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138.宿でお泊まり

 次の町までたどり着く前にかなり日がかたむいてきた。

 ライオットに馬車を止められたり、アドリアーヌが、私は城へ帰ります、とか言って馬車を止めさせて余分な時間を割いたりしたおかげで、もう日没まであとわずかとなってまだ町が見えてこない。

 しょうがない、今日はこの馬車で宿泊か。さすがに星明かりの中、馬車で疾走するのも旅人としての矜恃に反する。せっかくの寝泊まりできる馬車なんだから、初めての馬車泊もいいだろう。食事も充分に用意してるし何の問題も無いな。。


 「見えましたっ。ショウ様、町が見えてきましたっ。」


 あ、なんだ、着いたの? このキャンピングカー・・・・・  いやいや、馬車での宿泊も楽しいかなと思っていたんだけど・・・・・・・

 そうか、町に着いたなら宿屋を探さなきゃいけないんだな。


 まだ日が沈む前だったから門は開いていた。門番は・・・・・   年寄りが昼寝してる。


 「寝てんのかよっ!!」

 「おっ、げふっ、何じゃこのデカい馬車はっ。い、いつの間に。」

 「いつの間に、じゃねーだろ。門番が寝てんじゃねーよっ!!」

 「何を言っておる。寝とらんわい。」


 ・・・・・ このじじい、ボケてんのか。こいつを門番にして大丈夫なのか。

 裏から若い奴が飛び出てきて爺さんをなだめる。


 「あ~、大丈夫、じいちゃんは寝てないよ。ちゃんと門番できてるよ。

 すいません。若いもんは忙しくて、門番程度の仕事は年寄りに押しつけられるんですよ。そろそろ門を閉めようと思ってたんだけど、こんな日没直前に着くなんて前の街で出発が遅かったんですか。」

 「昼飯食ってすぐ出てきたよ。途中で騎士団に止められるわ、領主に止められるわ、邪魔が入りまくりなんだよっ。」

 「御者さんじゃなくて・・・・・  赤ん坊が?・・・・・  しゃべった?」

 「しゃべっちゃいけねーのかよっ!! おまえだってしゃべってるだろっ!!」


 俺とイブリーナの間で目がキョドってる。そうか、俺がしゃべってる事が理解出来ないのか。


 「おまえは何を言っとるんじゃぁ。子供だってしゃべるのはあたりまえじゃぁ。そんなあたりまえの事を指摘してんじゃね~ぞ~。」


 爺さん、ナイスフォロー・・・・・・? か? 


 「じいちゃん、こんなに小さい子がしゃべるのはおかしいだろ。」

 「何言うとる。おんしも小さい頃はしゃべくりまわって、ずいぶんうるさかったぞ。」

「あ・・・・・ いや・・・・・ こんなには・・・・・ 」


 「そんな事はどーでもいいんだよっ。この門を通すのか、通さないのか。」

 「あ、あぁ、すまない。この門は魔獣を町中に入れないための門なんだ。馬車は通ってもらっても構わないぞ。」

 「そーなのかよっ!! 居眠りしたじじいが門番で魔獣を止められるのかよっ!!」

 「居眠りなんぞしとらんわい。しっかり見張っとったぞ。」


 もう、居眠り老人はほっといてさっさと宿を探そう。ここで問答してたら日が暮れちまうよ。


 「イブリーナ、日が暮れる前に宿へ向かおう。」

 「宿を探してるなら、この道を行けばあるよ。でかい宿はお貴族様か大商人でなきゃ泊まれない・・・・・  っていうか、この馬車に乗ってるならその宿でなきゃ無理か。小さい宿じゃ馬車の置き場所に困るしね。」

 「その大きな宿でかまいませんよ。その宿はどちらにありますか。」

 「あっ、こ、このっ道を まま、まっすぐです。」


 イブリーナに話しかけられ、頬を染め声がうわずる青年。若い娘に対しての免疫がないのか?

 まあ、イブリーナも顔立ちが整っていて、町娘にはない雰囲気はあるし。そんなイブリーナに話しかけられてドギマギするのもしょうがないか。

 イブリーナにありがとうと礼を言われ、直立不動で固まった青年を横に見ながら馬車を進める。


 「見えてきましたね。あの大きな建物がそうじゃないですか。」

 「あの宿はやめよう。格式張ってて気疲れしそうだから他の庶民的な宿にしようよ。」

 「え、馬車の置き場所が困るでしょう。」

 「収納するからいいよ。もう馬車を降りて歩いて行こう。

 マーシェリン、降りるよ。」


 後ろに乗っているマーシェリンに声を掛け馬車を降りる。魔力供給を止めれば馬達と車輪に纏わせた魔力タイヤが霧となって消え、車高が下がる。

 馬車を異空間収納に収めて身軽になった。後は歩いて庶民風宿を探そう。俺は歩かないけどね。

 手を差し出せばマーシェリンがひょいと抱き上げてくれる。アシルはマーシェリンの肩の上だ。


 「アシルが人目に付くと騒ぎになるから姿を消しておけよ。」

 「え~、消えていてもあたしの分のご飯、用事してくれるんだよね。」

 「俺のを半分分けてやるよ。」


 アシルは渋々ながらも言う事を聞いて姿を消してくれた。

 マーシェリンの腕に抱かれて入った先はいかにも庶民風宿っぽい。

 受付には誰もおらず、その横の大部屋がわいわいがやがやと賑やかだ。食堂になってるのか。

 考えてみればもう外は暗くなってきてるし、仕事を終えた人達で食堂が賑わうのもおかしな話じゃないな。

 マーシェリンがその食堂へ足を踏み入れた途端、シンと静まった。マーシェリンもイブリーナも雰囲気が庶民ぽくないんだよな。

 客達の視線が集まる中、皿を運んでた娘が気付いて声を掛けて近づいてきた。


 「あ、すいませ~ん。お泊まりのお客様ですか。すぐに受付にいきます。ちょっと待ってて下さい。」

 「忙しいようなら、私達もこちらで食事をさせて頂きましょう。手が空いたときに受け付けをお願いします。」

 「そうしてくれると助かります。夕食は宿泊者用メニューでよろしいですか。」

 「ええ、それでお願いします。」

 「えと・・・・・ お子様用のメニューはないんですけど、どうしましょう。」

 「大人用で大丈夫です。三人分お願いします。」

 「分かりました。しばしお待ちください。」


 ここで食事をするのはいいけど、子供用の椅子がないよね。小さな子が来る事を想定してないのか?

