表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Last Resort  作者: 当廟
36/36

36


「HAHAHAHAHA!!」



耳鳴りがしている。

走る身体がふらつくほどではないが、確実に三半規管に少なからずダメージがありそうな。

具体的には状態異常として聴力低下のデバフが出ていたり。

だがそれでも尚聴こえる音がある。


歓声と怒号に金属のぶつかり合う音、そして地を伝わり響く振動と数多の足音だ。

これまでは初期街の隣接フィールドの先での戦闘だった。だからそこまで辿り着けなかった者も多く、自警団に至っては街から離れることもなかった。

そんな者たちが全員集まっている。


さあ乗り遅れるな。前へ前へ。

我こそが初めに到達するのだと、先頭を走れ。


大地を踏み砕き十全に力を伝え、その反作用を持って推力を得る。

ステータスの恩恵を最大限に発揮し向上した身体能力でもって最速で前へ進む。

肌で風を切る感覚と共に土煙を抜ければ横たわる黒い壁。


有効距離圏内に入る事で視界に移るチェルノボーグのHPゲージは目算で15%程の減少か。

あれだけの爆薬を用意してもたった15%と思うべきか、15%も削れたと思うべきなのか。

しかし、大ダウンを狙うのにおおよそ六分の一の削りが必要になるとは中々に厳しいものがあるか。

いや、逆に考えれば復帰までに触腕と肢にそれだけの蓄積を狙えるのなら。

ダウンループにハメられるな。怯み値が上昇せずに耐性や回数上限が設定されてなければだけども。


他のもっと生物っぽいのとかなら部位破壊での機能制限とかリアル準拠で考えられるんだが、こいつはあからさまに別物な気がしてならない。

普通なら同じ部位ばかり攻撃してたら一定を超えた辺りで機能を失ったり弱点になったりするもんなんだけど。それがないもんなぁ。


とは言えだ、未だに殴ってない部位もあるのでそこ次第ではあるのだけども。

狙うのは紫電を帯びる角とそれに守られている水晶の様な複眼。

一人で触腕を殴ってた時はゲージの変動がなくて一度も確認できなかったが果たしてどうなるか。



『総員へ伝達。上空に注意、爆破時に砕いた外殻片が降ってきます。特に先頭集団は注意を』



「ちょっと待って」



まさか過ぎるでしょ。

咄嗟に上へ視線を向ければ視界に入る無数の黒い影。



「っぶなっ!」



見上げた瞬間被弾しかけた。

頬を掠めるようにして外殻が地面へ突き刺さる。


いきなりの弾幕ゲーへの変貌、ジャンル間違えてませんかねこれ。

爆弾を使ったらボムが必要な状況になるとか笑えないぞ。


次々と落下してくる防壁素材を避けながら、それでも尚勢いを殺さぬように前へと進む。

落下地点の重なった外殻が弾かれ縦横無尽にフィールドを責め立てる。

マルチタスクの強要かよ。


新ジャンル爆発反射落ち物ゲーのβテスト会場はこちらです。グレイズを駆使してスコアをゆっくり稼いでねって。

自分で会場入りしたけれども最低のオチだな。


そんなどうでもいい事が頭を過った時、意識の隙間を突くように見上げた視界の端が捉えた。

理解する前に脊髄が反射で動作を完了し、遅れて脳が付いてくる。


斧槍を地面に突き刺し、全身が悲鳴を上げるのを無視して全力でバックステップ。

最大速度を生身で切り返す衝撃に骨が筋が肉が神経が血管が軋む、痛みという信号を脳が受容する。

現実ならば確実に病院のお世話だな。


そして音と光が斧槍を捉えたのが見えた、聴こえた。紫電を帯びる複眼を取り巻く角から。

軌跡と衝撃という形でもって。


弾幕ゲーはプレイヤーサイドの自業自得として、今のはダウン時のカウンターか。

初見殺しにも程がある。

だが。



「ダークオーラ」「アクアオーラ」



対処できないほどではない、回復しつつ考えよう。

おそらくはダウン時に発生する特殊モーションで今もまだ帯電していることから近付けばまた来る。

着弾までの判定何フレームかと問い質してやりたいが、事前モーションがあるなら話は別だ。覚えて対処しない方が悪い。


しかしまぁこんだけ揃えば如何にも複眼が弱点ですって言ってるようなものでは。



『ヤギリです。紫電のカウンター食らいました。ダウン中か被接近時用のパターンあるかもしれません。伝達よろです』


『了解しました。通達します』



