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ーオルドワルドー  作者: 淡山吹
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面倒な日常の幕開け4

 眼前に広がるは砂漠、おおよそ一キロ近くの砂漠化、これが恐らく一週間のうちに行われたのだと俺は考えた。

 踏んだ感触はさらさらとした砂と言うよりかは砂場のしっとりとした感触に近い、車に積んである道具箱からシャベルと荒めの金網探す。

 「何を探しているんだ?」

 靴に砂が入るんじゃないかと思い、車から降りることを迷っている三度は僕に聞いて来た。

 「ショベルだよ、後金網、車降りるの嫌なら探すの手伝ってくれ」

 「嫌だよ、道具探す為に降りなきゃいけないじゃないか、私は靴の中に砂が入るのは構いはしないけれど明日もその砂が残ると思うと降りたくないんだよ。わかるだろう」

 「解るけどよ、こっちも仕事なんだ。探さないなら助手席の方に座っていてくれ」

 後部座席のシートを畳み、座席下から道具箱を探し出す。

 中を見て見るが、思っている大きさのシャベルが無い、金網はちょうどいいのはあるんだが……。

 「なあ、ボルト。これより小さいシャベル無いか!」

 俺は折り畳み式のシャベルを高く振って、小高い砂山に上っているボルトに聞いた。

 「無いと思うよ!前のグローブボックスの中にあるメンテナンスキットは見たかい!」

 「見たけど無かった!」

 「なら、積んでいないと思う!」

 仕方なし。

 俺は畳まれているシャベルを少し開き、接合部を留め具で止め小さいショベルとして使うことにした。

 常備してあるバケツを用意し、せっせか、せっせか砂をバケツの中に入れていく。

 底が見える内は砂よりかは砂利を入れているような音がしていた。それもそのはずで何度かシャベルの先にコツンとなんかぶつかる感触があった。

 その中には鉄筋であったり、車の破片であったり、それはもう様々な物が埋まっていたがどれ一つとして想像していたものは出てくる気配がない。

 「ねえ、仲瀬、ここは元々何があったんだ?」

 車から降りる気の無い三度がそんなことを聞いて来た。

 「ここには元々そこそこ大きな樹みたいのがあったんだよ」

 「樹みたいって随分と想像しにくいな」

 まあ、樹みたい、樹のようなとしか言えないのだからしょうがない。

 樹と言うのは一般的には地中に根を生やし、上へ上へと天を貫く様に伸びていくものなのだがどういうわけかここにあった樹は恐らくだが下へ下へと貫けるはずもない大岩や万物を溶かすマグマに燃えてしまうことも知らずに伸びていったのだと推測できる。

 地上部には切り株と言うには大きすぎる樹の幹があり、その腹部にある穴の中にここら一帯で暴れる魔物が住んでいた筈なのだ。

 「見つかんねぇなあ」

 バケツもいっぱいになる位に砂をすくってみたが破片が見つかった気はしない、気はしないが、バケツをもう一つ用意しその上に金網を置く。

 バケツの中身を少しずつ金網の上に乗せ、金網を揺らしながらもう一つのバケツに移していく、やはり多いのは車の破片で、鉄筋などの自然物ではない人工物がほとんどだった。

 その一つ一つを服の裾で砂を払い、ビニールシートを敷きその上に並べていき、それら一つ一つをよく見ていく。

 「何しているんだ?」

 三度は俺がやっていることが気になるのかちょっかいをかけてきた。

 手伝わせるか悩んだが、三度の手の先はマシュマロとまではいかなくともダリア愛用のベッドくらいには柔らかそうだったのでやめた。

 (まあこういうのを素手で触るのも良くないし、こういう場所に長く居るのも良くないんだがなあ)

 「緊急調査かなあ」

 「私にもできるか?」

 「止めとけ、振るって砂をはらったとはいえ危なすぎる。具体的にはこれは車のドアの一部だと思う、ここらに在った車は劣化していたとはいえガラスが張られていたからな、ガラスの破片が付いてないとは断言できない、すぐ眠くなって目をこする三度は触らない方がいい」

 ムーッと膨れる三度の顔よりもこのガラクタには中々奇妙な点が多かった。

 更地になる要因なんか普通は無い。

 砂漠化の例としてわかりやすいのは干ばつ等の気候変動だが、ここ十年の記録じゃむしろ干ばつではなく雨が多く降り、潤いのある大地が出来上がっていた筈だ。

 そして人為的干ばつの例に挙げられる森林伐採だが、そもそも人類の人口は減り、文明もある程度後退し、そんな大量伐採が起きるような設備を持っているこのあたりの人間に心当たりは無いし、組織に関しては幾つか持っていそうなところはあるが拠点はこの辺りには無かった筈だ。

