天才、ロア
前回の投稿から間が空いてしまってスイマセン!
保存しないで消してしまったみたいで、同じ物を二回書く羽目に……。
とりあえず、少年の名前が今回明らかになります!
レフィー率いる帝国支配主義、解放団体。G.A。
何年も前から今日という日を待ち続けてきた団員達の中には緊張のムードが漂っていた。
「おい、レフィーは何処行ったか知ってる奴いるか!」
大柄で禿頭。茶褐色の肌、岩石のような筋肉を持ち、優に二メートルを超す身長。ジャグシーという名の大男はその体に似合った渋い声を室内に響かせた。
本人としてはそこまで大きな声を出したつもりはないのだろうが、近くにいた数人は咄嗟に耳を塞ぐ。それは毎度の行動で、ジャグシーとしても気にはしていない。
普段は大人しいジャグシーだが、作戦実行までは十時間、なのに団長不在の事態に危機感を募らせているのだろう、大柄な体に似合わず小心者のジャグシーだからこそだが。
耳を塞いでいた内の一人、作戦指揮を担当とするフィダルスは鋭角的なデザインの眼鏡をずり上げ、
「あれだろ、昔の仲間……の、墓参り。的な感じだろ」
「そうですか……。まったく、皆を率いる団長としての自覚が少し足りないのでは?」
体は二回り以上違う二人だが、フィダルスは二十八歳、ジャグシーは二五歳。年齢的にはジャグシーが年下なので必然的に敬語を使うが、実年齢より若く見えるフィダルスに、老けて見えるジャグシーが敬語を使う姿は始めてみた者は異様な光景に見えるだろう。
ジャグシーは毛の生えていない頭を掻くと、更に続ける。
「実力と統率力があるのは認めています、が。レフィーは協調性が皆無です。我々を囮として、単独で突っ走る。そんないつもの作戦で帝国を守る蒼の騎士に勝てるとは思えません」
「地の利と戦力、その他不確定要素を弾き出して導き出した作戦だ。一番成功の確率が高い作戦をこの俺が団長に提案している。許可は貰った。一団員のお前が口を出す事ではないだろう。……それとも、お前が代わりに決めてみるか?」
団長が体、団員が手や足、もしくは武器だとすると作戦指揮の担当は脳に位置する。
例え切れ味の鋭い刀を持っていようとも、筋肉に覆われた逞しい腕を持っていようとも、ただ何も考えずに戦うだけでは偶然によって引き起こされる勝利はあったとしても、絶対的な勝ちは訪れない。
敵を判断し、策を練り、行動する事によって、遂に必然的な勝利を手にする事が出来る。
数でもなく、質でも無く、本当に強い隊とは、最高の策士がいる集団。
つまり、作戦によって勝敗が決まる事も少なくは無い。
自らをプロと名乗るフィダルスの発言は自棄になった訳でもなく、本当にそう思って出した発言だと感じ取ると、場が一気に緊張に包まれる。
「……本気で言ってるんですか? フィダルスさん。団長の許可無く作戦を変更するなんて……」
今まで傍観を決め込んでいた団員の一人が止めようとするが、蛇を連想させるフィダルスの瞳に捕らえられると、自然と口を噤むしかなくなる。
固まる場の空気、その中でフィダルスは胸ポケットから煙草を一本抜き出すと、火をつけることなく口に咥える。
「まあ、俺の一存で作戦変更は出来ないが、決定権は半分持っている。団長がこの筋肉馬鹿が出した案を却下したとしても、俺が賛成すればどちらかが譲るしかなくなるだろうな。作戦が決まっていない隊で戦いに挑むほど団長は無謀ではないだろうし。やはり延期はやむを得ないだろうな」
延期という言葉に反応し、ジャグシーは声を荒げる。
「そんな、俺はそんなこと言ってないじゃないですか! 別に今回の作戦に意義があるわけでは……」
引き下がるジャグシー。だが、フィダルスの言葉には怒りがにじみ出ていて、普段の彼を知る者であれば予想だにしないほど怒気を孕んだ口調でまくし立てる。
「テメェにそんな気が無くても俺にはそう聞こえたんだよッ! ただ敵を殴り飛ばしとけばいいテメェとは違う、一パーセントでも成功に導けるように頭悩ましたことあるのか!? 丸三日休みもせずに状況状況に対応できるように配置考えた事あるのか!? テメェは口で言えばいいかもしれないけどな、俺や団長にとってはそんな一言一言が侮辱に値するんだよ」
フィダルスは机に思いっきり拳を振り下ろすと、その振動で中身の無い酒瓶が倒れる。
――そこからの行動は一瞬であった。
瓶の飲み口を下にして引っ掴み、ジャグシーの脳天目掛けて酒瓶を振り下ろすフィダルス。
二人の間を妨げるように割ってはいる一人の少年。
少年の右腕は的確に瓶の真ん中にぶち当たり、室内にパリーンッ、とガラスの割れる音を響かせる。
勿論、無傷な訳がない。手の甲にはガラスが刺さり、血がにじみ出ている。
白い髪を持つその少年は服の袖で血を拭いとると、痛みで僅かに顔を顰める。
「作戦決行前だからお互いイラつくのも分かります……けど、暴力はダメです。俺たち共通の目的は帝国支配主義の破壊……その前に怪我で作戦に参加できない。なんてことになったら困るのは二人のはずですけど?」
あくまで冷静に、坦々とした口調で大の大人二人を言い宥める少年の言葉はどこか説得力のある物で、フィダルスもジャグシーの顔も普段の穏やかさを取り戻していた。
「……分かっているさ、ロア。お前に言われなくても、な」
フィダルスは嫌な物を見るように、少年、ロアにそう吐き捨て、奥の部屋に引っ込み、ジャグシーは椅子にかけてあったコートを羽織り、外に出て行った。