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13.テルヴェリカ領領主城

 テルヴェリカ領領主城、領主執務室でいつものように書類に目を通し可否を決定しサインをするか、却下するかに分けていく。他領からの入領許可願いは、文官達が身元や犯罪歴などを調べ上げて(ふる)い分けしてあるから大丈夫。机の上の書類はそれほど多いわけではない。

 領主就任時はひどいものだった。まだ紙が普及してしていなくて、木札や羊皮紙が机の上に山積みにされていた。嵩張るというだけではなく、問題は内容だった。こんな些細な問題を領主のとこまで持ってこないでって、文官達に付き返しまくった。まず、文官達の意識改革が必要だと気が付いた私は、文官教育から始め、早10年ようやく実を結んだ、と思う。自ら考え立案し自分の権限で問題処理を出来るようになった。おかげで何でもかんでも領主にお伺いをたてる事が無くなり、領主の仕事も楽になった。

 ドアがノックされ、

 「アドリア―ヌ様、お茶をお持ちしました。」

 側近であり領主付きの護衛騎士リベルドータがティーセットを持って入って来る。ティータイムを挟んでも昼前には仕事は終わりそうね。

ドアを開けて入ってきたのは5歳の男の子『ウルカヌス』2歳の女の子『アルテミス』、私の最愛の子供達。

 いつもは子供部屋で家庭教師が付いている時間だけど、今日は先生がお休みでリベルドータが面倒を見てくれている。執務室の隣の部屋は、仮眠室兼休憩室、食事も摂れるようにダイニングテーブルも置いてある。ベビーベッドが置いてあるのはアルテミスが歩く前は、執務中にそこに寝かせていたからなんだけど、もう必要ないわね。今度片付けてもらいましょう。

 

 「ウルカヌス、アルテミス、お勉強は進んでいるかしら。」

 「お母様、座学ばかりで面白くありません。リベルドータに魔法を教えて欲しいと言ったら、断られてしまいました。」

 「魔法は、学院に入ってからでないと教えられませんよ。小さな子が扱うのは危険なのです。それよりも、リベルドータに剣術を教えてもらったらいかがかしら。」

 お茶を淹れたカップを配りながら

 「そうですね、ウルカヌス様。お茶の後は剣の振り方をお教えしましょうか。」

 ウルカヌスの顔が、ぱっと輝き

 「はい、お願いします。」

 「よかったわね、ウルカヌス。じゃあその間はアルテミスは、」


 ドンドン、ドアが乱暴にノックされる。何か起こった?


 「アドリア―ヌ様、イクスブルク領ヴァ―ソルディ様より領主間連絡です。緊急とのことです。至急連絡魔道具の間までお越しください。」


 リベルドータに夫を呼んでくるように伝える。


 「一体何事かしら。リベルドータ、アステリオス様に大至急伝えて。騎士団の訓練場で訓練中のはずよ。ウルカヌスとアルテミスは専属護衛に子供室に連れて行くように伝えて。グレーメリーザ、マスカレータは付いてきて。

 ウルカヌス、アルテミス、ごめんなさい。緊急の事らしいから。」

 「お母様、大丈夫です。アルテミスは私が面倒をみますから。」

 「ありがとう、お願いするわね。ウルカヌス。」


 連絡魔道具の間まで小走りで向かう。


 「ヴァーソルディ様、お待たせして申し訳ございません。」


 ちょっと走っただけで息があがる。机に向かってばかりで運動不足ね。


 「走って来たのか、息が上がっているぞ。運動不足じゃないのか。」

 「挨拶もなしに、失礼過ぎじゃありませんこと?」


 イクスブルク領とは良い友好関係にあり、領主同士で行き来が頻繁にあるため、この程度の憎まれ口は軽く受け流せる関係にある。


 「ああ、すまん。長ったらしい挨拶などしてる暇はないので、状況説明と用件を話させてもらうがいいか。」

 「ええ、分かりました。お願いします。」

 「イクスブルク領とテルヴェリカ領の領境付近に2体の大型魔獣を確認した。国境に近い場所だ。一体はイクスブルク城の屋根の先端の2倍ぐらい、70mを超えているだろうと報告を受けた。驚くことに、騎士の報告では人型魔獣らしい。」


 ええー! 巨大人型魔獣って・・・  ウ〇トラマン? それって、まさか・・・ そんな発想をするなんて、まさかまさかの転生者?