言ってる傍から帯電が激しくなってるし。


増幅し弾ける様な音と眼を焼く光が今か今かと放たれる時を待っているかのようで。

それを見てこんな時ですら綺麗だと思ってしまった。

現実で普通の生活をしていれば、まず見ることのないその危険をはらんだ光景に。

目を奪われ、引き伸ばされた時間の中でそれは弾ける。


あぁこれはマズいな、完全にミスッた。避けられない。

思考だけが回る世界でそんなことを考えていた。



「ステップトリーダー」



聞き覚えのある声と共に視界の端に現れ振られる腕。

そして不可視の何かに釣られ逸れる紫電。

急激に熱せられ膨張する大気から産まれる衝撃波が体を叩く。


現実に引き戻された気がした。



「うぇーい、危機一髪でしたねぇ。そんなんじゃ200回避けられないですよ?」


「苦行は御遠慮させていただきます。先頭任せても?」


「OKです、ただし道間違えてUターンするかもですけど」


「最小歩数狙ってないんで」



軽口を叩きながらも逸れかけた意識を切り替える。

防御手段持ちがいるなら話が早い。先頭を任せ距離を詰めればいい。

他所も雷魔法持ちが先頭で誘導しているみたいで。

放たれた紫電が先頭プレイヤーを逸れ地面で弾ける。


ステップトリーダーだっけ?使ってた呪文は。

なら紫電はリターンストローク扱い?。

いや魔法はわりと何でもありだからそれっぽいワードを当て嵌めてるだけの可能性もあるか。


何にせよ気合い避けしなくて済むのはいいな、余裕があるよ。

なら今すべきはDPSを最大化する為の仕込み。



「エンチャントアクア」「ブラックペイン」「アクセラレーション」「ヒートイグニッション」「レストレイントバーン」



乗せられるもの全部乗せだ。

自身に属性と状態:加速の付与、刃に闇と炎を纏わせる。


回避を考慮しないことで減速から逃れ速度は最大限に高まった。

肩を支点に担いだ斧槍を上段から最速で振り下ろす。



「こんにちは。出来れば、さようなら」



速度という形で最大化されたエネルギー、叩きこまれた斧槍は甲高い音と腕に確かな反動を残し角を断ち切った。


数mはあるだろう複眼を取り巻く8本の角、その一本。巨大さ相応の太さを持つ其れの先端近くが地に落ちる。

それと同時に帯電した紫電が霧散する。



「HAHAHA攻略法発見しちゃったな!」


「いぇーい、これで私も仕事しなくて済む~」



後続も追い付き各々の持てる最大火力で初撃は放っていく。


そして今まで爆破以外で動かなかったゲージが確かに減少し始めた。

明確にプレイヤーの総DPSがチェルノボーグのHPSを越え始めた証だ。


やっぱり数は暴力で正義だな。勝てるよこれは。











ゲージは残り1割を切り、目算3%程度。

複眼周りの角は全て半ばから砕かれ、複眼自体も半壊状態。

背部の甲殻部こそ目立つ損傷はないものの、自重を支え攻撃にも使われた触腕は、脚部側とでもいうのか下半身側が重点に破壊され蟲に喰われささくれた繊維の様に。


所謂ダウンはめが出来るようで、ダウン中に蓄積されたダメージは、復帰の瞬間に追加で設置された爆薬の起爆によって閾値を超え巨体を地に縛りつけた。


HP低下をトリガーにパターンの追加や特殊行動があるかと思ったが何もなく。


このままゲージを削りきってしまいそうではあるけども。



「なんか呆気なさ過ぎる気がするなあ」


「箱庭ストラテジーでももう少し手応えありますよねぇ、レイドなら」


「スパアマ付与からの全体攻撃とか形態変化とかあっても不思議じゃないよなぁ、履行技とか」


「案外リザレクションとかやってきたりして?黒神ですし神様パワーでRound2みたいな」


「世間ではそれをフラグと」



あっ、ゲージ削りきれた。

群がられハメられ続けたチェルノボーグは完全に弛緩し崩れ落ちているけども。



「本当に何も動かない?」


「動きませんねぇ。もしやホントにこれで終わり?」


「それならそれでいいけども、消化不良感は残るね」


「とりあえずで、勝ったッ!第一回レイド完!」



地面が揺れた。時間を巻き戻すかの様に、最低限の機能を満たす形へ復元された触腕が地面に突き立つ。


複眼にこれまで以上の紅い光が宿り、鉄の鳴る様な音と共に巨体が起き上がる。



「VVVvVvVVoOOOOooOOOOoOOOOOUUUUUUUUUUuuuAAA!!」



