第二話 蒼の騎士、リオ。
前回も書きましたが、ようやく名前が出せるようです。今まで名前出せずに申し訳ありませんでしたorz
小さなベッドに身を沈め、微かな寝息を立てるリオのその姿は、皇帝に認められた優秀な戦士ではなく、まだ十六歳という歳相応の姿に見えた。
「ん、寝てた、か……」
窓からカーテンを通さず、直接差し込む眩しい日差しに眠りを覚まされると、意識が覚醒。背を起こすと、大きく伸び。体がそんなに訛っていないことから寝ていたのは精々二時間ぐらいだろうと推測する。
昨日一日で蒼の騎士としての仕事を終えたので、今日一日は一日中寝ていてもいいのだが、明日からは一つの隊を受け持つ立派な隊長となる。不甲斐ない姿を見せるわけには行かないという緊張からか、少しでも体を動かしておきたいという欲求に駆られる。
蒼の騎士が直接指揮する隊は、実戦を経験した事のない入隊して間もない新人を集めた、いわば新参者の寄せ集めだ。
一から使える者と使えない者を篩にかけるため、蒼の騎士が指揮する隊は、隊長である蒼の騎士自身が実力を見分ける力が必要だ。ただ純粋に強い、リーダーとしての資質があるだけでは勤まらない。
それ故に蒼の騎士という重要な地位に就く事は容易ではない、リオのような十六の少女が蒼の騎士として隊を率いるという事事体が異例なのだ。
隊の力は隊長の初日にかかっているといっても過言ではなく、自分よりも下に見られた場合、忠誠心が揺らぎ、逆に明らかな実力を見せれば何も言わずに着いて来る。
リオが緊張するのも仕方が無い事とも言えた。
(とりあえず、最初は型の練習……その後は実践練習をして――)
と、そこでリオはあることに気付いた。
昨日は食事すら満足に取れなかったのだ。勿論、風呂に入る事すら出来ていない。汗臭く、それに寝汗で服がべたついているのは不快感を誘われる。
「……やっぱり、先に汗流した方がいいか」
結局練習を終えればどの道汗をかくのだからそのままでもいいと思えたが、そこは恥じらいを持つ少女なのだろう。
腰に吊るしてある刀をベッドに置き、廊下の奥に設置されている風呂を目指した。
同時刻、スイと別れた後、レフィーは緑の深い森の中にいた。
帝国の端の端、日差しの差し込まないほどの深さを持つこの森は、感覚を狂わせ、平衡感覚を惑わし、耐え様の無い恐怖と不安を撒き散らす。どこにでもあるただの木の纏まりではない。
強い意志と強靭な肉体。二つを持つ者だけが行く事を許される通称、魔の森。
落ち葉を踏みつける音、枝の折れる乾いた音、レフィーの息が漏れる音。
この三つの音しか存在しない空間、代わり映えのしない景色の中、突然レフィーは足を止めた。
目印となる物が置いてある訳でもなく、言葉で表現できるとするならば、二本の木々が結ぶ直線を遮るように立った。
これより先に経ちいる事を諦めた訳ではなく、確実な意思を持ち、立ち止まった。そう、レフィーの目的地はここであった。
「……ジザ、ミーハ。アクトルに……クレフィズ」
四人の何者かの名前を呟くレフィーの顔はどこか悲しみに満ちていて、どこか達成感に似たものも感じ取れた。
その場にしゃがみこみ、コートの懐から四本のナイフを取り出した。どれもが似たようなデザインだが、持ち手のところにそれぞれ『Z』、『M』、『A』、『K』と掘り込まれている。
そして、レフィーはコートの右袖に手を入れ、一本のナイフを取り出す。
先に取り出された四本と同じように、『R』と。
「俺たち孤児の中で生き残ったのはスイと俺だけだ。誰よりも強かったジザでもなく、天才と呼ばれていたミーハでもなく、革命を起こす事に誰よりも命をかけていたアクトルでも……努力してきたクレフィズでも……。機械いじる事とただ大人しいやつだけが生き残ってんだ」
そっと目を閉じると、最高の友でも合ったジザの声が鮮明に思い出される。
『レフィーは、もっと強くならねえとな。そんなんじゃクレフィズにも勝てねぇってーの』
今でこそ実力をつけたレフィーであったが、昔は六人の中でも一番弱かった。工具異常の重さの物は持てないスイにすら負けていたのだ。
だが、師と崇め尊敬していた人や、最愛の友が去り、残ったのがスイとレフィーだけになった時に、遂にレフィーにも変化が訪れた。
今までの言葉だけの恨みではなく、行動しなければ何も変わらないのだと。
一人ずつ、隣からいなくなり、悲しみに明けるだけでは意味が無い。志を持ち、散っていった友の思いを叶える為に今のレフィーは存在する。
「俺はお前等の夢――帝国支配主義制度を破壊する。金や名誉しか考えてない貴族連中を助けるための制度なんかいらねえ」
今日、レフィー率いる帝国支配主義解放疑団、G.Aは帝国に戦いを挑む。
残り――十八時間。
と、今さらですが、あらすじに書いてある少女はリオのことですが、少年とはレフィーのことではありません。
……レフィーは青年ですので。