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Last Resort  作者: 当廟
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可視化された多数のウィンドウが視界を遮るように次々に表示され重なっていく。

それらを煩わしく羽虫を払い除けるように、虚空へ向かい手を振り視界の端へと追いやっていく。

いやね?消しちゃうと後で確認する時に大変だからさ?邪魔にならない程度に置いておこうかなって。


とりあえず、ボスを倒し次の町へ行けるようになった。それだけわかれば今は十分だろう。

ボス自体にはあまりダメージを与えることはでできなかったが、それでも一種の達成感が今全身を満たしている。

ははは、もうこのままここで大の字になって寝転びたい気分だ。右舷に湧き続ける雑魚を後ろへ通さないように処理し続けるって結構神経使うよこれ。

実際、レイズから武器を受け取り更新していた、暗視で闇の中で先手を取り続けられた、雑魚を削り落とすに足りるだけの火力と手数と範囲を多スキル構成で持っていた。そこまできてようやく雑魚を相手にして戦い続けられたのだ。

…まぁ、ゲームの最前線ってこんなもんか。いつだってギリギリで無理を通して通りを道理を引っ込ますのだ。

足りてる物のほうが少ない状態でトライ&エラーでパターンを作りプレイヤースキルでごり押しして火力を捻出しクリアする。

いいじゃんね、閉じ込められたりなんかしたけど今最高にゲームやってるって感じだ。




「お?太陽が」


誰が口にしたのか。でも皆同じ気持ちなんじゃねえかなあ。今まで真っ暗で何も見えない夜の闇の中にいた。

それが少しづつ明るくなっていく。


それは白く眩く朱色で闇の帳を溶かすように、点が線となり無数の線になり一面を照らし尽くしていく。

朝焼けの色彩は語彙に乏しい俺じゃうまく表現できないが、夕焼けなんかとはまた違い白っぽい世界、この雰囲気が好きだ。


頭を出し始めたところから完全に昇り切り丸いその姿で目が焼かれるまで皆完全に見入っていた。



そして気が付きました。何かもの凄く体が怠い。

なんかデバフ乗ってる?ってくらい体が重い。割とシャレにならんくらいのじゃんこれ。


とりあえず現状の確認と行きましょう。さすがにこの状態放置は無理じゃんね。


表示されているデバフアイコンをタップしてみれば説明が表示される。

ほーん?称号闇の住人パッシブ効果ね。

闇が深くなるほどステータス上昇、逆に日が高くなればなるほどステータス減少と。

まじかよ、まじで吸血鬼状態じゃん?レイズとのあれフリだったのかよ…

いやデイウォーカーでもないし余計性質が悪いわ。

夜に強くなる代わりにお天道様の下は歩けませんってか?つら。


まぁいいや。夜戦えばいいだけだしー昼間とか人多くて戦いにくいしー…。

とりあえず解放された街行ってみましょっか。工業都市、名前からしていかにもな街です。

きっと面白い形をしているんだろう。そっちのほうがワクワクで楽しみだ。


皆ウィンドウ見ながら話し合ってるしレイドは一応解除されてるし。


…ふらーいあうぇーい。




《工業都市インストロメリカへ初到達者を確認》

《これより全プレイヤーのマップ情報に工業都市インストロメリカが追加されます》

《初到達者ボーナスを獲得します》

《初到達者ボーナス:称号【インストロメリカへの到達者】を獲得します》




…なんか称号取っちまった。

これはあれだ、うん、そう、そうしよう。内密に、闇から闇へ、無かったことに。

よし、メンタルリセット完了、俺には引け目を感じる事は何もない、だから何も気にする必要はない。

まぁそういうことじゃんね。


それでは気を取り直しまして、新しい街刊行させてもらいましょうか。




そこは高く、年代を感じさせる石壁に囲まれた街だった。

始まりの町の職人街、あれを街にすればこうなるのだろうか。

門をくぐり一人通りを中心に向かって歩けば目に入るのは立ち並んだ石と木によって生み出された工房の数々。

そこかしこから鉄を叩く音、削り研ぐ音、軋む音、熱収縮によって鳴く音。金属音一つとっても様々な音が聞こえる。鉄が鳴っているのだ。

