ネズミの姫と三銃士
冬童話2021「さがしもの」出品作品です。
さくっと書いて見ました。
太陽が沈み、夕陽が終わる頃。人間達は家に入り、ご飯を食べて眠りに就きます。耳を澄まして見て下さい。天井裏かな? 冷蔵庫の裏? 違いますね。物置です。物置に住むの小さなネズミたちが動き始める様ですよ・・・
「ちょっとお! ダルチューアン! 出撃よ! 起きなさい!」
チュー吉が住処の物置で寝坊をしていますと、鳩の羽根のベッドを揺する子ネズミが居ました。
「あれ? おはよう、チュー実ちゃん。なんだいダルチューアンって」
チュー吉はまだ子供でしたが、チュー実は更に小さな女の子ネズミ。チュー実が胸を張って自らの背丈ほどもあるまち針を手渡してきました。
「今日からダルチューアンはあたち、アンヌ姫の忠実なる三銃士に任命するわ! 剣を受け取るのよ!」
「ゴメンね、チュー吉くん。面倒だけどつきあってあげて」
「は、はい! チューコさん!」
後ろでチュー実の母、チューコがニコニコと微笑み、あろうことかチュー吉の尻尾を触っていたのです! セクシーなチューコはチュー吉の初恋ネズミなのです!
今日もチューコは近所のチュー吉の淡い恋心を利用して面倒な性格であるチュー実の子守をさせる作戦なのです!
「ママ、うるさい! ダルチューアン行くよ! 仲間を捜すのよ! まずはあいつね!」
「ま、待ってよ!」
チュー実が勢いよく駆け出すと、チュー吉は慌てて付いていきました。やって来たのはねぼすけネズミのチュー三郎。
「起きるのよ! フライデー!」
「ん・・・うん・・・」
チュー実が耳元で騒いでも起きないのがチュー三郎です。
「フライデー? 三銃士の名前じゃないの?」
「いいの! 知らないの! 起きないわ! えい!」
「ぎゃ!」
チュー実が尻尾をまち針でぷすりと刺すと、チュー三郎は飛び起きました。
「な、なにするんだよう・・・」
「剣をあげるわ! 今日からフライデーはあたちアンヌ姫の三銃士よ! 光栄に思うのね! 最初の任務は牢獄に捕らわれた最後の三銃士の救出よ! そして真実の愛を取り戻しに行くのよ!」
「しんじつのあいって何? チュー吉くん、アンヌ姫って何?」
「細かいことは気にしないで。チュー実に付き合ってあげてよ。僕らは姫の家来みたいなんだ。それにしても真実の愛って何を探すのかな?」
チュー吉はイマイチ飲み込めないチュー三郎を説得します。
「さ、巨人の部屋に潜り込むわよ! 捕らわれた最後の三銃士を救い出すわ! ダルチューアン! フライデー! 行くわよ!」
「え? 何処に行くの?」
チュー吉は思ったより本格的な設定に戸惑っています。物置の秘密の穴から壁を伝い、換気口を通ってたどり着いたのは人間の女の子の部屋でした。
「なんだ・・・嬢ちゃんの部屋か・・・」
「チュー吉君、僕はおなかがすいたんだよう・・・」
「そこ! 静かに! 巨人が目覚めるわ! 居たわ! ウェンディーを助けるのよ!」
チュー実が指差す方向にプラスチックの容器に住むハムスターが居ました。チュー実は一気に壁を駆け下り、机の上のハムスターの容器に近づきました。
ハムスターのハム太はカラカラと音を立ててホイールの中に入り、満足げな顔で一心不乱に走っています。
「見て! 巨人に無理矢理働かされているわ! 助けないと! 牢獄の扉が開いているわ! 入るわよ!」
三匹は一斉に容器の中に入ります。
「チュチュチュ・・・君たちチュか。チュー吉君、チュー実ちゃんと・・・ええと誰だっけ」
「違うわ! あたいはアンヌ姫! そして三銃士のダルチューアンとフライデーよ! ハム太はウェンディー! いい! わかったわね! ウェンディー! 剣よ!」
「チュチュチュ・・・あ、剣士ごっこッチュね・・・いいッチュよ」