 も一つあり得ない可能性としては、嵐なんてのもありはするが……。

 「まあ、無いだろうなあ」

 地図とここ最近の気象情報を見ながら、いろいろ考えていくが、おおよその考えは一つに絞られていく。

 その考えを確実なものにすべく少量の砂と破片を保存容器に詰めて、ボルトにあることを相談しに行く。

 「なあ、ボルト」

 自分の考えを話し、この後の動きについても相談する。

 「で、何が言いたいんだ?」

 「まだ確証はねぇが、魔法使いが絡んでんじゃねぇのかって俺は思うんだ。お前も見ただろ? あの翼竜を。俺の一撃を。たった一日魔法を使った俺でさえあの力が引き出せるんだぜ、罪人や現代の魔法使いなんかが関わってると考えても見て見ろ、こんな砂漠作るのわけないと思わないか?」

 稲村は少し考えた後、次の動きについて話した。

 「僕にはその判断が出来ないが、ナットの話を聞く限りは人為的な物を感じなくもないがあまりにも規模が大きすぎる。ここは一旦街に荷物を届けるついでに情報収集しに行こう」

 自分と同じ答えにたどり着いたボルトと拳でタッチを交わし、車に戻ると三度が車から降りてどこからか戻ってきたところだった。 

 まあ、出来るだけ考えないようにしておこう。

 「早く車に乗れ、街に行くぞ」

 俺は助手席に乗り、ボルトの運転で車は砂漠を後にし、街に向かう。

 街は変わらず、人は多くも無く少なくも無く、都市部の荒れた大地より新たな実りが芽生えた土地を目指してきた様々な人が道を行き交っている。

 車が希少な物になっても車道と言うのは生きている。車が通る為ではなく馬車などの動物に引かせて動かす物になるが。

 魔物が出る世の中と言っても全部の魔物が人を襲いはしない、彼らのルールに従い、動けば気づ付けられることも木津着くことも無いが、少し昔までは魔物は見境なく襲ってきた事実もある。

 (この変化と、あの砂漠化、何か関係があるのなら)

 コックリ、コックリと頭を揺らしうとうととしているとボルトが体揺すってきた。

 「ほら、起きろってナット。三度ちゃん後ろに積んである小箱取ってくれないかな、あぁそれ、名札の付いてるやつね」 

 俺はのーびと体を伸ばし、ボルトから包みを受け取り降りる。

 コンコンとドアをノックし、配達をしていく。

 そうして配達すること数件目で中々に面白そうな話を聞けた。

 「なあ婆さんその話ってのは本当なんだろうな?」

 俺らが取り扱っている運び荷の中でもよく運ぶのは薬だ。傷薬だったり、風邪薬だったりいろいろだ。

 この婆さんもその薬をよく買う人の一人で、俺とも顔なじみだ。

 「あぁ、三日、四日前だったかな、黒いボロを着た男が『魔獣の住処はどこだ?』って聞いて来たんであんたらが言う巣の場所教えてやったら、そいつこの街で一泊もせずに向かって行っちまったんだよ。ここから徒歩でどれだけかかると思ってんのかねぇ」

 黒いボロ切れの男。

 見かけただろうかそんな男。

 ここに向かう道中を思い返すが、そんな男は居なかったはずというか……。

 「仲瀬、君は寝ていただろう」

 三度とボルトにここまでの話をして出てきた答えはそれだった。

 「まあ、そうなんだよなあ」

 監視カメラ何て文明滅んだ世界じゃ写真か、自分の目位しか信じれるものは無い。

 だからここでの話し合いの焦点は。

 「黒い男を探しにもう一度巣に戻るか、一度アジトに帰りダリアに報告するか……」

 しかし、それとは別の変な感じもする。

 「なーんかしっくりこねぇなあ」

 脚をダッシュボードの上にのせて手を枕にして座りなおす。

 結局一番の安全策はダリアに報告しに行くが一番か。

 「ボルト、一度アジトに戻ろう」

 「ダリアに報告するのか?」

 「まあなぁ、正直自然由来の事件とは考えにくい、俺らがこの魔物の討伐依頼をこなすのだってあまりに目に余る暴れ方をしたときとか、魔物に暴れてもらっては困る時とか必要でなければ俺らは危害を加えることも無い、こんな面白くない事をしたやつは許せないし放っておけないが、もしそんな化物相手にこの装備で勝てるとは思っていない」

