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05 劇薬


「お手上げだよね、これ」



「降参ですか」


「開ければ分かるけど、一度しか使えないんだよね」



「坊っちゃまはいつも取扱説明書があればって仰ってましたよね」


「いや、一枚で良いのに何で薬一本に三枚も付いてるのさ」



「一枚目は完全回復薬、いわゆるエリクサーという物ですね。 もしこれならば相当な高値で売れるでしょう」

「二枚目は毒薬、ひと嗅ぎでたちどころに命を落とすみたいですね。 これも欲しい人なら金額に糸目は付けないでしょう」

「三枚目は惚れ薬、お相手に塗ることが出来れば一瞬で虜になるみたいですね。 最も自分の肌に付着させないよう注意が必要みたいですが。 買い手によっては一番高値が付きそうです」


「飲み薬と嗅ぎ薬と塗り薬って、何だか馬鹿にされているような気がする」



「きっと薬と薬瓶がセットで効能を発揮するような魔法が付与されているのでしょうね」


「蓋を開けると発動して効能が効いたことが確認されると薬液を無力化させちゃう魔法ってこと?」



「開封前の瓶の魔法を解析したり、開封直後に薬を分析したりするのは」


「やめておいた方が良さそうだよね」



「……」


「何か思いついたみたいだね」



「あまり楽しい話では無いのですが」


「聞かせて」



「とある権力者が自分になびかない想い人を鎖で繋いで閉じ込めました」


「どんなに激しい責めを与えても自分を愛してくれないと分かると権力者は一瓶の薬を用意させました」


「一瓶にラベルが三枚」


「もしエリクサーなら責めの記憶を残した心に元の美しい身体が」


「もし毒薬なら愛してくれなかった人に安らぎの死が」


「もし惚れ薬なら責め痕の残る想い人との幸せな生涯が」




「毒薬が一番ましだと思う僕っておかしいのかな」


「申し訳ありません。 お聞かせするべきではありませんでした」



「どうして父さんはこんな薬を買ったのだろう」


「三分の一の確率で確実に誰かが死ぬ薬など野放しには出来なかったのでしょうか」



「ごめんマルミさん、あの父さんがそんな理由では買わないと思う」


「謎は謎のままにしておけ、ということなのでしょうね」



「結局、今回の物も売れないよね」



「ひとつ御相談が有るのですが」


「何だい」



「旅を、再開しませんか」


「……」



「お嫌ですか」


「何も売れる物を準備出来ていないのに、今旅を再開したらマルミさんの貯蓄が減るばかりだ」



「旦那様や坊っちゃまとのこれまでの旅の思い出は私の宝物なのです」

「お金では買えないものを渇望し続ける私はわがままなのでしょうか」



「三つ約束してくれたら、何でも言うことを聞くよ」


「何なりと」



「ひとつ目、この商隊のリーダーはマルミさんが務めること。 生活力も商才も無い僕がマルミさんに全てを委ねるのは当然だよね」


「……」



「ふたつ目、坊っちゃまって呼ぶのはやめること。 もうとっくに御主人様の息子なんて御身分じゃない体たらくなんだから、これからは好きに呼んで欲しいな。 出来れば敬語もやめること」


「……」



「三つ目、もっとマルミさんのことを教えて欲しい。 父さんみたいに会えなくなってから後悔するのは嫌だ」


「……」



「駄目かな」



「ひとつだけ、お願いしますね」


「何だい」



「今後絶対に、他の人には『全てを委ねる』なんて言わないでくださいね」


「どうして」



「坊っちゃ……アシュトさんはもっと御自分を大事になさらなくては」

「アシュトさんが商人として大成を目指すのならば、御自身の言葉に責任を持たなくてはいけませんよ」


「分かった、さっきも言った通りマルミさんに従うよ」



「従わないでください」


「?」



「商隊のリーダーは務めます。 これからはアシュトさんとお呼びしましょう。 私の事も、もっと知って欲しいです」

「旦那様が家族として旅のお供に私を選んでくださったことも、大切な思い出なのです」

「全て委ねるのは構わないですが奴隷にはならないでくださいね」


「ごめんマルミさん、家族なら行動も言葉も相手のことをちゃんと考えないとね」



「旅を再開しましょうか」


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