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ーオルドワルドー  作者: 淡山吹
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運命は誰にも味方していない

人生とは奇妙なモノなのだ。 

例えば突然として世界が終わってしまったり。

例えば突然として実弾の効きが悪い化物が現れたり。

 そう、例えば空から女の子が降ってきたり。

 そんなことが起こってしまう位に奇妙なことが起こる世界では。よくわからない女の子を拾うなんて面倒には関わらない事が一番なのだ。

 「いたぞ!」

 「チッ、キリねぇなあ」

 ダッシュボードから手榴弾を取り出し、ピンを抜いて後方に投げる。

 バックミラーで後方を確認すると先ほどより二台程度は減っているが、見えるだけで五台はまだ追ってきている。

 頭の中で地図を思い浮かべる。記憶が確かならこの先はしばらく直進でも問題ないはずだ。

 (なら……)

 今度は身を乗り出し愛用の拳銃で追手の車輪を一発も外すことなく狙い、撃ちぬいていく。

 その様子を見ていた少女は感心したような声を上げた。

 「凄いなあ、君の仕事は殺し屋か?」

 「ただの運び屋だ、ったく」

 苛立ちながらアクセルを踏み込む、速度を上げる車の中でどうしてこうなったのかを少し考えた。

 始まりはそう。

 そう、ただいつも通り荷物を受け取った筈なんだ。


 「……さん、荷物これで以上ですか?」

 「ああ、いつも通りよろしく頼むよ」

 帽子の鍔をつまんで一礼、別に店の決まりってわけじゃない、個人的な運び屋や配達員なんていう仕事に対するイメージでやっているだけだ。

 それに礼をするとたまに笑顔で返してくれるお客もいるもんで、やめられない。

 オートマが主流のはずだがどうしてかウチではマニュアルを好む人が多い、俺個人としてはクラッチだったりシフトレバーだったりと気にするところが多くて大変なんだが。

 そんな車にも何度も乗れば慣れるもので今では窓の外を眺めたりするくらいには余裕も持てるようになった。

 「随分と変わったよなあ」

 ビルなんかは崩れて半分折れてしまっている。場所によっては地下空洞があって、そこに沈み込んでしまったなんて場所もあった。

 地震や嵐が多発する旧日本の家屋でさえ大災害では甚大な被害が出たという。

 今では古い世界地図のほとんどは間違っているんじゃない科なんて説も出ている。

 宇宙センター、グーグルアース、宇宙から地球を観測していた場所も機能を失ってしまっている。

 そんな崩れた世界。

 「何がやりたくて運び屋なんか。始めたんだっけなあ」

 ため息をついているとドンと勢いの良い音と衝撃が車を襲った。

 「やべっ」

 急いで車を停めて、前方を確認する。

 子供か、大人か轢いてしまったかと思ったが血も無ければ体も無い、車の下を覗き込んでも何の影もありはしない、はて、と。頭をひねっていると上から声がした。

 「おい、おい、君」

 随分と古臭い口調だった。

 「おい、君、ここは何所だ?」

 「何所だと言われても何所だろうな、名を無くした場所だよ」

 「ええい、何でもいいここは何所だ?」

 「強いて言うならアメリカか?いやまあ寒くないから北アメリカの下の方だな」 

 古臭い言葉を使う誰かはボソッとつぶやいた。

 「随分とずれてしまったな」

 「なに言ってるか全然聞こえねぇよ! あんたそこから降りたらどうだ!」

 二メーターは無いにせよ、一メータと六十センチはある高さを少女は恐れることなく飛び降りた。

