07 けんちゃん
けんちゃん久しぶりっ。
あれ今日はアヤさん一緒じゃないの。
珍しいね、いっつも一緒なのに。
けんちゃんがこの街に来たってことは、やっぱアレなの? スカウトなの?
この街にそんなべっぴんさんいたっけ。
まあそれはそれとしてっと、ちょっと見てもらいたいもんがあるんだけどさ。
いや大丈夫だって、絶対けんちゃん好みのお宝だから。
ちょっと待っててねっと、えーと、ほらコレ。
じゃじゃーん『魔法の盾』!
ねえ、何その目、もしかして見た目だけで判断してんの?
何それ、伝説の『鏡の賢者』様ともあろうお方が見てくれだけで価値決めちゃうの?
がっかりだよ、けんちゃんなら分かってくれると思ったんだけどなぁ。
知りたいでしょ、何で俺がこんなに頑張ってんのかって。
ちょっと、ここ見てここ。
見えるでしょ、持ち手の上の方の数字。
これ、何だか分かる?
じつはこの数字、俺の魔力量。
いや分かってるって、数字がショボいのは。
でもさ、もしとんでもない魔力量のやつがこの盾持ったらどうなると思う。
気付いちゃった?
そう、この数字がそのまま盾の耐久力なの。
もしけんちゃんとかアヤさんとかがコレ持ったらスゴくない?
いや、確かにけんちゃんたちが盾使わなきゃいけないバケモンみたいなヤツなんてもうこの世にはいないかもだけどさ。
実は面白いのはこっからなの。
前にけんちゃんがアヤさんにって買ったプレゼント、覚える?
そう、この前会った時にうちから買ってったやつ。
『魔法の針』ね。
絶対折れないし指に刺さっても痛くないってあれ。
どう、アヤさん喜んでた?
でしょ、アヤさんお裁縫大好きだもん。
で、あれって何で刺しても痛くないか知ってる?
実はあれ攻撃力がイチなの。
どんなに思いっきり刺しても絶対にイチなの。
それにあれってけんちゃんでも鑑定できない謎素材だったでしょ。
何にでも刺さって何に刺しても絶対折れないって、あの時実演したよね。
で、盾ですわ。
実はあの盾、絶対壊れないの。
耐久力の数字がどんなに減っても必ずイチ残るの。
気付いちゃった?
俺が何やりたいか、気付いちゃったでしょ。
必ずイチのダメージを与える針。
必ずイチの耐久力が残る盾。
どうなると思う。
知りたいでしょ。
分かってるって、けんちゃんみたいに長生きしてるとホレ、知的好奇心っての?
知りたくてたまんないでしょ。
えーっ、やめんの。
なにそれ、針壊したらアヤさんに叱られるって。
もー、けんちゃんのいくじなしっ。
ま、しゃあないよね。
けんちゃんとアヤさんだもんね。
見ててちょっとうらやましいもん。
『鏡の賢者』と『伝説のメイド』だもん。
いや、俺はマルミさん一筋だって。
あ、ごめん。
そろそろマルミさん、帰ってくるんで。
ごめんねホント、引き止めちゃって。
また今度ね。
うん、俺んちあそこだから。
旅稼業もそろそろ終わりかなって、家買っちゃったの。
やっぱりさ、子供に俺とおんなじ苦労させたくないじゃん。
マルミさんも口では言わないけどさって、あれれ、
言ってなかったっけ、俺たち結婚したの。
そっかゴメン、あれから会ってなかったもんね。
子ども、いま三歳。
マルミさん似ですんげぇ可愛いくてさぁ。
っとホントごめんね、近く来たら寄ってね。
じゃーね、けんちゃん。
またねって危ねっ、何投げてんのさ。
これってアレじゃん、親父の財布。
なにお祝いって、駄目だよ貰えないって。
いいの、ホントに。
うん、分かってるって、ちゃんと嫁と子どものために使いますって。
本当、ありがとね。
また来てよね。
今度会った時、ちゃんと名前教えてよね。
あとがき
リヴァイスという世界は、ひとりの少年がプレイしている仮想現実ゲームです。
彼は長い時間この世界を旅するうちに『鏡の賢者』と呼ばれる存在になりました。
お供のメイドさんは『伝説のメイド』と呼ばれております。
ここで暮らしている人々はいわゆるAIですが、それなりに大変なこの世界を楽しく生きているみたいです。
リヴァイスの物語は、そういう人々のあれやこれやを短編として紹介するものとなりそうです。
iPadのメモ帳につらつら溜め込んでいたショートストーリーや小ネタをひとつの世界にまとめようとしたら、こういう設定になりました。
整合性や何やらいろいろアレですが、お話しがまとまり次第投稿したいと思っております。
楽しんでいただけたら幸いです。