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123.婚約発表

 パーティー会場、国王の控えの間。昼食の時のメンバーが集まっていた。その中で一人だけ、この婚約には関係ないとウルカヌスが逃げていった。

 そりゃそうだ、関係もないのに国王と一緒に登場したら注目を集めてしまう。俺だってこのメンバーと一緒に出たくないよ。


 「ショウ様、アルディーネと並んで私の横に付いて下さい。手をつなぐとよろしいかもしれませんわね。こちらの扉から出ます。よろしいですか。」


 アルディーネが俺の手を取りアンジェリータの横へ並ぶ。そのほかのメンバーが後ろについて扉の前まで歩けば、両開きの扉の前に控えた侍女達が扉を開け放つ。

 こりゃまた大きな会場だ。王宮での一番の大広間なんだろうね。

 そこに大勢いる大人も子供も、入場してきた一団を振り返って挨拶をする。小さい女の子のカーテシーは可愛いね。男達は一礼している。腕はお腹の所だ。

 これが騎士だったりすると片膝をついてこうべを垂れるんだけど、さすがにこの会場に騎士はいない? あ、隅の方にいるね。会場警備かな。あいつら警備中だから頭下げる事もないのか。会場内で不審な動きをする奴を見てなきゃいけないもんね。


 挨拶をした後は・・・・・ 気になるよね。見た事無い赤ん坊が一緒に出てきて、王女様と手をつないでいる。しかも王女は父親や兄達を差し置いての王の隣を陣取っている。

 女の子達の、あの可愛い子供はだれ? と、ひそひそ話が聞こえてくるけど、それ以外の、なんだこのガキは、という敵意むき出しの視線も少なからず感じられる。そういう視線を投げかけてきた奴は、俺がどういう立ち位置でここにいるのか察知したんだろうか。これで婚約発表なんかしたら、刺客でも送ってくるんじゃないだろうね。俺、結構ヤバい立場に立たされたかもしれん。


 「皆様、今日も領主会議お疲れ様でした。この後ご商談、ご歓談に入られる前にお知らせがあります。今こちらにいらっしゃっているお子様、」


 アンジェリータが俺を抱き上げて、皆に見えるようにする。


 「アドリアーヌ・テルヴェリカ様の2男、ショウ・アレクサンドル・テルヴェリカ様です。このたび、第一王女アルディーネ・ヴァランタインと婚約する運びとなりました。」


 会場内がざわめき口々に祝いの言葉を投げかけてくる。神々に感謝する者達まで居るけどそれはちょっと違うんじゃない?

 そんな中で俺に対して強い敵意を送ってきていたアブラギッシュなデブのおっさん。油でテカった金髪がべたついていそうでキモい。金髪豚野郎ですかっ!! え? 金髪豚野郎? 誰だっけ。まあいいか。

 その金髪豚野郎がズカズカとアンジェリータの前まで出てきた。


 「お待ちください。王女様とご婚約なさる方が2男とは、次期領主になる可能性は低いのですよね。私が以前から我が長男の婚約者として申し込みをしておりましたが、それは反故にされてしまったのでしょうか。」

 「セファルバラ様、反故とは約束がなかった事にされるという意味ですが、私達の間ではなんの約束も交わされおりませんよ。」


 アンジェリータの突然の冷たい口調。こりゃ相当嫌ってるね。だけどこのデブ、冷ややかな口調を叩き付けられても意に介さず・・・・・ いや・・・  頬を染めて恍惚の表情、痛めつけられて快楽を得るタイプか? きもちわりーっ!!

 ん? セファルバラって言ったよな。セファルバラ領の領主かな?