木の打ち合わされる音にロープの引き絞られこすれる音、はたまた遠くでは落としたのか甲高い割れる音も聞こえてくる。

そしてそれらの家の煙突から吐き出される黒煙は隣の白煙と混じり合い空へ流れ撹拌され消えていく。

風に乗り油の匂いが鼻腔をくすぐり青臭い薬のような…場所によったら異臭騒ぎになってもおかしくないものも感じ取れてしまう。

金属、木材、繊維、ガラスに始まり薬草のようなものから食材までありとあらゆるものが活発に消費され形を変えて人とともに流れていく。

喧騒に満ちた活気あふれる街の姿がそこにはあった。


そしてそんな中気まぐれで脇道へ逸れたりを繰り返し雰囲気を楽しんでいれば聞こえてくる音が。

カンカンと金属の鳴る音が。ただしこれは違うのだ。金属を叩く音でもなければ吊るされたものが風に揺れ接触する音でもない。

知っている人間ならば聞いただけで直ぐに分かるだろう。

時たま混じるゴンッという音も相変わらずで揺れるそれらに思わず苦笑いである。

使い始めてから全然整備してねえなこれ?ハンマーでピンホール空いてんじゃん。ドレンも溜まりっぱなしで腐ったところからいかれたか。

圧の抜けるような音とともに吹き漏れる水蒸気を見ればもうお分かりボイラーからの蒸気配管ですよ。


看板には『魔技装具店』と。面白そうだから入ってみましょっか。


「…らっしゃい」


不愛想な挨拶に白髭もじゃもじゃ片眼鏡、室内なのに帽子みたいなの被ってるのがこれまたドワーフっぽい。

店内は洗練された用途不明物で埋め尽くされている。よくある魔道具とかそういうやつかな。


「どうも、ここに並んでるのっていわゆる魔道具ってやつですか?」


この発言、爺さんにとっちゃ地雷だったようで


「あぁぁん?今なんつった小僧!もっぺん言ってみろ!次ふざけたこと抜かしたらただじゃ済まさんぞ!」


いきなりブチ切れられました。こえぇ、まじで何なんだこの爺。


「失礼、こちらの作品たちは一体どういうものなのかお聞きしても?」


「おう、初めからそう言えばいいんだよ。こいつらは・・・


一時間の講義を耐えて店の外へ。拷問か?二度と来ねえわこんな所って言いたいところだが多分すぐ来ることになりそうだ。

魔物素材や鉱石に木材、それらのもつ特性を加工し組み合わせることで特定の現象を起こす道具たちだそうで。

魔法を行使し不思議現象を可能とする魔道具とは比べ物にならない崇高な学術らしい。

簡単に言えばファンタジー化学みたいなもんじゃんね。


この世界にも蒸気機関存在するのかとか思って入ったら持ったより面白そうなものに出会ってしまった。

そしてつい買ってしまった物が一つ。

魔力を流すことで反発する性質を持つ鉱石を中心とした歯車状の回転機構。

これ見た瞬間にさピコーンと来ましたよ。あれ作れんじゃね?ってさ。


みんな大好きチェーンソー。




あのあとブラブラ街を散策したところで都市間ポータルを経由して始まりの町へ。

エリアポータルを解放することで登録した街間は移動できるみたい。登録したらシステムが教えてくれた。

てっきりリスポン地点の設定だけかと思ってたわ。

この辺は流石ゲームというのか、いい意味でゲームしてるわ。便利だね。

走って戻るとなれば1エリア挟むだけあって結構かかるもんなあ。


今更だけど皆放置して一人で好き勝手やってるけど大丈夫かね?まあ誰も何も言ってこないし大丈夫なんだろうけど。

というわけで毎度同じみレイズのところへ。


「お?やっぱ来たか、なんか面白いもん拾ってきたんだろ?全部出しなはよはよ」


「開口一発目カツアゲとかどこの魔境かな?GMさんこいつです」


「神は死んだ」


「神が悪い」


「お?悪魔信仰か?やっぱ夜間ぼっちは病気拗らせてんね」


「俺の職業知ってるか?俺聖職者」


「どっからどう見てもエクソシストに狩られる側なんだよなぁ」


「悪魔合体でもしてやろうか」


「デビルハンター呼ぶわ」


「ところでチェーンソーって作れる?」


「張りぼてでいいなら?」


「夏休みの工作かな?」


「側だけ作ってもソーチェーンを駆動させられないからなあ。それに現状手に入る鉱石が鉄鉱石どまりだし鋼すら作れんよ?単純に炭素含有量とかリンだのケイ素だのの不純物除去の問題じゃないっぽいし」


