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人に焦がれた獣のソナタ……  作者: 物部がたり
第二章 過去編 名前のない獣たちは……
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case198 聖戦 突撃

 完全武装した兵士然とした男たちが、夜の街を行進する光景は圧巻だった。縦一列になり戦場におもむくハマーの軍団は、闘志をあらわにする。


 時刻は午前三時に差し掛かり、街を出歩く人はいない。

 もし、誰かに見られれば明け方には街中に広まることだろう。

 この軍団を移動させるのだから、人目に触れないなど不可能に等しい。


 夜の街を移動するハマーの集団の話が広まれば、多少なりとももみ消す力はある。もう後戻りはできない。この機に便乗して、ラッキーを捕らえるしか道は残されていないのだから。


 兵士たちは“グループA、B、C、D„に別れ、起立していた。

 サエモンは到着した兵士たちに、己たちの役割を言い渡す。


「皆さん。突然の召集、誠に申し訳ありません」


 男たちは手を後ろで組み、サエモンを見る。


「この作戦が成功すれば、根源を根絶やしにすることができるのです。我々の目的はジェノベーゼのボス、ラッキーを捕らえること」


 夜の澄み切った空気にサエモンの声は、染みわたる。


「館を四方から攻めます。グループAは正面。グループBは北門。グループCは南門。グループDは西門。合図と共に一斉に突撃します。敷地内にいる見回りたちは、麻酔弾で動きを封じてください。できるだけ、殺さないようにお願いします」


 兵士たちは、はい、と一斉に答えた。

 一人一人の声は小さいが、百人を超える男たちが一斉に言葉を発すると、空気を震わす程の迫力を生んだ。


「中への侵入に成功したら、睡眠ガスを使うこと。なるべく、実弾は使わないでください。以上です。それでは、健闘を祈ります」


 ABCDグループは規律の取れた動きで、解散した。

 

「あなたは、私と同じグループAに入ってください」


 サエモンはとなりで話を聞いていた、キクマにいった。


「ああ」


 サエモンはハマーに歩み寄り、荷台を開ける。

 その中から、チョッキらしき服を取り出した。


「これを着てください。防刃(ぼうじん)も兼ねています。あなたのことですから、後先考えず何の用いもしていないのでしょう」


 図星だった。

 

「ああ、助かる」


 素直に己の失態を認めて、キクマは防弾チョッキを受け取った。


「これはウイックさんの分です」


 新たに荷台からもう一着のチョッキを取り出して、キクマのとなりに突っ立っているウイックに渡す。


「俺にも突入しろっていうのか? ご冗談。俺は来たくもないのに、連れ出された上に、この歳になって命を張れって言うのかよ。そんなのまっぴらごめんだ。余生は気楽に過ごしたいね。行くならおまえらだけで行ってくれ。俺は車で待たせてもらう」


「わかりました。けれど、チョッキだけは着ていてください」


 受け取りを拒む、ウイックの懐にサエモンはチョッキを押し込んだ。渋々チョッキを受け取り、ウイックはおざなりに羽織る。


 間もなく、ABCDに別れたグループたちの下に、作戦開始の合図が届いた。門兵たちを片付けたようだ。BCDグループは西南北の門に皆集った。


 正面門はすでにジョン・ドゥが門番を、片付けてくれていたので苦労はなかった。


「作戦開始です」


 グループAは三台のハマーの背後に、チェーンを巻き付け、鉄格子の門を引かせた。三台のハマーの馬力をもってしても、鉄格子を壊すには時間を要した。


 エンジンをふかす音と、鉄門が悲鳴を上げる音は遥か彼方まで轟き渡っていることだろう。これは、街の人々も異変に気付きはじめたかもしれない。


 ゆっくりと鉄格子は歪み、ハマーも悲鳴をあげはじめた刹那、苦しみから解放された鉄格子は付け根から破壊され、要塞は入り口を開いた。


 サエモンは手で兵士たちを、中に招く。

 AKライフルを握りしめた兵士たちは、決められたフォーメーションでずんずん進む。見張りたちは、反撃の準備をすでに整えていた。自動小銃の閃光が、闇に閃く。


 それに負けじと、Aグループの兵士たちも麻酔弾を撃ち込んだ。

 数の上ではこちらが、有利。

 こちらで、見張りを一人でも多く引き付けている間に、他のグループたちが中に忍び込む。


 銃撃戦は熾烈(しれつ)を極めた。闇に閃く銃火器の灯りを目に焼き付けながら、自分たちは殺し合いをしているのだと叩きつけられる。


 Aグループの兵たちが次々に倒れてゆく。数人の犠牲を払い、見張りたちを討伐した。自分たちには休んでいる時間はない。この銃撃戦で、気付かれただろう。


 例え多くの犠牲を払おうと、ラッキーにだけは逃げられるわけにはいなかい。この戦いは、明日を切り開く、未来を守る戦いだ。


 サエモンは館の表玄関を、破るように示す。

 AKライフルの連撃が、とびらに蜂の巣を開ける。

 蹴破り、Aグループは館に侵入した。


 ここからは時間勝負だった。

 ラッキーをいかに早く、発見できるか。

 館の長い廊下の先まで、ランプの灯りが点々と続いていた。


 沢山の小部屋を片っ端から調べて回るわけにもいかない。ラッキーの寝室と思われる部屋を見つけるのだ。館のことを知っている、使用人を捕まえて案内させるのが手っ取り早いだろう。


 廊下を進んで行くと、前方からランプの灯りが迫ってきた。

 兵士たちはランプの灯りを取り囲む。

 女の使用人は壁に背中を付け、怯えた眼で皆を見すえる。


「抵抗しなければ、私たちは何もいたしません。あなたは館の使用人ですか?」


 女はうなずいた。


「あなた達のボスの居場所に案内してください」


 使用人は躊躇している様子だった。

 ボスの下まで案内するということは、ファミリーを裏切るということ。ファミリーを裏切った者は、生きていけない。死を意味する。

 

「お願いです。あなたの身は何があろうと、必ず守ります。ボスの居場所まで案内してください」


 女は首を縦に振らない。

 サエモンは懐から、拳銃を取り出し女にかざした。


「案内してください。お願いします」


 トリガーに指を添えるサエモンの指は、小刻みに震えていた。

 これは脅し。

 人道的にしてはいけない行為だった。けれど、それだけ誰もが追い詰められている。女は噛み合わない顎を鳴らしながら、「わかりました……」と先細りの言葉を発した――。

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