「ね、僕これ回ってみたいなあ」
「チュチュチュ・・・よし、命令ッチュ。回れ! フライデー!」
チュー三郎は嬉しそうにホイールに入ると、カラカラと音を立てながら走り始めます。
「た、たのしそう! あたちも! きゃああ!」
体の小さなチュー実は勢いに負けてホイールと一緒に回り始めました。チュー吉は慌ててホイールから引きずり出します。
「ふう、何という拷問・・・さ、行くわよ! えい! あれ?」
体の小さなチュー実はジャンプしても蓋の出入り口に届きません。
「チュー実ちゃん、いくよ」
「きゃ! 心の準備が! きゃああ!」
チュー吉はチュー実を抱きかかえてジャンプして容器から脱出します。
「チュチュチュ・・・脱獄するとお嬢が泣くんだけど・・・」
「お腹空いたあ・・・」
残りの二匹もジャンプして脱出します。
「さ、ドラゴン退治に行くよ! 付いてきて!」
チュー実が走って向かった先は居間のコタツでした。
「さ、洞窟に入るわよ! 尻尾に冒険を込めるのよ!」
「チュチュチュ・・・ドラゴンってミケ婆さんのことチュか? チュチュチュ・・・フライデー、行くッチュ! 捕らわれたネズミのけりぐるみを救い出すッチュ!」
「そ、それが真実の愛なの・・・?」
チュー実は驚きの表情でチュー吉を見つめますが、無論チュー吉にわかるはずがありません。
「ええ? 僕? 嫌だな・・・お腹すくじゃないか・・・」
チュー三郎は指名されたのでコタツに近づくと、ぬっと三毛猫が顔を出しました。口にはネズミのけりぐるみをくわえています。
「ひ!」
チュー三郎は驚きの余り硬直してしまいます。三毛猫のミケはチュー三郎の匂いを嗅ぐと、べろべろとなめ始めました。
「あれれ、ミケ婆さんに捕まったな・・・参ったな、ミケ婆さんああなるとなかなか離してくれないし・・・」
「チュチュチュ・・・ダルチューアン、その通りッチュ。良い方法を考えるッチュ」
ミケは二十歳、人間で言うと九十歳を超えるおばあちゃんです。ミケは年なので獲物を獲らないことはネズミたちには有名なのですが、チュー三郎は知らなかったのです。
哀れ、チュー三郎は香箱座りの前足の間に入れられ、べろっべろに舐められています。
「ダルチューアン! フライデーがドラゴンに捕まったわ! どうしよう!」
「ミケ婆さんはカツオブシが好きなんだ。探してくるよ」
チュー吉は台所に走って行き、落ちているカツオブシを拾って来ました。
「ミケ婆さん、カツオブシをあげるからチュー三郎を離して」
「にゃあ?」
カツオブシに気が付いたミケは匂いを嗅ぐと、チュー三郎を離してカツオブシを食べ始めました。
「チュチュチュ・・・今だ! 退却ッチュ!」
四匹はお嬢の部屋に戻ると、ハム太は容器の中に戻って行った。
「チュチュチュ・・・じゃあね! 剣は返えすッチュ」
三匹はハム太と別れを告げて物置に戻ると、チューコが近づいて来た。
「ねえ、そろそろまち針を返しなさい・・・あら、チュー三郎くんもいたのね。はい、これおやつよ。今日はありがとうね」
三匹はチューコからひまわりの種を一個づつ貰いました・
「やったあ・・・」
一番喜んだのはチュー三郎でした。
「じゃあ帰ってから食べるね! バイバイ!」
チュー三郎は帰って行きました。チュー吉ははバリバリと殻を剥けますが、小さなチュー実にはまだ硬かった様です。
「チュー実ちゃん、剥いたからこっち食べて」
「ありがとう! チューき・・・ダルチューアン! もぐもぐ・・・オイシイね!」
チュー吉とチュー実はお腹が一杯になったのか、くっついて眠ってしましました。
「あらあら・・・真実の愛は以外と近くにあるものよ・・・フフフ。チュー実にはまだ早いかな?」
チューコは可愛い寝顔のチュー実を見て微笑みました。
おわり