 白いスカートを靡かせ、風に揺れる白に見間違うほどの白金の髪、何より印象的なのは抱えて持ってやっとな程大きな古い本。

 俺の方を真っすぐ見る瞳は血を思わせる赤のような黒色をしている。

 それらを全て置き去りにしたのは一瞬見えた白さだった。 

 「……見たか」

 「俺がもし中学生なら恋に落ちていたね」

 「落ちてもよかったんだぞ?」

 「中学生ってのは自制の効かない獣と変わらんぞ?」

 ジョークと理解しての返答だと思っていたのだが、どうやら理解していなかったらしくポカポカと愛らしい効果音が聞こえそうな程弱い力で俺の足を叩いてくる。

 「それにしても」

 俺は少女の目線に合わせるべく足を曲げ、腰を低くする。

 「チビだな?」

 プチッ。

 「目は反則だろ……」

 「初対面の女性に向かって無礼ばかり働くから罰が当たるのだろう?」

 罰っていうか制裁、つか、私刑。

 「んぁ、てか、嬢ちゃんどうしてこんなとこに?」

 疑問の回答が帰るより先に、奇妙なうめき声とエンジンの駆動音が聞こえる。

 少女は焦った表情でばたばたと地面を踏んでいる。

 「どうした?」

 「のんきにそんなことを答えている場合か! 早く、早く車を出してくれ!」

 「なんで?アレ迎えじゃないのか?」

 「天国へのな!」

 「そいつあ、よくねぇ報せだな⁉」

 少女を抱え助手席に放り込み、急いで車を出す。

 ブルンと威勢のいい音と主に跳ねるようにタイヤが回り、追手を引き離す。

 「おい、嬢ちゃん。アイツら一体何なんだ?」

 「わかりやすく言えばゾンビ、難しく言えば半端者だろうかなあ」

 「なんて煮え切らん回答だ。もうちっとはっきりとした答えは無いのか!」

 「しょうがなし、乗せてしまった船だ。少し説明してやろう」

 足先で床を叩く俺とは対照的に少女は落ち着いた様子で語り始めた。

 「まず。追ってきているのは正しくは罪人だ」

 「罪人?」

 俺は聞き返すが、少女は話を進める。

 「そうだ。あの世で悪さをして比較的刑の軽かったもの、所謂そそのかされてやってしまったという心の弱い者が今後ろから追ってきている奴等の正体だ」

 「じゃあ心が強ければどうなんだよ?あの世に封じられてるってのか?」

 笑うしかない現状にカカカッと笑いながら質問する。

 「封じられているはずだった。この本にな?」

 「はずだったってお前……」

 前を見る顔は動かさず目だけ少し横を睨む、すると。ムスッとした子供らしい顔が見られた。

 そんな表情のまま声も何所か拗ねた様子で続ける少女。

 「意志の弱い奴等ばかりならよかったんだが、中には硬い意志をもって悪の道に進んだ奴もいる。そんな奴らが一斉にあの世に来たのが約十年前。半端者を扇動し、脱走を図る罪人達を抑えるに抑えることができなくなった私たちは、ついに罪人達の脱走を止めることが出来なかった」

 しょんぼりという擬音が聞こえそうなほど小さくなる声を出す少女に確認の様に俺は聞いた。

 「じゃああんた所謂「カミサマ」ってやつなのか?」

 「そうだともいえるし、そうでないともいえる。難しいんだ。あの世って言うのは。人が思うような程楽が出来るわけでも無いし、楽しいわけでも無い」

 少女は窓から身を乗りだし、後続の車に手のひらを向けて何かをしようとしている。

 また俺に聞こえない程小さな声で何かを言っているが聞こえない。

 少女は助手席に座りなおし俺の方を見てこう言ったのだ。

 「君、魔法使いにならないか?」

 そう言われた俺は。

 「はぁ?」

 そう答えたのだった。

 

