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17.アドリア―ヌ あざとし

 瞼を閉じていても明るいことを感じる。脳が覚醒を始めた。多分前世の俺はやっぱり死んだんだろう。普通に記憶が無くなって転生するんなら、なんら他の子供と変わることなく成長していけると思うんだけど、前世の記憶を持ちながらその記憶はもう消えそうに無く・・・ うん、記憶が全て鮮明になった。


 忘れてしまいたい事が多すぎる。過去の記憶はあまりにも重すぎる。こんな記憶を持ったままでは、この人生に楽しい子供時代は期待できそうも無いな。

 でも前に恐れていた

 『異世界に転生:ボケた記憶を持った赤ん坊』

 こうならなくて本当によかった。一生をボケて生活するのは嫌すぎる。深夜に徘徊する子供とか、ご飯を食べた事を忘れてすぐにご飯を欲しがったりとか、同じ話を何度もしてウザがられる子供とか、考えただけでも嫌だよね。


 完全に覚醒し目を開く。ベビーベッドだ。知らない天井だ、とは言わないぞ。絶対に言わないぞ。


 「ようやく目が覚めたわね。あなた三日間目覚めなかったのよ。無意識でもおっぱい吸ってたから心配はしてなかったけど。」


 げっ!! 三日間も・・・ うんちもしっこも垂れ流し、(しも)のお世話されちゃったんですか? オムツプレイですかっ!!


 「お腹へったでしょ。お乳飲む?」


 アドリアーヌが何か指示をして、もう一人の女性が俺を抱き上げおっぱいを吸わせてくれる。早めに言葉を教わらないと何言ってるか分かんないな。


 「あなたの乳母として来てもらった、マーサよ。」



 うん、もうお腹いっぱい。ベッドに寝かされたけど下において欲しいよね。這い廻らないと筋肉がつかないんだよね。ずーっと身動きしてなかったから筋トレしなきゃ。


 「たくさん飲んだみたいね。うんち出る? ついでにオシメかえてあげるから。」


 出ない!!

 「あい!!」

 「あら出るの?」


 出ないって言ってるだろうがー

 「あいあいあいあー」


 プリプリプリ・・・  あ・・・ でた


 「あらあら、すぐに変えてあげるわね。ちょっと待っててね~」


 洗浄魔法円展開 魔力をこめて、がぼっがぼっ・・・


 「ちょっとっ!! あなた何やってるのよっ!!」


 洗浄ですが

 「え~お~あ~」


 「信じられない、洗浄魔法する赤ちゃんなんかいないわよ。マーサが驚いてるじゃない。魔法はやめてちょうだい。魔力で剣士を創るのもやめてよね。」


 えー、何にも出来ないじゃない。

 「え~あいおえいあーあー」


 「そんな非難がましい目で見ないでよ。魔法は私と二人の時だけにしてって言ってるのよ。」


 俺の言いたいこと理解できてるみたい。何か指示したみたい。マーサが出ていった。魔力の触手で机の上にあった紙とペンを取り、文字で伝えようとしたら、


 「あー、だめ、それ報告書なんだから、書き物したいんなら、あなた用の紙を用意するからそれ以外は落書きしないでね。それと大事に使ってちょうだい。紙は高いのよ。」


 そうか、高いんなら言葉で伝えるか。

 『プロテクトアーマー シ〇ワちゃん タイプ コナン〇グレート』


 「ちょっとその、なんていうか・・・ あなたを見ていると・・・ あの有名な映画俳優よね。なんて名前だったか忘れたんだけど。」

 「シュ〇ちゃんだよ。」

 「そうそう、そうよね。ずっと引っ掛かっていたのよ。でもそんなに髪が長いのを見た事がないし、その筋肉は盛り過ぎじゃない。」

 「映画の『コナンザ〇レート』の役は髪が長かったんだ。筋肉は盛ってるというかボディビル全米チャンピオンの時の筋肉だね。」


 立ち上がって、ポージング・ポージング。筋肉がミシミシと軋むような感じで膨れ上がる。


 「全米チャンピオンは分かったから、それ、暑苦しいわ。」

 「そ、それは(ひど)い。」


 アドリアーヌがソファーを指し示したので、テーブルをはさんで向かい合って座る。


 「でもマーシェリンはその筋肉モリモリが好きみたいよ。『鍛え抜かれたあの美しい肉体はもう拝見できないのでしょうか。』って悲しい顔をしてたわ。」

 「騎士団の中でマッチョマンを探せばいいのにね。」

 「ただ単に筋肉モリモリがいいわけじゃないでしょう。自分の命を救ってくれたあなたへの恩義、それに対する忠誠、そのあなたが筋肉モリモリで目の前にいたのだから、そこに愛が生まれてもおかしな話じゃないでしょう。」

