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100.お食事会

 食前酒が出てきたけど大人達の前だけだった。うん、酒飲ませろとか思ってないしね。


 「前菜でございます。ショウ様監修の料理になります。生野菜にカニの身を混ぜてあります。ドレッシングの用意もありますが、まずは濃厚なカニの風味でご堪能下さい。」


 全員の目が俺に向いた。ちょっと待て、カニサラダは知ってるよ。でも何も言ってないよね。カニサラダを作り出したのは料理長だよ。俺じゃないよ。俺だったらここにカニミソを和えたい。何故、料理長はカニミソを使わなかったんだ。


 「カニと聞き取れましたが、この野菜の中に入っている白と赤い物がカニ・・・・・なのですか。」

 「そうですね。カニという海の生き物の身をまぶしてあります。私が監修と言っていましたが、食材を提供しただけです。料理長の判断でこのように料理ができあがってくるのです。素晴らしい料理人ですよ。」


 俺の皿には、生野菜は細かくみじん切りにされていてカニは多めに入っていた。これなら噛めなくても大丈夫そうだ。料理長、グッジョブ!

 野菜とカニを口に含み、カニの香りが鼻に抜け舌の上に味が広がる。確かにこれはドレッシングいらずだ。


 「ショウ様、美味しいです。」


 アルディーネが美味しさを訴えてくるその横でアシルが、美味しい美味しい、と言いながら食べてる。用意されたフォークとスプーンはケーキ用やお茶に使う小ぶりのものが用意されてるが、さすがに小さなナイフはないみたいだ。肉料理はどうするんだ。。必要なら創るか。


 「スープでございます」


 スープはコーンポタージュスープか。普通だ。


 「デビルフィッシュのソテーと、ボイルしたデビルフィッシュのカニミソ和え、2つご用意致しました。これもショウ様ご提供食材でございます。」


 ここでカニミソですかっ。そうだよね、最初にカニミソインパクトが大爆発したら、その後の料理がもっと大きなインパクトが欲しくなるからね。料理長っ!! エクセレントーッ!!

 料理長自ら俺の所に皿を持ってきた。やっぱ、他の皿と違うね。


 「ショウ様には、デビルフィッシュは噛みきれないと思いまして、カニの身のカニミソ和えでございます。」

 「料理長、気を遣ってもらって、ありがとう。」


 ん? アルディーネとアルテミスの視線が俺の皿に釘付け? あ、アシルも。


 「ショウ様のそのお皿は、なんだか美味しそうですわ。」

 「私にはそのデビルフィッシュは噛みきれないのです。歯の無い赤ん坊でも食べられるように作ってもらったメニューですよ。デビルフィッシュも美味しい食材ですよ。食べてみてください。」


 それを聞いてタコ足にナイフを入れ食べ始めた。よかった。取られなくて済んだぜ。

 アシルの皿はナイフがいらないように細かく切ってあった。心配する必要は無かったな。

 

 「やっぱり、わたくしはしょうとおなじものがいいです。」

 「あたしも、それを食べたいよっ。」


 アルテミスはタコよりカニがよかったのか。アシルまで。


 「お待ちください。料理長に確認します。」


 部屋に残っていた給仕係が慌てて出ていき、すぐに戻ってきた。


 「ただいま、カニの身のカニミソ和えを人数分ご用意致します。」


 子供達が我が儘で申し訳ないな。と思ってたら大人達も口元が綻んだ。そんなに食いたかったのかっ。


 「先ほどのカニサラダは、大変美味しゅうございました。それをカニだけで味わえたらどれだけ濃厚な味わいなのでしょう。」

 「アンジェリータ様、でもデビルフィッシュの味わいもよろしいですよ。」

 「そうですわね。この食感は初めて感じるものですわ。アドリアーヌ様もお食事に関してはとてもこだわっていらっしゃるから、ショウ様も同じようにこだわるのかしら。」


 程なく、無理を言って作らせてしまったカニが運ばれてきた。料理長は他の料理で忙しいんだろう。給仕係だけで配ってる。突然の追加料理のおかげで忙しくもなるか。


 「ショウ、あなたが料理したの。こんなに濃い味わい、初めてよ。どんな調理法をしたのかしら。」


 アドリアーヌはカニの味を知っているから、普通に茹でたカニとの違いが分かったようだ。


 「水のない状態で茹でる、といえばいいでしょうか。蒸し焼きに近いのですが、蒸して外部から熱する訳ではなく、食材の内部に含まれている水分を一気に沸騰温度まで上げ、茹であげる調理法を考えてみました。」

 「それって、魔法で?」

 「ショウ様、それも新しい魔法なのでしょうか。王宮の料理人でも出来るのでしょうか。」


 アンジェリータの食いつきが凄いね。これは、鍋作って売れば儲かるかも。


 「アンジェリータ様、料理長に請われて二つほど鍋を創りました。そのうちの一つをお持ち帰りください。使用方法は侍女か護衛の方で料理の得意な方がいらっしゃればお伝え致しましょう。もしそれがお気に召して頂けたなら、他の領主様方にもお広めくだされば、量産、販売も検討致します。」

