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148.ハンバーグ食いて~

 詰め所の中から手に手に武器を持ち騎士達が飛び出してきた。

 そりゃそうだ。目の前で光がドーム状に輝きそこから何人もの人間が現れたら、すわ襲撃か、などと思われても全くおかしくない。いや、そう思う方が普通か。

 騎士達が武器を手に俺達を囲んで騒ぎになっている。


 「静かにっ!! ポスダルビア領主様の視察であるっ!!」


 フィリベール騎士団長の一喝。


 「えっ? 団長? えっ え? 領主様? し、失礼を致しましたっ。」


 取り囲んだ騎士達が一斉に片膝をつく。


 「驚かせたようだが、突然の我々の出現にも不審者の対応がしっかりできているようで安心だ。」

 「ははっ、ありがたきお言葉、感謝に堪えません。」

 「ところで、テルヴェリカ領に向けての苗木を積んだ馬車はもう来ておるか。」

 「そ、それでしたらこの街で宿を取ったと、使いの者が来ました。すぐ近くです。ご案内致しましょうか。」


 案内された宿は本当に近くだった。明日の朝一番で領界門を通り抜けるつもりだったんじゃないだろうか。


 宿からはおいしそうな香りが漂ってきている。そろそろ夕食の時刻だしね、こんな忙しそうなときに宿泊客を呼んで来いと言うのも悪いよな。

 宿の食堂は宿泊客だけに限らず一般の客も入れるように、宿と食堂の入口が別についていて、仕事帰りであろう客も入っている。

 晩ご飯でも食べながらお目当ての集団が降りて来るのを待てばいいんじゃないか。


 「じいさん、ここで晩ご飯にしよう。腹減ったよ」

 「そうだのう、なかなかに旨そうな香りが漂っておる。平民の食事も旨いかもしれん。味わってみるのもよさそうだ。」

 「じいさん、自分が食ってる物が一番旨いなんて思ってんじゃないだろうな。庶民は庶民なりに工夫して旨い食事を作ってるんだぞ。」

 「ほほぅ、そうなのか。ショウ殿がそこまで言うのなら、期待に応えらるものを食べられるということか。」


 期待に応えられるかだなんて、その高飛車発言、何なの。じじい、とりあえず食ってみろ。


 「父上、このような場所で毒味もせずに食事をするなど、危険です。」


 テオファーヌがコソッとじいさんに耳打ちしてるけど、聞こえてるよっ。コイツ いつでもどこでも毒味をしてもらわないと満足に飯も食えないのか。


 「あ~、そうなんだ、領主様は自領の領民達が作ってくれるご飯を食べられないんだ。俺達は飯を食うけど、物欲しげな目で見ないでね。」

 「ショウ殿、私も頂くぞ。私はもう領主の座をテオファーヌに譲ったのでな、食べたいものは食べたいときに口にできる。」

 「ち・・・  父上・・・・・  フィリベールッ!! おまえもかっ!!」


 いつの間にかフィリベールがじいさんの側に立っていた、っていうか、ブルータス、おまえもかっ!! みたいに言ってんじゃねーよ。

 そんなやりとりをしている貴族と騎士、町を行き交う人の目を引きまくってる。俺達は平民の格好をしているんだけど、同じ集団に見なされていることは間違いない。

 いつまでも食堂の前で人目を引くよりも、さっさと店内に入ろう。


 店に入ったら入ったで、平民相手の店だ。そんなところに貴族然とした者達が騎士を伴って訪れたんだ。そりゃ、引くわ~


 「あ、あのっ、みっ、店をお間違えではないでしょうか。お貴族様のいらっしゃるような店では、」

 「なかなかに旨そうな香りが漂ってきておったのでな、ついつい寄ってしまったのだが、食事を出してもらえぬか。」

 「は、はいっ、しばしお待ちくださいっ。」


 給仕の娘が厨房へ駆け込んで行ったけど、注文取ってないよね。注文取らなくても食事と言ったら定食以外は無いとか?