 「いや、おかしいよ。俺赤ん坊だよ。筋肉全く無いよ。」

 「これからの成長で体を鍛えて、筋肉モリモリになるようにがんばりなさいよ。」

 「モリモリになる以前に、赤ん坊のままこの状態で全く動いてないんだよ。赤ん坊ってハイハイしないと筋肉が付かないと思うんだ。これからベッドじゃなく下に置いてくれる?」

 「ええ、いいけど、って、赤ちゃんのままその状態ってミルクとか、今迄どうしてたのよ。」

 「ヤギのお乳を飲んでた。」

 「あ~、かまくらの中のヤギね。」

 「え? 知ってるの? ヤギ達はどうなった?」

 「よくもあんな大きなかまくらを作ったものね。ヤギは雪解けを待って近くの村に預けられるらしいわ。」

 「そりゃ、良かった。ずっと一緒に居たから心配だったんだよね。」

 「かなり騎士達になついてたらしいけど、野生のヤギが何でそんなになついたの。」

 「他の危険な魔獣からずっと守ってたからね。」

 「それとここは土足で歩くから、ハイハイしたいなら子供部屋までマーシェリンに連れてってもらいなさい。」

 「え? なんでマーシェリン?」

 「あなたの(そば)であなたを守りたいって涙を流して訴えるのよ。専属護衛騎士に任命したから、ずっと一緒よ。今は騎士団の訓練施設にいるわ。剣を振りたかったらしいから。そろそろ午前の訓練も終わって、ここに来るんじゃない。」


 「何、嫌な顔してるのよ。」

 「いや、俺に護衛はいらないでしょ。」

 「あなたは私の養子になったの。領主の身内に護衛騎士は必ず付きます。」

 「え? 養子? いやいや、その前に領主ってなんなの。」

 「私はアドリアーヌ・テルヴェリカ、テルヴェリカ領の領主よ。あなたはテルヴェリカ領領主の養子として育てる事にしたわ。」

 「あ、そりゃありがとうございます。いや~、ヤギさん達と旅をしながら、人里に出たらどうやって里親を探そうかって悩んでいたんだよね。民家の前で箱に入って『この子を育てて下さい。』って札を立てようと思ったけど、文字がわかんなかったし、雪深い中で凍え死んだら目も当てられないしね。」

 「そんな捨て猫みたいなこと・・・・・ でもあなたが雪でかまくらを創ったあたりは人里は無かったはずよ。魔獣と一緒にテルヴェリカ領に入ってきて正解だったわね。」

 「ま、しばらくの間子育てお願いします。でも護衛なんて、」

 「護衛は必要よ。マーシェリン以外にももう一人付きますよ。今考えているのが、私の護衛のグレーメリーザをあなたに付けようと思ってるの。グレーメリーザなら、あなたの秘密を知っているし口も堅いから。」

 「アドリアーヌの護衛が減ったらまずいでしょ。俺はいらないよ。」

 「今、アステリオス様にもう一人新しい護衛を、騎士団の中から選んでもらってるわよ。何も知らない人をあなたに付ける訳にもいかないしね。」


 「それとあなたの名前なんだけど、ショウだけだと平民みたいだからミドルネームを付けて『ショウ・グレゴリオ・テルヴェリカ』か『ショウ・アレクサンドル・テルヴェリカ』どっちがいい?。」

 「却下っ!! ショウだけでいいっ!!」

 「いいえっ!! 決定事項ですっ!! 『ショウ・アレクサンドル・テルヴェリカ』に決定よっ!!」


 勝手に名前を付けられてしまった。まあいいか、ショウとしか名乗るつもりは無いし。そもそもいつ養子になったんだ? しかも領主だなんて初めて聞いたぞ。身分が高いのか。貴族なんかにならなくても、一般庶民として、この世界を旅してみたい。出て行くなんて言ったら、アドリアーヌは怒るかな?


