プロログ ~全ての始まりであり終わり~
今日から新しく掲載することになりました。まだまだ未熟ですが、よろしくお願いいたします。
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風が吹く。湿気をぎっしりと含んだ風には雨の香りが漂っていた。
永遠に続きそうな山々。その中にて雨の残香が込められた風を味わっている。
奇しくもそこは木一本。草一本すらない腐り果てた場。
色という概念を失った死の世界。
ゆっくりと頭を垂れる。
色褪せた、という言葉ですらこの世界を籠めるには事足りるくらいここは灰色に満ちた世界だった。
乾いた風が吹き込む。
視界の隅に何かが動く。
灰に成り変った‘何か’が。
光を失った‘何か’が。
いつかの誰かが願ったはずの‘何か’が、無味乾燥な風に揺られ、宙を舞う。
無意識に手を前に伸ばし、それを掴もうとしたが、指の合間からすり抜けて行くだけ。掴めるものは何一つなかった。
その眺めをボーット見てたら思い出される古い感情。
‘何か大切なことを忘れているような気がする’
自分がいる場所も、自分のことも、何もかも憶えていないくせに‘彼’が一番初めに感じたのは己を満たしていたはずの何かが欠けていることだった。
死んだ目をした青年の身体には死の香りが濃く漂っているが、その正体は本人すら知らぬ。
乾いた喉は己の疑問を言葉にすることすら許さなかったが、何故か心欠けそうな悲しみだけが残っていた。
記憶はないくせに感情だけが残っているのも皮肉だ。
結局出せなかった言葉は行き場を失い、心臓に至りそこに深く刺さる。
胸を占めている息苦しい感覚。これの正体を青年は解らない。
誰かに問いたくとも、問える相手などこの世界のどこを見渡しても見当たらなかった。
可哀想なこの問いはどうしたら良いのか悩んでいたら、死の世界に一滴の光が差し込む。
“その願い、叶えてやろう”
傲慢な声。
視界が大きく揺られる。
ドン・ドン・ドン。
モノクロの世界に、モノクロの心が沈む。意識は時の経つに連れ、深いところに浸かって行く。
―斯くして旅は初頭もなく始まった。
―どこに至るのかも知らず、行く末が凶か吉かも解らず。定まれた旅へと去る。
......夢を見る。奇妙な光景と、心欠けそうな声を聞く。
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