 ボルトは車を出しながら、俺の話に付き合う。

 「それはダリアに相談じゃなくて、ダリアにお願いの方が近いんじゃないか?」

 揺れることなく、綺麗に速度を乗せ走る車の中俺は。

 (あぁ……ダリアにお願いってとられるのか)

 と思いながら、少し心が辛くなっていた。

 ダリアと言う女性は人の上に立たせれば優秀な人だ。 

 大抵なんでも出来るし、だいたいの人間からの人望が厚い、もし世界が望んだ救世主が彼女だと言われても全員納得するそんな人間だ。

 俺らを率いる事を了承し、今なお活動し続ける人間。

 俺の決断を彼女はなんていうだろうか。

 断られるだろうか。

 天井を見つめてもベージュの天井がもこもことけば立っているだけで何も無い。 

 頬にひんやりとした手が触れた。

 その手に触れると細い手指に小さな手のひらが後ろに伸びていた。

 (なんか安心できるんだよなあ)

 翼竜の時もそうだったが、神様ってのはどうにも人を癒す力でもあるんだろうか。

 あるのなら羨ましいと思う。

 手を触れただけで、人をここまで安らぐ気持ちに出来るのであればこの世の不幸は今より少し減るかもしれない。

 そんな冷静じゃ考えないようなことを考えていると耳元に吐息がかかる。

 ぼそぼそと何をつぶやいているかわからなかったけれど。

 目瞼が落ちていくにつれて、だんだんと聞こえてきた。

 あなたは大丈夫と。

 次に目が覚めた時はアジトに着いた時だった。時間にしたらどれくらいだろうか、三十分か一時間かそれ位は日の傾き方からして寝ていたと思われる。

 お手洗いで手を洗い、飲料水でうがいを済ませ居間に戻るとダリアがキッチンで紅茶を入れているのが見えた。

 「ダリア、ボルトから聞いていると思うが話したい、話したいことがあるんだ……」

 「くだらないジョークでそんなこと言うなら話、もう聞かないわよ」

 「そりゃ困る。今回の依頼の成否だがおおよそ失敗とみていい、俺らが守ってきたこのあたりの生態系は一気に崩れることが予想される」

 ジョークを交えながらでもないと切り出せなかった。

 運び屋とは別業務にもかかわってくる大事な話だったからだ。

 ダリアに今日あったことを出来る限り話した。

 罪人と戦い、彼らの異常さ、メインの依頼だった魔物の間引きはこなせなかったこと。そして黒いローブの男の事を。

 「どうしましょうか……」

 チャポン。

 「悩ましいわね」

 チャポン、チャポン。

 唸りながら貴重な角砂糖をティーカップに入れていくダリア。

 「おいおい、飲めんのかよそれ?」

 「悩ましい話ね……」

 ダリアは魔法使いの異常性を言葉で聞いただけだ。それでもこの人間はその状況をどんな形であれ想像することが出来、理解してしまう。

 だから悩めるのだ。

 だからこの人は「人」なのだ。

 そんな悩める人間である彼女が下した決断は何となく想定できていた。

 「その黒い男を最優先対象としてD2の方に、いかなる任務よりも黒い男の証言を集め、人物像を確定させる事。くれぐれも手出ししてはいけない事、そしてこれは依頼ではなく任務である事を連絡しておくわ」

 「俺たちはどうするよ」

 「現状維持ね、私たちの最大の役目は流通網の維持、本当は東極に拠点を構えたいのだけれどあそこはもう完全に流通が通っているし、私たちに勝算があるわけじゃない」

 ずっと解っていたのは現状維持の回答。

 そりゃそうだ。

 得体の知らない敵と戦えるのは良いが、肝心要の俺がこんなのだ。戦う勝算を探す方が難しい。

 「……ただ」 

 添う言葉をつづけるダリア。 

 「魔物の討伐はしてもらいます。あの場を害する物を倒し、生態系の守護を務めなさい」

 「弾薬は?」

 「お好きにどうぞ」 

 その言葉を聞いて飛んで来たのは二階で作業中のはずのボルトだった。

 「今の言葉は本当かい!」

 「ええ、生態系の保護はいずれやらなきゃいけない、他の生命とも争う事もある。その時戦えないのでは話にならないでしょう?」 

 喜ぶボルトとは逆に、俺は悩んでいた。

 自分の力はどう使うのが正しいのかを。

 本当は。

 本当の使い方は違うんじゃないのか?三度。

 俺は寝ている三度の横に座りそう思った。 


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