 アステリオス様が部屋に駆け込んできた。


 「まさか、その人型魔獣を攻撃してませんよね。」

 「ああ、騎士団長が団員全てに召集を掛けて、現地に向かう手筈になったから、到着次第総攻撃をかけることになる。もう一体『ブリザードエンペラーウルフ』と戦って、どちらか消えてくれると助かるのだが。最悪の場合、一体をテルヴェリカ領に追い込んでもいいだろうか。」

 「分かりました。出来ましたら、人型魔獣を追い込んで頂きたいですわね。こちらでも騎士団を大至急向かわせます。これは貸しですよ。」

 「分かった、埋め合わせは後日改めて。よろしく頼む。」



 「なんの話だったのだ。」


 外に向かって歩きながら、アステリオス様に説明しておく。部屋の外で待っていたリベルドータが前を、もう2人の護衛騎士グレーメリーザとマスカレータが後ろに付いて歩いている。アステリオス様の側近が2名その後ろに付く。


 「領境付近に大型魔獣が2体現れたとのことです。その内の一体をテルヴェリカ領に追い込んでもいいかと問われましたので、了承いたしました。」

 「またバーソルディ様も面倒事を。」

 「わたくしはリベルドータ達と先に現地に向かいます。アステリオス様は騎士団を纏めて向かってください。」

 「ちょっと待ちなさい。君が行く必要はないだろう。」

 「いえ、これは私の案件だと申せば、アステリオス様にも伝わるでしょうかしら。」


 私が過去の記憶を持って転生した事を、この世界でただ一人知っているアステリオス様は私の言葉から、あえてわたくしと言わず『私の案件』と言った事にすぐに何かを感じたようで、それ以上は反対することも無く、


 「分かった、それで場所は何処なのだ。」

 「領境の国境付近と聞いておりますわ。」


 アステリオス様は側近に騎士団招集を指示し、自らも騎士団本部へ向かう。


 「では後程、現地で。くれぐれも危険そうな場所には近づかないように。」

 「かしこまりました。」


 領主城の中庭に出て、乗り込み型の従魔を出すために腕輪の魔石に魔力を込めようとした瞬間、

 ゾワッ   と体中に鳥肌が立ったような感じが


 「いや――――っ!!」


 体の奥底で何かが引き裂かれたような感じがして、その場に膝を付き、肩を抱いてブルブルと震えていた。

 慌てたリベルドータ達が駆け寄りしゃがみ込む。


 「付近を警戒して。」


 一緒にしゃがみ込んだグレーメリーザとマスカレータが即座に立ち上がり、剣の柄に手を添え警戒する。


 「アドリアーヌ様、どうされました。」


 リベルドータが心配そうに私の顔を覗き込む。突然の悲鳴の後にうずくまって震えてるんだから心配にもなるわよね。

 この感覚は結界が引き裂かれたわ。領境の結界を維持する魔石は領主であるこの私の魔石と深くつながっているから、何か衝撃を受けただけで私にその感覚が伝わってくる。でもこんな大きな衝撃は今まで無かったわ。

 場所はバーソルディ様が言っていた魔獣が出た辺りよね。魔獣との戦闘が始まったの? 何人もが集まって大魔法でもぶつけたのかしら。

 魔獣を追い込むとは言ってたけど、結界を破るなんて聞いてないわよっ!! 後でバーソルディ様には文句を言わなきゃ。バーソルディ様も同じ感覚を味わってると思うんだけど、文句は言ったモン勝ち?

 ・・・ん? 人型魔獣が転生者の可能性があるのなら、領界を通れない? 結界を破って無理矢理通り抜けた? あの結界は相当強固な物なのよ。しかもテルヴェリカの結界、イクスブルク側の結界、二重になっているのに、どれだけの魔力を持った人なのよ。


 「リベルドータ、ありがとう、もう大丈夫よ。結界が破られたようね。わたくしの魔力とつながっているからすぐにわかるんだけど、こんな酷い感じは初めてだわ。」

 「そんな簡単には破れないのでは?」

 「いままで、破られた事は無いんだけど、いま領境で大型魔獣を討伐してるらしいから、大勢で大きな魔法を打ち込んだのが外れて結界にぶつかったんじゃないかしら。」


 まさか人の力で破られたみたいだなんて、言っても信じないでしょうね。


 「それはまた迷惑な話ですね。破れた結界は大丈夫なのでしょうか。」

 「ええ、すぐに塞がったわ。」


 改めて腕輪の魔石に魔力を注ぐ。乗り込み型の従魔が形成される。

 よく言われることが『この従魔は何の魔獣ですか。』 違います。ねこバスっぽい物です。前世でお母さんがト〇ロが大好きで幼い頃からずっと〇トロのビデオを見せられてきて、トト〇好きになってしまったのです。何か乗り物のイメージをと思ったらねこバスっぽい物になってしまいました。


 リベルドータ達は慣れたもので、何の抵抗も無くねこバスっぽい物に乗り込む。私が最大速でねこバスっぽい物を飛ばせると誰も付いてこれないし、私の魔力量がおおきすぎるのよね。急ぐときには、私が全員を乗せた方が移動が早いし。

 全員が座ったのを確認してさっさと宙に舞い上がり、結界が破られた場所に向かって全速力で宙を駆けて行く。これなら1時間もかからずに現地に着くんじゃじゃないかな?

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