 「まあ、ショウ様は商才もおありなのですね。では、領主会議までにたくさん用意しておいて下さいね。」


 え? 領主会議? アドリアーヌがなんか言ってたな。そんなのいつあるんだ。アドリアーヌを振り返ったら、


 「20日後よ。」


 それだけ余裕があれば出来るかな。いや、待て、どれだけの数を? そもそも鍋の数があるのか。そのような料理をするための鍋なんて、小さい鍋でチマチマやるようなことはない。デカいずんどう鍋だよね。そんなデカい鍋、常に作って大量に在庫を置くような事があるわけがない。注文を受けて生産だよね。領主会議に、って事なら最低でも12個は作らないといけないな。


 「出来そうなの。」

 「母上、厨房にある、いちばん大きいサイズのずんどう鍋を・・・ そうですね、30個、大至急発注お願いします。期限は今日から18日、時間がありません。商人を呼んで指示をしている時間も無いでしょう。信用のおける者を、直に商人と職人の元へ走らせ時間短縮をお願いします。」

 「え、ええ、分かったわ。」


 すぐに動こうとするアドリアーヌを止める。


 「そこまで急がなくても、食後でよろしいでしょう。」


 次の料理が運ばれてきた。肉だ。ステーキだ。食いてー。だけど噛みきれねー。

 俺の前には・・・・・ お粥? いやっ!! これはっ、カニ雑炊か。凄いぞ、料理長。素材を渡しただけで、いろんな料理をアレンジしてくれる。感動だー。

 ん? またアルテミスの羨望のまなざし。小さい子は肉よりもカニ雑炊がいいかもしれないね。


 「アルテミス様、カニのご飯がよろしいようでしたら、すぐにご用意できますよ。」


 料理長、学習したようだ。子供ってのは隣のメシが美味しく見えちゃうんだよね。


 「しょうとおなじがいいです。」

 「ただいま、ご用意致します。」


 給仕係がワゴンを押してすぐに出てきた。ワゴンには鍋と器がのっている。アルテミスにカニ雑炊をよそって、他の面々にも伺う。


 「ステーキとは味が合いませんが、皆様はいかがいたしましょう。」


 そんなことを言われたら、欲しがるのは子供だけだよね。おまえ等もったいねーよ。最高級肉だぞ。カニ雑炊もうまいけどね。あ、カニミソも溶け込んでる? うわっ、うまい。こ、これは、肉よりもよかったかも。


 いやー、満腹満腹。え、まだなんかあるの。デザートか。もうおなかいっぱいだよ。俺の分はだれか食ってくれよ。


 「デザートでございます。」


 目の前に置かれたケーキ皿をアルテミスに向かって押し出す。


 「わたくしもおなかいっぱいです。たべれません。」

 「それでは、ウルカヌス兄上とアルディーネ様はいかがですか。」

 「いえ、私もおなかがいっぱいです。今日の食事は美味しすぎて、食べ過ぎてしまいましたわ。」

 「私は一つくらいなら余分に食べれます。」


 さすが男の子、成長期でもあるしたくさん食べれるよね。って、俺も成長しなければいけないのにっ。


 食事も終わりソファに座りお茶をしながら、アドリアーヌがリベルドータに鍋発注の指示をしている。それって護衛の仕事じゃないでしょ。リベルドータも文句ぐらい言いなさいよ。

 でもアドリアーヌがいちばん信用できるのが、この護衛達だというのも否定できない事実でもあるし。



 料理長と給仕係が、デカいずんどう鍋を持ってきた。俺が魔石を仕込んだ鍋だ。せっかく手に入れた鍋を手放さなくてはいけなくなった料理長の悲しげな顔。また作ってあげるから、その顔はやめなさい。


 「アンジェリータ様、この鍋が先ほどお話しした鍋です。どなたにご説明をいたしましょうか。」


 アンジェリータが振り返ればアルディーネの侍女がいた。


 「エリス、あなたがしっかり聞いて料理人に伝えてくださる。」

 「かしこまりました。

 ショウ様、よろしくお願いします。」

 「この鍋に仕込まれた魔石に魔力を通すことにより魔法が発動します。私が名付けましたが【沸騰373.15(ケルビン)】です。きちんと洗った食材を鍋に入れます。この時、水を入れて茹でるのか、水なしで加熱するのかを選んでください。加熱だけして旨みを残す料理、煮込む料理、色々あります。注意して欲しいのは、沸騰させたくない料理には使わないでください。魔力を通していれば、あっという間に沸騰して、魔法円を発動させている間は沸騰し続けます。それを踏まえて料理人の方々には、いろいろな料理に挑戦して頂きたいと思っています。」


 いろんな失敗の先に成功があると思うから、こういう料理をこのように調理して、なんて言わなくても、料理人が自分で考えてやってくれるよね。職人て、手取り足取りで教わるものじゃないからね。

 俺は料理はからっきしだし、とりあえず火を通せば食えるんじゃね、ってかんじの漢飯(おとこメシ)ぐらいしか教えられないしね。

 王宮の料理人達はその道の最高級の職人達が集まってるだろうし、それなりに自分達で考えてアレンジしてくれるでしょう。

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