貧民街。
ロア・クリアリスは色々な意味で特異体質であった。
十の誕生日を迎えるまで人との干渉を妨げられた屋敷でただ一人、育てられた。
人間と関わり、太古の昔から守り続けられてきた人間の生き方を忠実に再現する事によって、人間としての行動となる。
もし、七年前、レフィーがロアの住む屋敷に訪れず、ロアという名前を与えなければその小さな命に希望は無かった。
そして――レフィーの絶望を打ち払う事も無かった。
親のいないレフィーは不器用なりにと教育を施し、ロアは師でもあり、親でもあるレフィーに心の底から信用した。
二人の出会いは、これから始まる革命の序章。
◎
剣と刀は同一ではない。大きな違いは、戦い方にあるといっても良い。
刃を持ってはいるが、切るという行動よりも、打撃武器としての使い方を剣は求めている。
代わり、刀は単純に切る事を目的としている。裂き、物体を断つ。
つまりは、打撃武器が刀身を持つ剣と、単純に断つ、刀。
この二つは全く違う武器である事から、接近戦を得意とする戦士、騎士はまず、この二つのどちらが自分に合っているのか。それを見極める事が必要とされる。
しかし、その選ぶという行為は、天才の二文字の前では選ぶまでも無い事。
「やっぱり、凄いもんだね。同年代でロア君に勝てる剣士はいないんじゃない?」
感動よりも呆れが交じった口調で猫科の動物を思わせる大きな瞳と髪を持つ女性、ミロは今ほど剣を振り終えたロアに向かってタオルを投げる。
だが、百以上ある型を一時間弱という短時間で終わらせたロアの額には汗の雫が浮かぶだけで、息切れすらしていない。
剣を壁に立てかけ、汗を拭くと、ロアは首を横に振り、
「そんなことは無いですよ。昨日蒼の騎士に、俺よりも一切年下の女性が任官されたそうですし、多分上には上がいると思いますよ」
あくまで、謙遜の姿勢を崩さないロアの態度は憎たらしいという印象は与えさせない。
更に、ロアは続ける。
「一応、帝都の騎士が持つ基本武具――剣、刀、槍、斧、盾、銃、弓、片手剣、短刀。全てをマスターしたつもりですけど、銃ではレフィーさんには全然及びませんし、盾を武器とした戦いだったらジャグシーさんと互角に渡り合う自信も無いです。それに――一番得意としている刀を使ったとしても、ミロさんには勝てないと思います」
「ははは、ロア君は煽てるのが上手いのかな。ジャグシーは筋肉馬鹿だから、盾持ってたらそりゃ不利だってば。それに、私なんて十秒も戦う自信ないよ」
ぱたぱたと手振って否定するミロは過去に幾つもの戦争に出て。何度か皇帝自らに表彰されたほどの弓師だったらしい。今回、女性三人目の蒼の騎士に選ばれる前、その称号に一番近いのはミロだとも言われていた。
それが何故、帝国支配主義を目的とするG.Aに入ろうとしたのか、疑問はあったが、今まで聞いた事が無い。そして、これからも聞くことが禁句だろうから、聞く事は無いのだろう。
だけれども、ロアも戦いを住処とする者、強さを知りたいという欲求を抑える事はできない。
腰に吊るしてある愛刀を引き抜き、ミロに切っ先を向ける。
「本番前、最後に手合わせいただけますか?」
壁に体を預けていたミロもその動きに習い、手の平ほどの小さな弓を腰のホルダーから外し、
「うん。とりあえず、お手柔らかにね」
悪の道で、帝国を変える。
一時間にもよる長時間の入浴を終え、火照った体を冷ますべく、外の町を歩いていた。
町――といっても、そこには崩落した瓦礫の山、その隙間を縫うように子どもだちがうずくまっていた。
それが、現在の帝国の現状。
山を切り倒し、作られた帝国は頂上に皇帝の住む城、段々と下に続くと貴族、騎士、兵士、平民、貧民と格が別けられている。
本来は騎士や貴族などの地位の高いものは貧民層に入る事は禁止されている。
満足な暮らしを遅れていない貧民層の住むこの地域は感染病や、住民達による追い剥ぎも存在する。
だが、リオにその心配は無い。
「おおっ、リオちゃんが帰ってきたぞ!」
「うわー、久しぶりだね……。偉い騎士になって、貧民も貴族も無い帝国にしてくれよ」
「痩せたんじゃないのかね? こっちと違って、騎士達には給料が支給されるんだからちゃんと食べなきゃダメだよ?」
瓦礫の山の中から、どこにそこまでの姿が合ったのかと疑いたくなるほどの人が現れる。
リオは、貧民外出身の騎士だ。
本来は貧民から騎士への成り上がりは禁止されている。だが、そんな規則を曲げてでも大先輩にあたる蒼の騎士、ジークライトに騎士として迎えられてからは、この貧民層地域に来た事はなかった。
「みんな、久しぶり。頑張ってるから、ちゃんと、変えるからね」
変えようとは思っている、ここにいるみんなの生活を。
だけど――それは、無理だと知った。
帝国の政治は腐りきっている。
同じ帝国内に仕切りを作った頃から、貧民とそれ以外。独立して、上に立っている帝国では変える事などできない。
けれど――小さい頃から世話になったみんなを助けたいと、蒼の騎士を目指し、叶った今現在。
正義を通して――国を変えたいと思う。
えーっと、剣と刀のところは、フィクションかもです。
僕の感じ方、ですかな?
なので、あんまり信じちゃダメなようです。