03 特注品
「マルミさん、これ何だか分かる?」
「すみません坊っちゃま。 何のことだか分かりません」
本当、何なんだろこれ。
父さんのアイテムバッグから売れそうな物を見つけなきゃと思っていろいろ出して見たけど、本当に訳が分からない物ばかりだ。
今僕が持っているのはたぶん武器だと思うんだけど、なぜか僕には見えているのにマルミさんには見えない。
武器っぽいと思った理由は、剣みたいな握りがあることと注意書きの札が付いていたこと。
注意書きには『取扱注意! 魔力を込めないこと!』 とか書いてある。
僕は魔法力がほとんど無いし、魔法が得意なマルミさんならと思ったけど本当に見えてないみたいだし。
そもそも注意書きを付けるくらいなら取扱説明書も付けておいて欲しいよ。
「どんな形状なのですか」
「えーと、刃が無くて剣の柄だけ。 それと危険だから魔力を込めるなって札が付いてる」
「それは表の世に存在してはいけない物です、坊っちゃま」
「見えないのにこれが何だか知っているんだ」
「……」
「売れるかどうか判断するには僕が知ってなきゃ。 マルミさん、知っていることがあるならぜひ教えて」
「分かりました。 ただ、これから私が話すことは口外法度でお願いします」
「誰にも話すなってことだよね、約束する」
「では」
「昔、とある王宮の後宮で王妃が斬殺されるという事件が起きました」
「まさに王の目の前で姿が見えない何者かが王妃の喉を切り裂いたそうです」
「魔法とか呪いとかじゃないの」
「後宮内ではいかなる魔法も強力な結界によって使用不可能でした。 当然呪いもです」
「隠蔽魔導具を使った何者かが侵入したとか」
「嫉妬深い王は自分以外の男性を絶対に立ち入らせないために異常なほどの警備を敷いていたそうです。 身元が怪しい女性も当然無理でしょう」
「内部にいた女官の仕業とかでは」
「事件後に徹底した調査が行われました。 坊っちゃまが考える以上にああいう場所の取り調べは厳しいものなのです。精神探索や魔法による血痕検査、少しでも怪しい者には拷問ですら」
「怪しい人は誰もいなかったんだね」
「もう分かりましたね」
「王妃を殺せる場所にいて、返り血のせいで血痕検査は意味が無くて、絶対に精神探索されない人、そして他の男はそこには絶対に近寄れない」
「坊っちゃまが今お持ちの魔導具は他の誰にも必要とされない物なのです。 ある特定の人物が特別な目的のために作らせた武器」
「これは売れないよね」
「世の中には知られてはいけない物もあるのです。 それを手元に置きたがるなんてとても旦那様らしいですよね」
「もしかしてあの中の物って、こんなのばかりなのかな」
「ひとつひとつ、見ていきましょう。 旦那様もそれを望んでいると思いますよ」
「でも、お金を稼がないと」
「私の貯蓄が尽きるか、坊っちゃまがお宝を見つけるか、競争ですね」