 定食一択だったようだ。人数分の同じ物が並べられた。テオファーヌの分はいらなかったのに。

 パンとシチュー、生野菜だけが乗っているサラダ、ドレッシングは無さそうだ。そこへドンと置かれたステーキの皿。

 うっわ、俺にこの肉の塊を食えってか。いやいや、無理でしょ。よっぽど小さく切り刻んでもらわないと、俺の口には入らないし噛み切れる未来が見えてこない。幼児にはハンバーグだよね。あ~、ハンバーグ食いて~。

 テルヴェリカ領主城でもハンバーグはでなかった。アドリア―ヌはハンバーグを作った事なかったのかな。作り方ぐらいは知っていると思うんだけどね。お手軽に肉を挽く手段を知らなかったのかな。

 よしっ、俺がミートミンサーを創ろう。


 俺は夕食もそこそこに、残りは全てアシルにまわす。

 テーブルの空いた場所に、魔力を放出。台座の上に筒、筒の上に肉を投入するラッパ状の口、筒の中には肉を押し出すためのドリル状の刃、筒の後方にドリル状の刃を回転させるハンドル、そして最も重要な細引き粗挽きを選択できるように二種類の蓋。

 うん、こんなもんだな。【魔力固定】の魔法円を展開、そして発動。

 まばゆい光と共に魔力で形成されたミートミンサーが実体化する。


 「ショウ殿、一体何を、いや、それは我々が使う【魔力固定】ではないか。テルヴェリカ領主様はこんな子供にそのような魔法を教えているのか。」

 「いや、教わってはいないよ。」

 「テオファーヌよ、ショウ殿はそういうものだと認識した方がよいかもしれぬ。驚きすぎは健康に悪影響を及ぼすぞ。」

 「いやしかし・・・・・・・ 」

 「そんな御託を並べる前に食事をしたらどうだ。やせ我慢をしてるのが丸わかりなのだが。」


 テオファーヌはいまだに目の前の食事に手を着けていない。美味しそううな香りが目の前の料理から漂っているのに。武士は食わねど高楊枝、ですかっ!!


 「ふむ、毒は入ってないようですな。それでは頂きましょう。」


 食うのかいっ!! 人が食ってるのを毒見代わりにしたのかいっ!!


 「ショウ殿よ、そのおもちゃのような物は一体何なのだ。」

 「おもちゃじゃないよっ。子供向けの料理を作るための道具だよ。

 マーシェリン、厨房へ連れてってよ。」


 マーシェリンに抱かれて厨房に向かう。ミートミンサーはマーシェリンが持ってくれている。


 「あのっ、厨房に何のご用でしょう。」


 俺達が平民の格好をしてても貴族と一緒にいるから、それに準ずる者達とでも考えているのか、恐れおののいているようだ。


 「ステーキで出してくれた肉があったよね。子供じゃあんなステーキは食べられないからね。その肉を利用して別の料理を一品作ってほしいんだ。」

 「それは大変失礼しました。な、何を作りましょう。」

 「まずは肉をこの器具の上の口から入るように切り出してほしいんだ。」


 さすが料理人、手際よくザクザクと肉を切り分けミートミンサーの上の口に詰め込んでくれた。


 「マーシェリン、上から肉を押さえながらそのハンドルを回して。」


 そうだ、肉を押さえ込む蓋状の物が欲しかったけど、厨房には何かしらあるんだよね。すりこぎ棒があった。この棒で肉を押さえ込もう。

 ハンドルを回せばにゅにゅにゅっと挽かれた肉が出てくる。今回はハンバーグだから粗挽きだ。


 「何ですかっ、これはっ!! こんな料理器具は見た事がありません。どこで売っているのですかっ。」


 やっぱ料理人、こんなの見たら欲しがるよね。でも、あげないよ。俺がハンバーグを食べるために創ったんだし。

 挽肉はこんなもんでいいか。味付けはどうしよう。塩は俺が持ってるけど、胡椒は無さそうだな。あっても高くて使わせてくれないだろうな。

 異空間収納から塩の袋を取りだし料理人の目の前にドンと置く。


 「この塩を少々挽いた肉に混ぜ込む。できれば胡椒があるといっそう美味しくなるんだけど・・・・・  ある?」

 「ありますが、とても高価なんですよ。」

 「じゃ、この塩の使い残しを置いてくから、胡椒を使わせてよ。」


 にこやかに、はいっ、と返事が返って、棚から胡椒を取りだしてきた。

 何だよ、塩ってそんなに高価だったの?