耳が痛い、三半規管にも直撃か、視界が揺らぐ。

衝撃が腹の底まで響いている。



「まさか……暴走?」



耳鳴りのせいでイマイチ聞き取れなかったが、真面目な話じゃないことだけは分かる。



「そうやってさっきフラグ建てたからあ!」


「気のせいか処刑様BGMとか流れてません?」



確かに、それまで停止してたのが目を発光させながら覚醒するとかアツい展開ではあるし、勝利を確信する場面でもあったり。

この場合敵側なんですけどね。

どんなに目を凝らしたって何も見えないよ。多分幻覚と幻聴。


そして、雲が日光を遮ったかの様な突然の照度の変化。

視界を遮るような薄闇の霧。

明らかに身に纏う靄の濃度が上昇してる。



「……ヤギリさん。これ多分コアとかがあって、それを破壊しない限り無限ループでは?」


「その根拠は?」


「うーん……私の眼と勘ですかねえ」



そういってチェルノボーグに背を向けて、視線は聖都に向いていたり。

他人には見えない何かが見えてたりします?



「ちょっと気になる事あるので任せていいですか。フレに呼ばれて用事を思い出して宅配便が来て素材が揃ったので抜けます」


「それ後でブロックされる奴では」


「多分ですけど、頭と胸部あたりがコア?多分ですよ?それと抜けますけど直ぐ連絡すると思うので、その時はちゃんと聞いてくださいね」


「了解、レイド前線実況でもしてるから。必要なったら連絡して」


「スパチャします。じゃ、いってきます」


「てら」



敵前逃亡というか何というか。

でもあのめんどくさがりは根っからのゲーマー気質で、イベントを理由もなく逃すはずもない。

行動を共にした時間も大して長くないのに、そう思える自分が居たりして。


取り敢えず今はこの覚醒した異形の主人公機をどうにかしないといけないか。


身体を再構築し立ち上がったチェルノボーグが視界を占める。

第二形態って試合続行ってか。


ふわりと、そんな可愛いものではない風切り音と共に触腕が空へ舞う。

同時に全身のばねを活かすようにその身が跳ねた。



「アクセラレーション」



まさかのフライングボディプレス。束ねていた触腕を分散させ、黒い壁が落ちてくるようで。


加速バフを付与して触腕の隙間へ滑り込む。


直撃は避け続く衝撃でノックバック、流れに逆らわずに距離を取る。


細分化された触碗に光が脈動し、暗がりに落ちる視界。

それは直ぐに白へと塗り潰された。


幸いにも触碗の延長線上を避けていたからダメージは無いが。



「初見殺しが過ぎるだろ」



足元に誘導しといて物理範囲、そこからの範囲焼き。

これで延長線上だけじゃなかったら確実に全員持ってかれてたな。


取り敢えずは近付く。遠くから様子見してたって欲しい情報は手に入らないし。

いや、そうでもないか。離れて見た方がいいのもあるね。


まぁとにかく近接用のパターンが欲しい。

結局誰かが動かないと始まらないし、人が動くのを待てばそれだけ情報は遅くなる。


それに実際に体験して得た肌感覚ってのは何物にも代え難い。


だからこそ、回避を意識しつつ斧槍の届く距離に。

左右で二度ずつ、上体を起こす動作を兼ねた拡散触腕の刺突を避けて足元へ。


足裏から伝わる不穏な振動を感じればサイドステップ、不規則回避を刻めば地面から人の腕ほどにも細く分かれた触腕が後を追う様に生え乱れる。


今が狙い時か。



「ヘヴィミスト」「シャドウフィールド」「フラッシュオーバー」「ヒートリテンション」「ダウンバースト」「浄化」




魔法制御による手動操作で、霧と闇が圧縮され回転しながら刃を形成する。断続的に解放される爆熱がエンジン音に似た音を響かせ刃を加速させていく。

MPの残量だとか後のことは良い。



「エンチャントアクア」「ブラックペイン」「アクセラレーション」「ヒートイグニッション」「レストレイントバーン」「エンチャントファイア」



自身に盛れるだけのバフを盛り、速度と重量を活かすように横薙ぎのフルスイング。

逆サイドから合わせて虚鋸で挟み込めば。


斧槍が触腕を切り飛ばした。



「収穫の時間だ!」



先物やってたら大儲けできそうだなあ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