ミックと二人で真っ暗な夜道を歩く。
「デブリコン様はハンターギルドで、会員登録をされるのでしょうか。」
「会員登録なのかよ。入会特典みたいなの、付きそうだな。」
「入会特典はよく分かりませんが、今回のビッグボアーのような特殊な獲物の場合、報酬は後日計算をされて支払われますが、、ハンターとして登録されていれば、デブリコン様の名義でギルド内で管理され、いつでも受け取ることが出来ます。」
「何なら、獲物を運んだ後で登録してくるよ。」
「それがよろしいかと思われます。」
食肉ギルドの解体場に着き、ドアの鍵を開け中に入る。先程の場所より遙かに広い。
ミックが大きな引き戸を開けようとしているので、
「ああ、そこは開けなくていい。今から取りに行ってくるから。戻ってくるときに転移円に触れないように、隅に寄っててくれ。」
「え? どうやって運ぶのですか。」
説明するのも面倒だ。さっさと転移円を展開して、ハンターギルドへ転移。パンサーをよけてビッグボアーとウルフと一緒に食肉ギルドへ転移。
口をあんぐり開けて、目をまん丸にしたミックに、
「じゃ、あとよろしく。」
またハンターギルドの入り口前へ転移。深夜のおかげで寝静まってるから転移しまくっても全く問題無いね。
ドアを開けて事務所に入れば、ライトとオバルが机に向かっていた。
「取りに来られたのですか。運ぶお手伝いを致しましょう。」
「いや、もう運んできたからいい。」
「ええっ? ど、どうやって、」
「マスター、我々には理解できない魔法があるんですよ。」
「オバルは見たのか?」
「いえ、魔法で運ぶと聞いただけです。」
「会話に割り込んですまないが、ハンターとして登録しておこうと思うんだが、簡単に出来るか?」
そろそろ眠くなってきた。早く帰らないと、ここで寝落ちしたらまずい。
「はい、簡単ですよ。この用紙に必要事項を書いてもらえましたら、こちらで金属製タグを作ります。そのタグを常に持ち歩いて頂ければ、ハンターとしての身分証明になります。」
その紙を受け取り、必要事項を書き込む。
まず名前だよね。『デブリコン』、
げっ、年齢か。
「俺の年齢はどのくらいに見える?」
「えっ? 20代半ばぐらいではないでしょうか。」
なんか不審な顔で答えてくれたけど、0歳とは書けないからな~。20代半ばなら25歳にしとくか。『25歳』、次は性別、『男』、お住まいは『秘密』、えーっと、種族? ちょっと待てーい!! 人間以外がいるのか。まさかまさかの、ファンタジー生物か?
「この欄の種族って?」
「人とお書きいただければ結構です。」
「いや、そうじゃなくて、人以外の種族がいるのか?」
「昔は他国から移り住んだドワーフがいたらしいですが、絶えてしまったと聞いています。他領にはケンタウロスが生息していると聞いたことがあります。」
「絶えてしまった・・・ 他国に行けば会えるのか?」
「国境門が閉じられて行き来ができないのですよ。」
ああ、そうか。絵本にも国境門は閉じられてるって書いてあったな。うん、いつか国境門を超えてやる。
じゃ、種族は『人』、他には使用武器? 何にしようかな。カンフーでいいか。『カンフー』、その他の項目は空欄でいいや。
「こんなものかな?」
「お書きいただけましたか。拝見いたします。」
オバルが記入用紙を受け取り確認しているが、眉間に皺を寄せアートの所へ行った。あの書き込み方は、ちょっとふざけすぎか?
「デブリコン様、お住まいが秘密とはどういったことでしょう。」
「どうもこうも、ひ・み・つ」
人差し指を立てて『ひ・み・つ』とやってみたけど、おかっぱのデブがやっても可愛くなかったか。
「ご連絡などは、どういたしましょう。」
「連絡なんか無くても、俺がここへ来ればすむだろう。」
「平民が相手ならそれでもよろしいのですが、お貴族様にそれは失礼かと、」
「いや、俺の事は平民待遇にしてくれ。」
「そんなことになりますと、他のハンターと接した時に、不敬な態度をとられるかもしれません。」
「それでいいんだよ。平民の中で平民としての普通の日常を過ごしたいんだ。」
「わかりました。そのように対処いたします。ミックやアート達にも伝えておきましょうか。」
「ああ、よろしくたのむ。」
「それと、このカンフーという武器は何でしょう。」
「カンフー自体は武器ではない。武術の一つで、素手で殴る蹴るもあるが、剣、棍、槍、棒、武器は何でも使うし、暗器も色々な種類を使うな。」
「聞いたことのない武術ですね。他にもその武術を使う方がおられたりするのでしょうか?」
「いや、いないと思う。俺だけだ。」
ライトと喋っている間に、オバルがハンターの金属タグを作ってくれていたらしい。
「領都の門を出入りするときは、このハンター証を門番に示してください。」
「お、できたのか。これで俺もハンターか。」
「今夜の獲物の報酬は、ビッグボア以外なら明朝、お支払いができます。ビッグボアに関しては、肉や毛皮を売るだけではなく、領主様より報奨金が出ますので、すぐのお支払いができかねます。」
「領主に知らせるのか?」
「城の文官が確認に来て、書類を作成します。領主様の元へはその書類が届くだけですよ。」
それだけならアドリアーヌには知られないか。大量の書類の、全てに目を通している風でもなかったしな。名前だってデブリコンじゃ誰だか分からないだろ。
「分かった。その程度ならいいだろう。金の受け取りは、明朝には来れそうもないから、気分が向いたら取りに来るよ。」
「承知致しました。ご用意してお待ちしています。」
それじゃ、と言ってハンターギルドを後にして、転移で部屋に戻ってきた。
眠い、眠い、眠い、ベッドの上へ倒れ込む。良かった、人前で意識を失わなくて。ハンターギルドで倒れて寝入ってたら、アドリアーヌに・・・ ばれ・・・ る・・・・・
魔力で創られていたデブリコンの体が崩れ落ち、眠りの闇の中に落ちていった。