 人目につかない所に移動する。異空間収納からMy子供椅子を取りだしてマーシェリンに運んでもらい、テーブルに戻り子供椅子に座る。うん、しっくりくるね。

 食堂の客が俺達をチラチラと盗み見てひそひそと会話してる。やな感じ~~っ!!

 二人には騎士っぽくない服装をさせてるけど、やっぱ平民の中に混じると浮くよね。姿形が整っているだけじゃない。漂う雰囲気がちょっと違うぞ、みたいな。

 でも酔っ払って絡んでくるような奴はいないみたいだからいいか。


 「お待ちどおさまで~す・・・・・ ん? あれ? こんな椅子ありましたっけ。」

 「子供が小さいので持ち歩いているんですよ。」

 「そうでしたか。また来て頂けるようにうちで用意しておきま~す。」


 次に来るかは分からないが、この椅子をおいていってやるか。そうすりゃ近所の子供が来てこれに座れるだろ。


 食事は、旨かった。アシルも気に入ったようで、俺の皿に手を伸ばしガツガツと食べていた。そうなんだよ。こういった庶民の味がいいんだよ。シンプルイズベスト、ナチュラルイズベスト、だよね。ここの料理人を領主城へ連れ帰りたいぐらいだよ。

 俺達の食事が終わる頃には、とっぷりと日が暮れ外は真っ暗だ。夕食に寄った店内の客達も帰り始め、宿泊客はそれぞれの部屋へ戻る。

 俺達の食事が終わったのを確認して、給仕をしていた宿の娘が話しかけてきた。


 「ありがとうございます~。お貴族様ですよね。向こうの大きい宿屋でなくてよかったんですか。」

 「え、平民には見えませんか。そのような格好をしてきたのですが。」

 「平民の格好してても、雰囲気が違いますし、綺麗すぎるんですよ。お顔が綺麗なだけじゃ無くて、お召し物も汚れていませんからね。平民ってもっと薄汚れてますよ。」

 「そんな事はないでしょう。あなたは綺麗ですよ。」

 「私はお客様商売ですからね~、身綺麗にしとかないとお客さんがこなくなっちゃいますよ。

 宿泊は一人部屋がいいですか。それとも皆さんで一部屋にしますか。」


 「え・・・・・ ど、どうすれば・・・・・」


 その言葉を聞いたマーシェリン、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で俺を見る。って、鳩が豆鉄砲を食らった顔ってどんな顔だよっ!! 誰か見た事あるのかよっ!! 豆あたった時点で、鳩逃げていっちゃうよっ!!

 っていうか、そんな言い回しはどーでもいいんだ。


 まあ、そうだよな。マーシェリンもこういった庶民の旅なんてした事なかっただろうし、どう答えればいいか戸惑ってしまったようだ。


 「二人部屋、もしくは三人部屋で頼む。」

 「ええーっ。この子っ・・・・・ こんな小さな子がしゃべりましたよ。」

 「ショウ様はとても賢いお子様です。あなたよりも賢いと思って話しかけてください。」

 「そ、そうなんですね。すごく可愛らしいから抱かせてもらいたかったんだけど、失礼ですよね。」

 「いや、それなら部屋へ案内するときに抱いていってくれ。」


 俺を腕に抱いて上機嫌で部屋へ案内する宿の娘。部屋の扉を開け中に入り俺をベッドの上に降ろす。


 「貴族様をお迎えする宿ではありませんが、一番広い部屋です~。体を拭くタオルとお湯をご用意しましょうか。」

 「魔法があるから必要ないな。」

 「あ、そうなんですか。便利ですね~。ではごゆっくりどうぞ~。」


 平民向けだからか、お風呂は無いのか。平民にはお風呂に入る習慣はないみたいだし。俺達は洗浄魔法があるからいいんだけどね。

 部屋は一番広いとはいっても、それほど大きな部屋ではない。ベッドが四つ置かれていているのを見れば、4人部屋へ案内されただけだよな。3人部屋でいいって言ったのに。


 「ショウ様、このお部屋でよろしいのですか。」

 「何の問題もないな。マーシェリンは気に入らないの。」

 「いえ、騎士はテントで野営しますから、ベッドがあるだけでもありがたいですよ。」

 「あたしのベッドもあるんだよ。最高じゃない。」

 「なんだ、アシルは一人で寝たかったのか。寂しくて俺のベッドにもぐり込むなよ。」

 「寂しくなんかないよっ。」


 寝る前に3人揃って洗浄魔法だ。ん? ずっと御者席にいたアシルも埃まみれだよな。ついでにアシルも洗浄だ。

 アシルは風が気持ちいいって言ってたけど、こんなに埃まみれになるんじゃ、御者席の風防を考えないといけないかな。

 寝る前に明日の予定をたてておこうか。


 「マーシェリン、明日の予定なんだけど・・・・・・・」


 あ、突然の睡魔が・・・・・ そうだ・・・・・・・ お昼寝も  せずに  働き過ぎだ・・・・・・ 

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