04 手
「手だよね、これ」
「右手でございますね。 男性、30代半ば、関節や手のひらの具合から見てかなりの達人ですね」
「何でそこまで分かるのかな」
「他の方々よりほんの少しだけ経験豊富ですので」
マルミさん、本当いくつなんだろ。
「女性というのは年齢に関わることに関しては時として命を賭けるものです」
「坊っちゃまにその覚悟がお有りでしたらいつでも私の秘密をお教えしますよ」
「ごめんなさい。 僕は自分の命よりもマルミさんの方が大事だから」
「お上手ですこと」
「で、手をどう使うんだろう」
「剣の達人が身体の一部を失うことは、普通の人とは違う意味があるでしょうね」
「どんなに修練しても、失った部位を補うことは出来ません」
「欠損によって80の力になった剣士が修練で100まで戻せても、その頃には宿敵は120の力になっているかもしれません」
「でももし80の剣士が一瞬で100に戻れる魔導具があるとしたら」
「何を置いても欲しがるだろうね」
「普通の魔導義手では達人の技の再現は不可能でしょう」
「でもその剣士固有の魔力パターンを完璧に解析してオーダーメイドすればあるいは」
「つまりこの手はどこかの達人専用の魔導義手で、普通の人には宝の持ち腐れってこと?」
「素材も超一流ですので全くの無駄という訳ではありません。ただ費用対効果を考えると」
「普通の魔導義手と違わない動きしか出来ない物に高額を出す価値なし、と」
「せめて持ち主が誰なのかが分かれば、オークションで高額で競り落とされる可能性があるのですが」
「調査費用を考えれば費用対効果がって訳だね」
「旦那様はこれがどなたの物なのかご存知だったのかもしれませんね」
「本当、何で死んじゃうかなぁ。 せめて目録でも残してくれれば良かったのに」
「坊っちゃまにこの仕事の楽しさを伝えたかったのではないでしょうか」
「こういうの楽しく無くはないけど、出来れば普通に商売したかったな」
「私はとても楽しゅうございますよ」
「今回のこれも売れないってことは、またマルミさんの貯蓄に手を付けなければいけないってことだよね」
「私はそれも嬉しゅうございますよ」