3. ギルド登録と初めての薬草採取依頼
俺はがらんどうの鎧が動いている魔物リビングアーマーだ。俺が昔、生まれたばかりのころに、ブルブル震えてる人間の子供の霊が俺に入って来た。俺はその後も、人間の子供の霊を鎧の中に入れたままにした。何というか二人で一人になった感じがしたのだ。
俺が自意識のないリビングアーマーだった時は何かをしたいなどど思うこともなかった。しかし今は鎧の中に人間の子供の霊もいる。何を見てもただ震えていることが多いが、一応ものを見てはいるようなのだ。
俺は人間の子供の霊に何かを見せたい、あれこれ見せたいと思うようになった。
そんなわけで人間に擬態した俺は、冒険者ギルドで登録して冒険者になった。冒険者になって見聞を広めることで、あれこれ見せてやれるような気がしたからだ。
登録したばかりの初心者な俺は、薬草採取の依頼を受け草原にやってきた。
ブチブチと薬草を千切る。俺の手先はあまり器用ではないのかもしれない。それでもどうにか規定量を集めることができたようだ。
《ブルブルブルブル…………》人間の子供の霊は相変わらず震えている。お、震えが大きくなったぞ。あれ? 草原のあそこあたりに何かいるなぁ。
「お疲れ様リアンさん、薬草は首尾良く見つかりましたか?」受付の女性が対応してくれる。
「ああ、問題ない。ただ、草原でこの人に会ったんだ。冒険者ギルドに連れてって欲しいというので連れてきた」
「ギルドマスターに合わせてえぇぇぇ……」連れてきた女がつぶやいた。
「ギャアアアアーー! なに悪霊連れてきてるんですかーーー!」
ギルド内は騒然となった。
「い、いや悪霊じゃないぞ……多分。単なる霊の人じゃないかな?ギルマスに対して何か怒ってるみたいだけど」俺は弁解した。
「何を騒いでるんだ! わしは今会議中なんじゃぞ!」
「あ、ギルマス! きちゃいけません! 悪霊がギルマスに会いたいって」受付嬢が叫ぶ。
「げえぇぇぇーー! お前は、浮気がバレたわしを殴って20年前失踪したエミリーじゃないか! 悪霊になっとったのか!?」ギルドマスターは目を剥いている。
「あ、た、しは、悪霊、じゃ、ないぃーーーー!!」エミリーは泣きながらギルドマスターをぶん殴り始めた。
「ぐはぁっ! すまんかったーー! ふげぇぇっ! 」ギルドマスターの金属鎧はパンチで凹んでいる。
「ちょっと心残りがあったり! あんたのことが! 心配だっただけだーーーーー!!」エミリーはさらに3発パンチしてから満足いったように笑った。
「じゃあ、元気でね」エミリーは晴れ晴れした顔をしていた。
「お前も達者でな」ギルマスは顔がボコボコだった。
「な、悪霊じゃなかったろ? ただの霊だったろ?」俺はまだ弁解していた。とにかくリビングアーマーから見た感じでは、ただの人の霊だったのだ。
《ブルブルブルブル…………》人間の子供の霊は震えながら、空に消えてゆくエミリーをただ見ていた。じっと見ていた。
俺の初めての薬草採取依頼は成功裏に終わった、と思う。ギルドマスターの覚えはめでたくないかもしれないが。
ギルド登録と初めての薬草採取依頼 :おわり