 ここまでを思い出した俺は叫ぶように吐き出した。

 「あぁそうだ、今日はなんもいつも通りなんかじゃなかった! よくわかんねぇのは助けるわ、よくわかんねぇのに追われるわ、魔法使いにならないかとか聞かれるし……」

 「災難だな」

 諦めたような表情をする少女、俺は右にハンドルを切りながら少女の方を向いてありったけの声で叫んだ。

 「最ッ髙だ!このままあんたを連れてればあんな愉快なのに追われるんだろ?」

 「ああ、彼らは私のこの本を狙っている。この本は罪人を罪人として縛るための本だ。この本が無ければあの世で罪人という形も消える」

 俺は車に備え付けた通信機のツマミを上に弾き電源を入れ、ヘッドセットを勢いよく頭に付ける。

 音質の悪いスピーカーが愛しき友の声を届けてくれる。

 「調子はどうだい、ナット」

 「最悪だぜ、ボルト。なぁダリアは居るか?」

 「リーダーか?いるけど。どうしたんだい?」

 「どうやら俺はカミサマってヤツに出会っちまったみたいでな、ファンタジックな連中に今追われてんのよ」

 通信越しでもわかるボルトが頭を抱えているのが、俺はそれがおかしくて口端が少し上向きに上がってしまう。

 サイドミラーを覗くとすぐそこまで半端者共が来ているのが見えた。

 口で小分けにした粘着爆弾を廃墟の壁に貼り付け爆破させる。

 「随分と景気のいい音が聞こえるな、仲瀬」

 低い女の声でダリアだと気が付いた。

 「あぁ、随分と厄介なのに追われててな、どうやら自分の道さえ自分で決められない半端者と言うらしい」

 「この世の中じゃミンナそんな物よ、それで神様がどうだとか聞いたけど。あなた何か信仰してたかしら?」

 「この世じゃ珍しく無宗教だ。だが、世の常として望む奴より望まない奴の方がいい結果を得られるものさ」

 弾の切れたハンドガンをしまい、本題に入る。

 「どうやら神様は俺を魔法使いにしたいらしい、条件は解らねぇが……俺はこれを受けようと思う」

 厳しい声が頭の奥底に響く。

 「駄目よ、貴方立場をわかっているの?」

 「まあ、こんな立場だからはしゃぎたくなるのさ、それじゃあな」

 トランシーバーを置き、つまみを下に弾き通信機の電源を落とす。

 後ろでは何時かニュースでやっていた飛蝗の大群を思わせる数の半端者が追ってきている。

 「爆発も銃弾も足止めにしかならないのか……」

 「そりゃあこの世の者であってもこの世の理にはおらんからな」

 理、そう聞いて俺は少しだけ足が震えた。

 「魔法使いってのは人じゃなくなるのか?」

 「いや、ならん。魔の法を行使するから魔法使いなんだ。魔における法は契約だ。しかし魔と言う存在を認知する前なら最も身近な悪魔と契約する必要がある」

 少女は一息溜めて、話した。

 「「心」だよ、人の道を外れるも留まるも、悪も正も人の心に魔が差すからよ、で、どうする?」

 俺は、車を停め、両脇に荷物と少女を抱え行き止まりの壁にぶつかる。

 「心に逆らうとどうなる」

 俺の質問に満面の笑みで少女は答えた。

 「心に喰われる。本能という人間が理性と言う社会の作り上げた獣に喰われる。それだけだろうよ」

 その時俺は思った。こいつがカミサマなら死んでみるのも悪くはないと。

 「なら俺の答えは決まった。為るよ魔法使いに」

 少女は、俺の腰から銃を引き抜くと、赤い弾丸を込め俺にこう言った。

 「なら、青年よ私の高さにまで下がれ」

 言われるままに腰を下げると俺の頭に銃口が突きつけられた。

 俺はのんきに少女の名前を聞いた。

 「なあ嬢ちゃん名前は?」

 「……三度、三度境だ」

 「そうか、俺の名前は仲瀬徹」

 少女はそれだけ聞くと引き金を引いた。

 弾かれた弾丸は俺の体を突き破り、体の中でナニカが弾けた。


 暗い、暗い世界だ。

 最後に憶えているのは三度の弾丸が俺の頭を貫いた所までだ。

 目の前に広がるのは暗闇ばかりで光なんか一つもない。

 「ここは君の魂の中、君が来たってことは選ばれたのか?」

 何者かがそう聞いてくる。ここがあの世だと仮定したならこの質問には答えちゃいけない。

 「答えないか、いや別に構わない、一つ君に許可を取りたいだけなんだ。全く彼女も人使い、もとい、魂使いの荒い人だ」

 随分と落ち着いた男の声がする。俺より十か二十は上だろう。

 「答えないのなら、困ったなあ、まあ僕一人でも出来ることをしていこうか……」

 男がそういうと暗闇が開け、七色の薔薇で彩られた庭が現れた。

 「なるほど。君は一度「誰か」に会っているね。この薔薇たちに見覚えはあるかな?」

 俺はだんまりを決め込んでいた。いたが、この薔薇には見覚えが確かにあった。

 生きる為の生き方と言うか、人生の標になっている人がこの薔薇たちとよく似たアクセサリを身に着けていた。

 「まあ、それなら納得も行く。君は魔法使いになりたい、僕も君を魔法使いにすることが役割だから話をしたい。話せないなら多少強引な手を使わなきゃいけない」

 俺は身構えた。ただ、何も考えずに身構えたのだ。

 「うわあ、君怖いなあ。何も考えずに人を殺せるタイプの人間か、困ったこれじゃ心に直接聞くことも出来やしない、頼むから話してくれよ」

 男は地面に膝を付けようとした所で、俺は声を出してしまった。

 「俺の降参だ。なりたい、なりたいさ魔法使いってやつに」

 「やっと口をきいてくれた。僕が決めれるのは一つだけなんだけどね」

 「一つだけ?」

 「ああ、最も大事な一つだけ、それは代償さ」

 男と代償を決めた時、心が躍ると同時にお互いに苦い顔をした。そんな代償でもなければいけない程だったのだ。

 どうやら天は二物を与えてくれはしなかったようだ。

 忘れ物などいないけれど無意識に確認してしまうのはどうしてだろうか?

 「行くといい、法の内容は君が一番解っているはずだ。標す魔がどんなものか君は解っているはずだ。行くといい、彼女の呼び声に従い向かうといい」

 「行ってくる、ところであんたの名前は?」

 「そうだな、「託す者」とでも覚えていてくれ」

 俺は頭を下げて、次に頭を上げた時には現実に帰ってきていた。

 三度は俺を小さな腕で抱きしめ、祈る様にしていた。

 ズボンが少し湿って重たい、きっと彼女は泣いたのだろう、あって数時間の俺の為に泣いたのだろうか? それとも命を失う恐怖で泣いたのだろうか。

 三度は笑顔でこう言った。

 「おかえり、弾丸の魔法使いよ。この戦を、試練を超えた際には君にも魔法師としての名を与えよう」

 目の前に群がる半端者なのか罪人なのか解らない山に俺は向かって言い放った。

 「来な、弱者一同」

 その声を皮切りに、飢えた獣のような半端者達は二人に飛び掛かっていった。


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