01 旅の商人
独立した短編となっております。
お楽しみいただければ幸いです。
ご主人、聞き上手だね。
いや、俺もあんまり酒強くないけどさぁ。
なんか話したくなっちゃうもん。
じゃ、聞いてくれる?
そんなたいしたもんじゃないけどさ、俺の人生。
親父は旅の商人だったんだ。
行商人とは言えないな、相場がどうとか全く無頓着で買いたい物を買って売りたい物を売ってたんだから。
あえて言うなら道楽商売人だな。
道楽もんらしい最後だったよ、旅の途中で子供を残してポックリだもの。
当時の俺は10代半ば、何がしたいとかあったわけじゃないけど多分このまま親父の後を継ぐんだろうなくらいに思ってたんだ。
それがいきなり知らない土地に使用人とふたりきりだぜ。
いや、残すもん残してくれれば文句なんかなかったさ。
財布に鍵掛けたままで逝っちゃったのが問題だったの。
親父はアイテムバッグをふたつ持ってたんだ。
お宝もガラクタも一緒に詰め込んでた大きい方。
財布代わりに使ってた小さい方。
問題は小さい方に親父にしか開けられないロックが掛かったままだったってこと。
正直、親父の全財産がいくらだったかなんて分かんないね。
ただ、冗談抜きで金に糸目は付けないって買い方を何度もしてたんだ。
中にいくら入ってるかなんて見当もつかないよ。
俺はともかくマルミさんには開け方教えとけっつうの。
あっ、マルミさんってうちの使用人ね。
俺と親父と使用人のマルミさんの三人で旅してたの。
まさかマルミさんにも教えないでポックリなんてありえないだろ。
ホントあの後俺らがどんだけ苦労したと思ってんだよ、あのダメ親父。
金は無かったけど物だけは売るほど有ったから何とかなったけど。
親父が溜め込んでたお宝とかガラクタを売ってなんとか食っていけたよ。
という訳で俺とマルミさんの行商ふたり旅が始まったのね。