 料理人が塩の包みを開け、絶句する。塩を手に取り一舐め。ほ~っと息を吐く。


 「これはおそらく、テルヴェリカ領でわずかに生産されている塩ですね。初めて味見をいたしました。あまりにも高価で手に入らないのですよ。これほど高価な物を、残り全部を頂くわけにはいきません。少しだけ分けて頂きます。」

 「これから先この塩は流通量が増えるんだよ。高価な胡椒を使ってもらうんだし遠慮する必要はないよ。」

 「ありがとうございます。では私が最高級の料理に仕上げましょう。」


 もうどんな料理になるのか見当が付いたみたいだね。だからと言って任せてしまうわけにはいかない。ちゃんと手順を踏んでもらわないとね。

 ボウルの中の挽肉に塩胡椒を振りかけ、グッチョングッチョンと混ぜ込んでいく。それを丸く形を作って、熱されたフライパンの上に、


 「乗せるんじゃなーいっ!!」

 「え、え? 焼かなければ食べられませんよ。」

 「その塊を自分の空いてる手に叩き付けろっ。まな板に叩き付けてもいいぞ。」

 「そんな、食べ物で遊んではいけません。」

 「遊んでるんじゃないんだよっ。叩き付ける事によって中にたまった空気を抜くんだよっ。」


 あっ、と何かをひらめいたような顔になる。すぐにも空いた手に向けて挽肉の塊を叩き付ける。理解が早いと説明も少なくて済むね。これぞ、一を聞いて十を知る、だね。

 挽肉の塊をバッチンバッチンやってる間にミートミンサーを洗って片付けよう。このミートミンサーがあればソーセージやハムなんかも作れるよな。そうすると燻製釜も欲しくなる。煙で燻しておけば日持ちするしね。なかなかにお子様向け料理の幅が広がるぞ。


 これは帰ったらアドリアーヌに相談しないといけないかな。さすがによその領でいろんな物を作って売り回ったら怒られそうだ。今回のミートミンサーはハンバーグを食べるだけのために、これ1個限りとして門外不出ということにしておこう。欲しいと言われたら、テルヴェリカ領主経由で、と言っとけば煩わしい事は全部アドリア―ヌに丸投げだ。


 で、洗おうとしたんだけど・・・・・ しまった――っ!! 魔力で形を作ったために全てが一体型、可動部のハンドルとドリル状の刃も一体で取り外し不可、唯一外せるのが挽肉押し出し口の蓋のみって、中にこびりついた肉片や油を綺麗に洗えないじゃないかっ。 ま、まあしょうがない。そんなわけで【洗浄】の魔法円の出番だ。この魔法ならどこからともなく現れた水が隅々まで綺麗に洗ってくれてどこへともなく消えていく。しかも取り去った汚れも一緒に。

 でもこれでは、使用者は【洗浄】の魔法を使える人に限定されてしまう。おそらく使用者は平民の料理人がほとんどだろう。次からは綺麗に洗えるように、部品をバラバラに分解できるように創ろう。これはプロトタイプという事で俺専用にして、誰にも譲らない事にしておけばいいや。



 ハンバーグの焼ける香りが厨房内に漂う。いい感じに焦げ目立ついたハンバーグが皿にのせられてソースがかけられる。さっきのステーキにかけられてたソースだ。ハンバーグソースはもっと研究の余地はあるな。俺は料理人では無いし、これは料理人達に期待しよう。

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