精神障碍者の友情
精神疾患のある浩二と克明、同じ作業所で仲睦まじい友情を育んで行こうとするのだが…
1
精神疾患とは時に思考障害や記憶障害を齎し、能力の発言や、情緒の安定を害する厄介な病状である。
脇坂浩二もまた、その厄介な疾病を抱えている一人である。
彼は大学を卒業後、銀行員をしていた時にその厄介な疾患を背負う事となった。周りの話し声がきになるのだ。
自分の考えている事を誰かが言ったり、自分の悪口を言っているように聞こえた。次第に落ち着きが無くなり、水分をやたらと取るようになった。
それで遂には精神内科を受診したところ、統合失調症と診断された。
彼は仕事を辞めざるをえなくなった。
実家に戻り、家族に面倒を見てもらうこととなった。
暫くして、病院の勧めで福祉作業所に通うこととなった。作業所には幅広い年齢層の男女がいたが、自分と同い年の大久保克明とは特に気が合った。克明もやはり統合失調症で、すこし不器用な側面があった。
克明は工業高校を卒業した後、自動車部品工場に勤めていたが、何年かして統合失調症を発症した。浩二とは気が合い、プライべートでも遊ぶようになった。浩二と克明は、同様の趣味の釣りやオンラインゲームなどで話題を共有し、盛り上がった。
2
「考えてみれば俺も脇さんも普通路線をちょっとした事で脱線したんだよな」
克明は少し僻むような表情で言った。
浩二は缶コーヒーを飲み干すと、そんな克明を尻目に、空き缶を握り潰し、深い溜息をついた。
「俺はもうどうでもいいよ、こんな病気になってしまった事はそういう運命だったと思っている。今でこそ幻聴や幻覚に苦しめられているが、お陰で障害年金も降りるようになったし、病院や作業所に通えていれば、それで落ち着いている、てもんだ」
2人はそんな会話を交わしながら苦笑した。
浩二と克明は、暇な時間を見つけては街の中を散策したり、池や川で釣りをしたりていた。
「しかし俺たち将来的にどうなるのかなぁ~、就職や結婚なんていうのできるのかなぁ~」
「ん、そのうちできるんじゃない?」
「明日はまた作業所、憂鬱だな」
2人は溜息交じりの言葉をこぼしながら、トボトボと歩くのだった。
3
浩二は頻繁に体調を崩すようになった。作業所も度々遅刻や早退が多くなり、よく欠勤するようになった。それとは逆に克明はますます作業に意欲を燃やし、生産活動も早くなった。
克明は就労移行支援施設に通うようになり、積極的に就職活動をするようになった。いろんな職場に実習にいったりもした。
それとは真逆に浩二は、殆ど作業所に来なくなり、やがて妄想めいた事を言うようになった。
克明は一般の会社に就職が決まり、2週間研修をすることとなった。スーパーでの商品陳列業務だった。
そのころ浩二は自宅で暴れ、父親を殴ってしまった。激怒した父親は浩二を精神科病院に入れてしまい、二度と出られないように手配を取った。
克明はスーパーでの本採用が決まったが、浩二が入院したことを浩二の母親から聞き、浩二の事が心配になった。
「脇さん、大丈夫かなぁ?」
4
克明は浩二の入院している病院を訪れた。
「あの、脇坂浩二の友人なのですが、面会できますか?」
受付の女性は、ちょっと待って下さい、と言い入院病棟に内線で連絡を取った。
受付の女性はニッコリとした笑顔で「脇坂さんのご友人の方ですね、面会できますよ」と言った。
克明は、面会室に通され、暫く待った後、浩二が暗い顔をして面会室に入って来た。
「大久保君、久しぶり」
「脇さん、少しやつれたんじゃないか?」
「お袋から聞いたよ、就職決まったんだってなぁ」
「毎日が大変だよ!パート雇用で短時間なんだけど、時々残業とかもあるし、人間関係とかも大変で、天手古舞だよ」
「俺からしてみたら羨ましいよ、俺なんか毎日が窮屈で、逃げ出したいよ」
「脇さん、俺たち作業所からの長い付き合いで、脇さんとは冗談を言い合ったり、励ましあったり、いろいろ言い合ってきたなかじゃないか」
「それがこんなにも差がついてしまった…」
浩二は俯いた。
「脇さん、これからもお互い助け合って行こう」
浩二は克明の手を握った。
「大久保君、俺の為にも頑張ってくれ!」
「うん!」
2人はお互いの肩を叩いた。
精神障害は、情緒不安定となり、考えが纏まらなくなったり、時には切れて暴れたりする厄介な疾患です。
この小説は私の体験によるもので、実際浩二と克明のような関係になった友人がいます。
どうか感想等を聞かせて頂けると有難いです。