「生産に制限がかかってる感じ?レシピを取得とか何かしらのアンロックが必要なのかねえ」


「かもしれんね。そんなわけで見た目だけなら作れても実用には耐えられんね。エンジンなんて無駄の無駄無駄」


「じゃあとりあえずは鉄鉱石より上位の鉱石か鋼、出来ればHSSか、その辺のアンロックに動力部か」


レイズとのトレード画面を開き工業都市で買ってきたものを乗せていく。

くそ爺から買った回転機構も乗せてボス報酬も放り込む。


「それでもう一回聞くけど出来る?」


「よっゆーですわぁ。やっぱ俺らもさっさと工業都市に行く必要あるね。露骨にテーブルが違うわ。レシピか人伝か現物かはわからんけど確実に増えるねこりゃ。何よりボス報酬がやばいねこれ。マップ換算で1つ目の場所で落ちるもんじゃないわ」


トレードが完了しレイズは実体化させたボス報酬たちを手に取り角度を変え眺めている。

毛皮に牙に爪に骨、おそらく通常の討伐報酬だろう。

なんでおそらくかって?まともにドロップと報酬確認してねえもん。


次いで取り出したのは黒いインゴット。ゴトンという音と共にテーブルに置かれたインゴットはただ黒いだけとか思えなくて。


「黒妖鉱だってさこれ、フレーバーテキストには亡霊たる黒妖犬の祝福であり呪詛って書いてあんね」


「黒妖犬ねえ…イギリスだっけ?その手の話」


黒妖犬、ブラックドック、亡霊犬、モーサ・ドゥーク、墓守犬…有名どころじゃヘルハウンド?

俺でも知ってるくらいには、皆どこかで聞いたことのあるような有名は話。


「あー確か?閲覧可能サイトにその手の時点みたいなのあったような…」


まじ?あ、ほんとだ。あんじゃん。神話に伝承に都市伝説。悪魔に天使に妖怪までそろってらあ。


「やっぱイギリスの伝承系だね。これってピンポイントなのじゃなくてこの辺の関連系をまとめてモーサ・ドゥークってボスモンスターに落とし込んだ気がする。大元っての?上手くは言えないけどそんな感じ?」


「言いたいことはわからなくはないね、つまりアレだ。モーサ・ドゥークという伝承上の犬が存在したならば、異なる視点、属性の切り取りと独り歩きによって、この無数の黒い犬の話が生まれたって言いたいんだな?」


HAHAHA人と話すと自分にはない視点が出てくるのが何より楽しいね。

火、黒、影、犬、門番、守護、トリガーを引くまではノンアクティブ…

確かにそれらの側面から考えれば一面を切り取り個としたようにも感じられるが…


「よくありすぎる話だ、何でもかんでも関連付けて深読みしすぎると陰謀論者になるぞ」


「やっぱそうよなぁ、伝承の類なんてどれもこうなるわ。陰謀論者は草。そんでだ、この黒妖鉱は属性が闇で鉄に比べ格段に硬く粘りがあって重い。鑑定レベルの関係で詳細までは読み取れないから詳しくは言えないけども大体2~3個上のレベルの鉱石だね。これ使えばリベットもカッターも作れるからソーチェーンも作れる。あとは実験繰り返せば出来るね、チェーンソー」


これはこれはなかなかいい方向に。なんちゃってチェーンソー、正直敵を考えれば別に必要ないんですけど思いついちゃったら仕方ないよねえ。

ロマンだよロマン。


「んじゃまあそれでよろしく。適当に完成するまではブラブラと散歩しとくから出来たら読んで貰っていいかいね」


「これに関しちゃ散歩中にはできねえよ。」


「…やっぱり?」


「わかってて聞くな。でもまあそれに関していえば時間潰せるアテはあるよ」


アテ…アテねえ…思い付かないね。工業都市から先行くくらいしか考えてなかったし。


「それで観光ガイドのレイズ様は何を紹介してくれるんで?」


「お前が観光ガイドになるんだよ! 俺らを工業都市へご案内しないかい?」


あら素敵、もう一回あれと戦えなんてなんて香ばしい提案何でしょう。

どの程度戦えるかもわからんのに出来るわけねえじゃん?









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