 「貴族か・・・ 圧政を強いて、重税を課して、『パンが無ければ、お菓子を食べれば』とか、言ったとか、言わなかったとか。」

 「そんな事しませんよっ!! 過去にはそんな貴族もいたかもしれませんが、私は領民の生活の安寧(あんねい)を日々考えていますよっ!! 」

 「そんなものがいつまで続くか分からないよね。代変わりした後の領主が同じ考えとは限らないし。」

 「そ、その点については、子供達にはちゃんと教育していきますよ。」


 マーシェリンが来た・・・ というか突撃してきた。しかも泣きながら。抱きついて何か喋ってるけど意味わかんねー。涙は女の子の強力な武器になるということを、知っててやってるわけでもなさそうだ。純粋に泣いてるね。振り払ったら、俺がとんでもない悪人になりそう。


 「あなたが目覚めたことをとても喜んでいるわ。ずっと心配してたのよ。」

 「離れるように言ってよ。涙を流す女の子をふりはらえないしね。」


 マーシェリンが離れ片膝を付き、


 「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○」


 「ショウが目覚めたのが嬉しい。専属護衛騎士としてよろしくお願いいたします。って」

 「まず、言葉を教えてもらわないと会話が成立しないね。」

 「言葉の勉強なら子供部屋へ行けば、子供用の絵本もあるし、あなたの兄と姉になるウルカヌスとアルテミスがいるから、そこで子供達との会話でだんだんと覚えていけばいいんじゃない。」

 「ウルカヌスとアルテミスって神様の名前じゃないの。」

 「火の神と豊穣の神だったと思うけど、この世界の神々とかぶってないから大丈夫よ。」



 「これから行く子供部屋は、貴族の5歳以上の子供達、貴族学院に上がるまで勉強を見てあげるように作ったのよ。最初は家庭教師を付けられない、爵位の低い家の子達の学習を見るように作ったんだけど、学習レベルが高いと噂になって、裕福な家の子も参加し始めたわね。」

 「教育に熱心なんだね。」

 「剣術だけが強さではないのよ。知識も武器となりうるわ。」

 「そりゃいい考えだ。マーシェリンに言ってあげれば。」

 「何でマーシェリンなのよ。」

 「マーシェリンって、ちょっと残念な感じがする。」

 「残念だなんて、酷いわね。

 それと領主の子として特別に、まだ2歳だけどアルテミスもいるからショウと年齢的にちょうどいいんじゃない?」

 「何がちょうどいいんだか分からないけど、子供を集めてるという事は、殿様が大名達の子供を人質代わりに城に置いておくという、」

 「違うわよっ!! 考え方がひねくれ過ぎよっ。単に教育のためですよ。もっと素直に受け取れないのっ。」

 「ひねくれすぎって言っても、それは史実だしね。」


 ベビーカーが出てきた。驚いた。こんな中世西欧風の文明でベビーカーって、ありえねー。


 「驚いてるけど、私が作らせたのよ。テルヴェリカ領の職人達の技術はレベルが高いのよ。イメージを伝えるだけで形にしてくれるわよ。ショウも何か作って欲しいものがあったら、鍛冶屋とか織物屋さんとか、職人さんを紹介してあげるわ。

 子供部屋へ行くからその剣士の姿はやめてね。マーシェリンにもあなたの特異な能力は誰にも話さないように伝えてあるから。」


 それなら、いろいろと欲しい物があるっ。機会があったら是非連れて行ってもらおう。


 マーシェリンに押されたベビーカーで子供部屋へ運ばれているんだけど、前後にリベルドータとグレーメリーザそれにマスカレータだっけ、ぞろぞろ歩いてる。ここは領主城だって聞いたけど、護衛って必要か?



 部屋のドアを開け中に入れば、結構な広さを持つ部屋だ。学校の教室とかに比べたらはるかに広い。片方の面に本棚が並べられていて、蔵書数がすごい。子供部屋ということで、さすがに天井に届くまでの本棚では無いが、上の棚は子供じゃ手が届かないでしょ。

 部屋の半分程に机と椅子が並べられて、子供達が座っている。学校でよく見た、子供達のお勉強風景だね。

 それにしても大人が多いな。教える側の大人の女性が数人と、ウルカヌスとアルテミスの護衛もいるからかな? この護衛達も一緒になって教えているようだ。

 子供達がアドリアーヌに駆け寄り、その中の二人が会話をしているが、これがウルカヌスとアルテミスか。

 アドリアーヌが俺を抱き上げ子供達に紹介しているようだ。子供達がにこやかに何か話しかけてくるけど、言葉が分からずどう対応していいのか分からない。まあ、赤ん坊だし対応出来たらそれはそれでまずいか。

 もういいよ、おろしてよ。這いまわるから。って思ってたら絵本を持ってきてウルカヌスの読み聞かせが始まった。これはウルカヌスとアルテミスの文字の勉強のために俺を利用したな。アドリアーヌ、あざとし。

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