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120.家出少女ですかっ!!

 アルテミスとお付きの者達を部屋へ案内し、さて、ここで問題が・・・・・ 

 アルディーネとアルテミス、その侍女や護衛達の人数、結構な人数になる。これだけの夕食の準備を厨房のおばちゃん達では、賄いきれないよな。

 料理人ではなくても、侍女達だって料理ぐらいはするだろう。侍女達に料理をさせよう。


 各部屋の従者用区画それぞれに厨房は設置してあるけど、今回はアルディーネの従者区画の厨房を使って、食事もアルディーネの部屋で食べればいいか。

 侍女達を厨房に案内する。食材を異空間収納から出して、後はメニューは適当にアレンジしてもらおう。

 食事ができるまでの間に、アルディーネとアルテミスにお風呂を堪能してもらおうかな。ついでにアシルも一緒に入ってこれば賑やかしになるな。


 「夕食の準備にまだしばらくかかりそうだから、アルテミスとアシルと一緒にお風呂に入ってこれば。」

 「エリス達が食事の用意をしていますの。一人ではお風呂に入れませんわ。」

 「あたしはショウと入るって言ってるでしょ。」

 「アシルは女の子ばかりでお風呂入れば、楽しいかもしれないよ。」


 アルテミスはまだ小さいから誰か大人が一緒にいないと危険だろうけど、アルディーネはもう5歳だよ・・・・・ そうか5歳か、大人が面倒見てあげないと、まだ無理か。


 「女性護衛騎士も来てるんだから、護衛騎士にお世話してもらえば。」


 アルディーネの護衛騎士が尻込みをする。


 「い、いえ、私達はお子様の湯浴みをした事がありませんし、護衛もしなければいけませんし・・・・・」

 「その程度で尻込みしてたら、自分の子供が生まれた時にどうすんのさ。」

 「まさか、自分の子とアルディーネ様を同列にはみられませんっ。」

 「まあいいや、マーシェリン、アルディーネとアルテミスをお風呂に入れてやってよ。」

 「ええっ、私がですかっ。」

 「いつも俺と一緒に入ってるんだからいいんじゃない?」

 「ショウ様と一緒には入りますが、普通は身分の高いお子様は湯船の外からお世話するのですっ。一緒に湯船には浸かりませんっ。」

 「え? そうなの?」

 「マーシェリンは一緒にお風呂に入って頂けるのですか。私はいつも一人で湯船に浸かって洗われておりますの。是非一緒に入って頂きたいですわ。できましたら、ショウ様も一緒に、」

 「入りませんよっ!!」


 マーシェリンに面倒を押しつけてしまった。すまん、マーシェリン。今日は俺は洗浄魔法にするから、お風呂はマーシェリン一人でゆっくり堪能してくれ。

 マーシェリンのおかげで、アルディーネとアルテミスの二人は上機嫌でお風呂から上がってきた。頭から湯気が上がっている。


 「ショウ様、快適ですっ!! このお風呂の気持ちよさは、毎日入りたいですわっ。」

 「それはよかった。世の中の女性達にも評判がよければ、商売として成り立ちそうだな。みんなに宣伝してくれると助かるよ。」

 「あら、私が宣伝して混み合ってしまいますと、私が来れなくなってしまいますわ。」

 「その時には、俺の部屋を貸してあげるよ。」


 エリス達が食事をテーブルに並べ始める。ちょうどいい頃合いだったな。


 「アルディーネ様、私共は料理が専門ではありません。あまり期待をなさらないでください。」

 「あら、エリスがお料理が得意なのは知っていましてよ。」

 「いえ、庶民の料理でございます。料理人としての技がございません。」


 そうか、エリスはお料理好きだったか。でも、赤ん坊の前に肉の塊出されても、食えねーだろ。乳幼児に対しての配慮が欠けてるぞ。


 「エリス、そのお肉はショウ様はいただけませんわ。シチューは肉を取って、野菜は潰してあげてください。」

 「えっ、も、申し訳ございませんっ、ショウ様。ただいま別のものと交換いたします。」

 「いや、いいよ。マーシェリンがやってくれるから。」


 マーシェリンにシチューの肉をよけてもらい、ゴロゴロと入っている野菜類・・・・・芋とかにんじんとか、根菜類をスプーンで潰してもらう。葉物はナイフで細かく切ってもらえば、なんとか俺でも食えるだろう。パンは小さくちぎってシチューに浸して口に運ぶ。

 俺の食事はシチューとパンだけで充分だ。って言うよりも、このシチュー量多過ぎじゃね。


 「ショウ様、海の上にこのような宿泊施設を創るという事は、あのお風呂があるからなのですか。」

 「そうそう、元々はこの海底に魔力の澱みを見つけて、その解消のために魔力の澱みごと海洋深層水を汲み上げ始めたんだけどね、汲み上げた水をそのまま海に戻すのはもったいないと考えて製塩プラントを創ったんだ。で、そこで働く人のために塩を取り出した後の水をお風呂に利用してみたら女性達に大評判だったんだよ。」

