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5. 神官の少女とリビングアーマーと人間の子供の霊

俺はがらんどうの鎧な魔物リビングアーマーだ。いつもブルブル震えてる人間の子供の霊が俺の鎧の中にはいる。人間に擬態した俺達は今日もギルドの依頼をこなして、今は村の宿屋に戻って来た。今日は連れが一人いる。神官の少女だ。


俺の中の人間の子供の霊よりも震えているんじゃないか、というぐらいに神官の少女が震えている。事情を考えると無理もないかもしれない。パーティの仲間が魔物にやられてこの子以外は全滅したのだ。


俺達は依頼を遂行した帰りに、魔物とこの子を見つけた。俺はこの子をひっつかんで逃走した。(少女に見えないところで魔物は倒した。リビングアーマーだとバレるわけにはいかないからな)


≪ブルブルブルブル…………≫ 俺の中の人間の子供の霊は相変わらず震えている。

≪ブルブルブルブル…………≫ 神官の少女もひどく震えている。


「今日は、このまま宿屋でぼーっとしとくとするか」 俺は何となくつぶやいた。この少女にずっと付き合うわけにもいかないが、ちょっとぐらいはそばにいよう。



「今これから死ぬんだと思った瞬間……、実際にはリアンさんが首根っこを掴んで引っ張ってくれたので死ななかったのですが……、目の前に真っ先に浮かんだのは父に殴られて怒鳴られたことでした」 神官の少女が震えながら言った。


「え? 何それ?」 俺は疑問に思った。死をもたらす目の前の魔物のことじゃないの? 死の瞬間に一番印象深いことが思い出されたとかなの?


「子供の時……、厳しい修行をさせられたのです。……嫌だったのですが……父と母に『お前のためだ』と言われると……、嫌だと、言い出せませんでした。……だから私は石になりました。……何も言わない、自分の気持ちも無い、石です」


≪ブルブルブルブル…………≫ 俺の中の人間の子供の霊は震えながら少女をただ見ている。


「……私の意志なんて……関係ありませんでした。……私が、……親の『腕』であるかのように、父の言われた通りに、……やらされました」


「そうなんだ」


「父に、怒鳴られて、殴られるのが、怖くて……いつも震えていました」


「今も、震えてるな」


「……そうですね。……昔に戻ってしまったかのようです。……昔の、子供のころの、……震えていた、感覚を思い出しました」


「親からの虐待ってやつか?」


「……分かりません。 昔は……、私のためを思った指導だと……思っていました。……虐待だと思ったことは、なかったですね」




その日は神官の少女の話をあれこれ聞いていた。本人の希望があったので、ちょっと抱きしめて、よしよしと頭をなでたりもした。けど、俺が付き合えるのはここまでだな。短期間でどうにかなることではないだろう。本人はずっと付き合っていかなきゃならない。でも、俺の仕事じゃない。



「何というか、死ぬ時に見えるもの……、『父に怒鳴られて殴られて……震えてる人生だった』と一言でまとめてしまえるのは……嫌だと思いました」 少女は震えながら言う。


「そうか」


「言われたことに従うまま、自分の意志が尊重されない、……親の『腕』であり続ける、というのも……嫌だと思いました」 少女は何かを、自分の感覚を、気持ちを確かめながら言う。


「そうかもな」


「色々……感じて、考えてみます。 ……ありがとうございました」


≪ブルブルブルブル…………≫ 俺の中の人間の子供の霊は震えながら少女をただ見ていた。


「……ありがとうございました」


神官の少女は、俺を見て礼を言い、俺の腹の辺りを見てもう一度礼を言った。俺がリビングアーマーだって、俺の鎧の中に人間の子供の霊がいるって、……バレてないよな。


それが俺達と神官の少女の、取り敢えずのさよならだった。また、会おうぜ。




神官の少女とリビングアーマーと人間の子供の霊 :おわり


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