2
寮と呼ばれる部屋は教室から少し離れた場所にあった。
2人1部屋のそれは至って簡素なもので、自身の所有物など数少ない私たちにとっては、支給されたものがすべてだ。
ブゥゥン
「大丈夫?」
私と同室の27番と呼ばれる彼女が心配そうに私の顔を見る。
「うん、大丈夫よ。」
「ならいいんだけど…顔色悪すぎるよ。」
汚れてくすんだダークグレーの髪の毛が彼女の肩からするっと滑り落ちる。
「いつものことよ。それより力を使いすぎなんじゃない?」
「何言ってるのたった数分じゃない。」
27番、彼女の力は静寂と隠蔽。
初めて出会ったときに彼女はその秘密を明かしてくれた。
私たちの部屋には監視のためのカメラや盗聴器が仕掛けられているため、安易に会話ができない。
今までも誰かと必要以上の会話をしたことなど無かった。
ある一定空間での静寂や隠蔽が可能となっている彼女の能力により、私たちは互いの心を少しずつ砕くようになった。
「スイ、今日は災難だったわね。」
「…うん。そうね。」
スイ、彼女がつけてくれた名だ。
この世界で彼女だけが呼んでくれる名だ。
「モモ、いつもありがとう。」
「ふふ何言ってんの。」
そして、彼女の名もこの世界で私だけが呼んでいる。
初めて出会った日に彼女は自身の能力と共に、私に名を与えた。
『あなたの瞳はエメラルドグリーンなのね!とてもきれい!!あ、そうだ!翠玉とも言うから、これからスイと呼んでいい?』
初めて自分が生きているのだと実感した。
34番ではない、スイという者がそこにいるのだと思わされた。
『じゃあ…あなたは果物の桃のような色だから、モモね。』
『安直過ぎない?』
『あなただって同じでしょう?』
『ふふ、ちゃんと呼んでよ。』
『…モモ、これからよろしくね。』
『うん、よろしくね!スイ!』