 「分かりますっ。ここのお風呂は毎日でも入りたいですわ。」

 「あたしはあんまり分かんないな~。何がよかったのさ。」

 「アシルは精神生命体なんだろうと思う。だから何が体によくて、何が悪いという事を感じないんだろ。」

 「それって、褒められてんの。」

 「ショウ様はきっとアシル様を褒めてるんだと思いますよ。」

 「褒めてるつもりはないな。」

 「ショウ、ひどいじゃないっ。」

 「酷い事を言ってるつもりもないよ。人とは、特に女性達は常に美しさを追い求めるんだ。特に貴族のご婦人方は、それが健康を損なう事になろうとも人よりも美しくと考えてしまうきらいがある。アシルはそんな事を考えた事もないだろう。」

 「まあ、ね~。あたしはあたしだから、そんな事気にするつもりもないし。」

 「気にしてなくても、アシルは充分に可愛いからね。」

 「なっ、何言ってんのさっ。ショウは・・・・・  やっ、やっぱ、ほ、褒めてんじゃん。」


 あ、デレてる。このまま静かになりそうだ。


 「わ、私もショウ様に褒められたいですわ。」

 「あえて褒めなくてもアルディーネもアルテミスも可愛らしいし、将来はきっと美しい淑女になれるよ。」

 「ショウ様に褒められましたわ。嬉しいです。」


 さっきから静かなアルテミスは、食事の手も止まり半目になって寝落ち寸前だ。お風呂も入っておなかもふくれて眠くなってしまったようだ。エリーに抱きかかえられこのまま退出だ。


 「申し訳ございません、皆様。アルテミス様はおやすみになります。このまま退出致します。」


 この場面で掛ける言葉は・・・・・ 『いい夢みろよ』か? 誰かそんな事言ってた奴いなかったっけ。


 なんの話してたんだ? あぁ、貴族のご婦人方の不健康な美容の件か。肌荒れなどものともせずにおしろいを塗りたくるような化粧のしかたをしていそうだよね。


 「健康を損なってでも美しく飾りたいと望むご婦人方が、健康になりながらしかも美肌に手が届くとなれば、ここのお風呂は大評判になるんじゃないかな。」


 ゴクリ・・・・・・・ 喉の音が響いた。誰だ? もうここにはアルディーネのお付きの者達しかいないな。


 「そ、それほどまでなのですか。」

 「エリス、失礼ですよっ。」

 「申し訳ございませんっ、アルディーネ様。思っていた事が口を突いて出てしまいました。」

 「いや、構わないよ。アルディーネの世話もあるから、全員がお風呂に行けないと思うけど、交代で入浴してこれば。従者用居住区にもお風呂あるしね。」

 「ショウ様、ありがとうございます。

 エリス、ショウ様がおっしゃっています。ご厚意に甘えて、入浴してらっしゃい。」

 「は、はい、ありがとうございます。」


 早速エリス達は集まって相談し、結果人数を半分に分け交代で入浴する事に決まったようだ。

 出てきた時の感想が楽しみだ。


 「ところで、今回はいつまでいるつもりなんだ?」

 「もちろん、領主会議が終わるまでですわ。」

 「アルディーネは領主会議は関係ないよね。」

 「毎日の会議後のパーティーで、目の色を変えた殿方達が押し寄せてくるのです。その場を逃げ出したくもなりますわ。」

 「まさか、国王様に何も言わずに逃げてきたとか、言わないよね。」

 「ま、まさか、そ、そんな事、するわけがないでしょうっ。」


 あ、これ黙って出てきたやつだ。家出少女ですかっ!!

 その場に残っていたエリスを振り返り、問いただす。


 「本当にアンジェリータは知ってるの?」

 「そのはずです。私はアルディーネ様にそのように伺いました。」

 「え~、国王様のとこ行ってないし、知るわけないでしょ。」

 「アシル様っ、だめっ。」


 その瞬間その場に残っていたエリスと護衛達が息を飲み青ざめる。


 「まさか・・・・・・・・ 黙って出てこられたのですか?」

 「う・・・・・・・・」

 「アルディーネ、とてもまずい事をしてると思うぞ。その嘘のせいでアルディーネに付いてきた侍女や護衛達が罰せられる事を考えなかったのか。」

 「えっ、何故エリス達が、」

 「王宮は突然いなくなったアルディーネを探して大騒ぎになっているはずだ。付いて回る侍女や護衛が、止める事もなくここまで一緒に来てしまっている。知らなかったでは済まされないだろ。