 「あ、そうなのですか。これは申し訳ない。しかし、私の長男は私の後を継ぐ次期領主なのですぞ。王女様が嫁ぐのなら次期領主の妻の座がふさわしいと思いませんか。」

 「そのような選択肢もありますが、それはあなたの所ではありません。そして、その決定もあなたがする事ではありません。その話はこれでおしまいです。」


 まだアブラギッシュデブが何か言いたそうだったが、ここまではっきりと会話打ち切り宣言されたら、どんだけ厚顔無恥でも次の言葉は飲み込むしかないよね。

 その後ろのテーブルで食べ物を喰いあさってる子供デブ、明らかに親子だ。顔も体型も同じ遺伝子だよ。こんなのに言い寄られたらアルディーネも逃げ出したくなるよね。


 話も終わったようだと女の子達がアルディーネのまわりに集まってきた。アルディーネの取り巻きの子供達だろうか。

 俺はアンジェリータの手から離れアルディーネと手をつなぐ。


 「おめでとうございます。アルディーネ様。ショウ様とおっしゃるのですね。こんなかわいらしいお子様が婚約者だなんて、アルディーネ様が羨ましいですわ。」


 いやいや、おまえ達もお子ちゃまばかりだろう。俺をお子ちゃま扱いしてんじゃないよ。とは一言も発さず、アルディーネの腰にしがみつく。


 「か、かわいいです。お話はできるのですか。」

 「こんなに小さいお子様なのですよ。まだお話は早いと思います。」


 思い思いの事をしゃべっている女の子達の後ろから、その場に割り込めない男の子達が後ろで待っている。

 祝いの言葉を述べあらかた女の子達が()けた後、ようやく男の子達が寄ってきた。


 「アルディーネ様、私の婚約の申し込みはどうなってしまったんですか。」

 「いや、ちょっと待ちたまえ。私だって申し込んだのだ。

 私も次期領主候補なのです。私では駄目だったのですか。」


 やいのやいのと婚約申し込みをしたらしい男の子達、少し年齢が上の者達までいる。あのデブ親子以外にも、こんな連中が毎晩言い寄ってきてたんじゃ、同情するよ。

 この中にはウルカヌスがいないんだよね。遠くから眺めているのが見えたけど、婚約申し込み合戦には参加しなかったのかな。


 アルディーネはつないだ手をギュッと握ってくる。脅えているのだろうか。


 「私は・・・・・ ショウ様を選びましたっ・・・・・ それは祝福されないのでしょうかっ!!」


 アルディーネの反論、俺を守るためだろうか。最後は叫んでいるようなものだった。


 「いや、しかしこんな小さな子が婚約とか理解出来ていないでしょう。」

 「それは私も承知しております。ショウ様がこの先成長なさった時、この婚約に異を唱えた場合、私は身を引きます。」


 ちょっと待て、俺が提示した条件は逆じゃなかったか。もうこれ売り言葉に買い言葉になってるぞ。

 もうこの場を収拾するには俺がガツンと言っておかないといけないか? しゃべるつもりはなかったんだけどな。


 「あなた達っ。いいかげんにしなさいっ!!」


 男達の後ろから凜と響き渡る女性の声。 な、なんか、かっこいい声が・・・・・

 男の子達は声の主を振り返る。


 「ここは選ばれなかった者達が、選ばれた者を責め立てる場ではないのよっ!! あなた達がする事はお祝いの言葉を述べる事じゃないのっ!!」


 うん、もっともな意見だ。このお姉さんの発した言葉には誰も意見を返す事ができずに、蜘蛛の子を散らすように退散していった。

 お姉さんが俺達の前まで来て挨拶の後、にこやかにアルディーネに話しかける。


 「アルディーネ様、ご婚約おめでとうございます。」

 「そんな、お姉様、様なんて付けないでいつものように呼んでください。」

 「あら、このような場所ではそれはいけませんわ。アルディーネ様も私の事を呼ぶのにお姉様は駄目ですよ。」


 なんだかすごく親しそうな感じを受ける。アルディーネもこのお姉さんを信頼している様だ。


 「失礼いたしました、ローズマリー様。

 ショウ様、こちらはベアトリクス公爵家長女のローズマリー様です。私の従姉にあたります。

 ローズマリー様、こちらがショウ・アレクサンドル・テルヴェリカ様です。まだ婚約の儀は交わしておりませんが、婚約者となって頂ける男性です。」


 アルディーネがおたがいの紹介をしてくれてるけど、俺は今日はしゃべれない赤ん坊だからね。アルディーネの腰にひしっと抱きついてこの場をやり過ごそう。


 「初めまして、ショウ・アレクサンドル・テルヴェリカ様。アルディーネ様と婚約をしていただいてありがとうございます。アルディーネ様もとてもお喜びになっていらっしゃいますよ。」


 お姉さんの言葉にアルディーネの表情が曇る。


 「申し訳ございません。本日はショウ様はお話になりません。」


 お姉さん、考え込んだあげく口にした言葉。


 「アルディーネ様の表情が曇ったのがなんだか気になりますわね。少し3人でお話ししましょう。」


 ローズマリーの先導でパーティー会場を離れる。

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