 マーシェリン、領主城につながる連絡魔道具を借りてきて。」

 「はい、かしこまりました。」


 「・・・・・私の嘘から始まった事です。私が叱られれば済む事でしょう。」


 もう泣きそうな顔になってるけど、こんなことを何度もやられたらお付きの者達はたまったものじゃないだろう。ここは思いっきり脅かしとこう。

 そもそも王宮の転移の間の転移円を使ってテルヴェリカ城へ来たんだ。転移円を管理している人は、王女様がテルヴェリカ領主城へ向かった事を上の者に伝えているはずだから、国王様にはもう伝わっているはずだよね。領主城へは王宮からの連絡がもう来てるんじゃないかな。


 「アルディーネは王女様だ。王女様を罰する事は無いだろうけど、お付きの者達は罰せられるよ。勝手に連れ出してしまった事になるからね。」

 「そ・・・・・ そんな・・・・・ そんなつもりじゃなかったんです・・・・・・ ごめんなさいごめんなさいー  うあ―――ん。」

 「俺に謝ってもしょうがないだろ。エリス達にごめんなさいじゃないのか。」

 「エリス~、ごめんなさい~。」

 「もうよろしいのですよ。アルディーネ様にお仕えできて、エリスはとても嬉しゅうございました。解雇されたとしても、決してアルディーネ様をお恨みする事はありません。」

 「ええっ、いやですっ。私はエリスといたいです。」

 「私もアルディーネ様の侍女を外されるのは、とても辛いのです。でも、それを決めるのは私ではございません。」


 エリスの胸で泣き続けるアルディーネ、エリスも涙を流している。エリスの言ってる様にはならないと思うけど、全ては身から出た錆、しばらく反省してなさい。


 「そうですわっ。ショウ様、今から大急ぎで帰ればいいのです。ショウ様、送って頂けますか。」

 「無理だよ。もう外は真っ暗だしね~。」

 「転移で送ってもらう事は、」

 「海の上は常に揺れてるからね、座標が定まらないから、こっちから領主城に転移はできないんだ。昼間迎えに行った時も飛んでったでしょ。」


 がっくり肩を落とすアルディーネ。そこへマーシェリンとエレーナが入ってきた。


 「ショウ様、宰相のセバスティアン様が転移の間へ転移していらっしゃっいました。アンジェリータ様からのアルディーネ様への言づてを受け賜わりました。」

 「言づてって、伝言ゲームみたいに何人か伝わってくると、全く別の話になってるようなやつじゃないよね。」

 「大丈夫です。セバスティアン様はアンジェリータ様の走り書きを読み上げ、書き留めた私が復唱して間違いのない事を確認して頂いています。」

 「あぁ、それならいいか。エレーナを信用するよ。で、なんて内容?」

 「アルディーネ様への言づてです。私からショウ様にはお伝えはできません。アルディーネ様にお聞きください。」

 「そりゃ、もっともだ。アルディーネに聞くよ。」


 エレーナがセバスティアンが読み上げた文章を書き記した紙を、アルディーネに手渡す。


 「アルディーネ様、この文書の内容は私からは誰にもお伝えいたしません。ショウ様にお伝えするかどうかは、アルディーネ様がお決め下さい。」

 「え、あなたはショウ様の家臣ではないのですか。」

 「家臣かどうかではありません。手紙とは思いを伝えるものです。私がその思いを託されたのです。私が勝手にその思いを他人に伝えられません。伝えられるのはその思いを受け取るべきアルディーネ様だけです。ちなみに私はショウ様の家臣ではありません。アドリアーヌ様の家臣です。」

 「あ、そ、そう、ごめんなさい。ありがとう。」

 「ついでに申し上げておきますが、送られてきた思いがアルディーネ様にとっての最良の思いなのかは分かりません。」


 エレーナも書面を読む前からヤな事言うね。良いお知らせと悪いお知らせのどちらから? みたいな選択もなく、悪いお知らせ一択を匂わせてる。アンジェリータ様お怒りですよ、って?

 こりゃ、真っ暗な海の上を領主城まで飛んで行ってやるしかないか。

 アルディーネが神妙な顔で手渡された書面を読み始めたのを見計らって、マーシェリンが俺だけに聞こえるように、コソッと耳打ちする。


 「ショウ様宛にもう一通、誰もいないところでお渡し致します。」


 それって? アルディーネに渡したのがフェイクで、もう一通がアンジェリータの本心を書き記してあるとか。

 いやもう、ちょっと勘弁してよ。この件に関しての諸々の雑事を俺に押しつけようってのか。やだよ、そんなの見ないよ。


 「ごめん、もう眠い。」

 「あ、ショウ様、この手紙の内容は、」

 「アルディーネ様、申し訳ございません。ショウ様はもう起きていられません。手紙の件は明日の朝にお願いします。」


 マーシェリンに、さっと抱え上げられその場を退出しペントハウスに連れて行かれる。ベッドに横たえられ尋ねられる。


 「これがもう一通の書面にございます。いかがいたしましょう。」

 「知らないよ、海にでも流してよ。俺は読まないよっ。おやすみっ!!」

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