96 男子校の生徒の恋は簡単じゃない
俺は、佐藤友樹。
男子校桃花高校の1年。
バスケット部に所属している。
昔から、家族には、身長が高くてそこそこいい男って言われているけど、全然女の子と縁がない。
中学の時は男女共学だったけど、体つきが変わって色っぽくなっていく女子とうまく話しができなくて、
全然、彼女とか作れる雰囲気じゃなかった。
俺のこと好きな女子がいるって聴いても、なんかうまく対応できなかった。
何か、恥ずかしくて積極的になれなくて、そのうち、相手があきらめちゃったりしてた。
高校は男子校に入っちゃったから、全然、接点がない。
他校と試合をしてると、女子マネージャーがいたり、女子部員がいたり、応援に来る女子がいたりしてて、
超羨ましかった。
このまま3年間、女子と縁のない生活を送るのかなって思ってたら、文化祭の直前に、同じクラスの小出葵に
意外なことを頼まれた。
小出は男子なのに、演劇部で「姫」という女形をやっていて、クラスでも女子の制服で過ごしているという変わったヤツ。しかも、普通の女子に見えちゃうレベルで、俺も本物の女かと時々思ってしまう。
よく、イケメンの板谷と一緒にいるけど、普通のカップルに見えちゃうからすごい。
その小出から、文化祭直前に声をかけられた時は驚いた。何を頼まれるのかと警戒しちまった。
俺と仲のいい剣道部の山中と一緒にいる時に頼まれたんだ。
ちなみに、山中はちょっと小柄だが、けっこうイケメンだ。
俺と同じように消極的な性格のせいか、全然女子と縁が無い。
「突然で悪いんだけど、お願いがあるの。
実は、女子校の友達2人が男子校の文化祭に遊びに来るんだ。
当初、私が案内するつもりだったんだけど、私、いろいろ用事がはいっちゃって、動けないの。
それでね、佐藤君と山中君でその友達を案内してくれないかな?
二人ともとっても可愛い子だよ。」
「ええっ?何で俺と山中なんだ?ほかにもいるだろ?」
「そんな大役、俺たちじゃ務まんないぞ、俺たち女子とうまく話せないぞ。」
「二人とも真面目そうだから、頼むの。
それに、二人ともまずまずのイケメンだから、私の友達を任せるにはいいと思ったんだ。」
真面目と言われると、ちょっと頭にくるけど、その後のイケメンという言葉は俺たちの心に響いた。
女子とのコミュ力がない俺たちでも務まるかもしれないと思う。
まず、山中が承諾の意思を示した。
「わかった。イケメンかどうかはわからないけど、文化祭のおもしろそうなところを案内すればいいんだよね。女の子が楽しめそうなところに連れて行けばいいんだ。
俺たちが評価されているなら、やるよ。」
山中がそういう気なら、おれも承諾するしかない。
「うん、そうだな。可愛い子なら、案内しなきゃな。
嫌われないように、がんばるよ。」
「ありがとう、よろしくね。」
で、文化祭の当日。
俺たちは小出に女子二人を紹介される。
「こちらが、桑島純華さんと北山文乃さん、二人とも可愛いでしょ?
女子校でも、トップランクの女子だよ。」
「またー、葵ったら、そんなに褒めても何もでないよ。」
「うん、褒めすぎ。男の子たちが困っちゃうよ。」
「あ、俺、佐藤友樹です。よろしくお願いします。
二人とも、すごく可愛いよ。お世辞じゃないから。」
「うん、二人とも可愛い。俺、山中健太。きょうはよろしく。文化祭の目玉を見て回るから、
話のタネにはなると思う。」
「あ、ありがとう。お願いします。」
「うん、お願いします。」
文化祭の案内はすごく楽しかった。
思春期になって、初めて女の子とおしゃべりをいっぱいした。
初対面の相手だったから、敬語を交えての会話だったけど、気分が高揚して夢を見ているようだった。
女子は二人とも可愛いと思ったけど、何となくよくしゃべった桑島さんのことを好きになってしまった。
山中は山中で、やっぱり二人とも可愛いと思ったみたいだけど、話す機会の多かった北山さんを好きになっちまったみたいだ。ちょっとした雰囲気とか話のタイミングで好きになる相手が決まった感じだ。
結局、無事に案内はできた。
小出や板谷たちが出演する演劇、美味しい出店、女子に人気の執事喫茶、そしてお化け屋敷。
桑島さんも北山さんも、けっこう笑顔で、楽しんでくれた。
うーん、不器用な俺たちとしてはよくやったほうだ。
そして、彼女たちが帰る時、俺たちは校門まで送る。
「今日はありがとう。じゃ、またね。」「おかげで、楽しかった。またね。」彼女たちはそう言ってくれた。
俺たちも
「じゃあ、また。」「またね。」と返す。
心の中で、それだけでいいのか?と思いながらも。
翌日、俺と山中は告白と反省会をする。
「山中、俺、桑島さん好きになっちまったけど、どうしていいかわからない。」
「俺は、北山さんだ。でも、どうしていいかわからん。」
「あれだけ可愛ければ、二人とも彼氏いるよな?」
「そうだよなー。いて当然だ。俺たちなんか相手にしないよ。」
「やっぱりそうか、そうだよな。」
「そうだよ。」
俺たちは見事にヘタレだった。ネガティブだった。
「でも、連絡先くらい交換しとけばよかったな。」
「おお、そう思う。でも、後の祭りだ。」
「もし、あっちが俺たちのこと気に入ってくれたなら、小出を通して連絡くるよな。」
「そうだ。小出を通して連絡がくるはずだ。」
「じゃあ、しばらく待ってればいいな。」
「そういうことだ。」
結局、連絡なんて来なかった。
そして、ついに、12月になってしまう。俺たちは女子高の二人のことを忘れられないままだった。
そんな時に、小出が性転換手術をして女性として生きていくという一大決心をクラスのみんなに打ち明けた。
「小出のやつスゲーな。よく決心したな。肝がすわってるよ。」
山中が言う。
「それに比べ、俺たち肝がちっちゃいな。よし、女子校の二人への気持ちを何とかしようぜ。
小出に頼んでみよう。あの二人にまた会えないか、話してみよう。」俺は、思わず言ってしまった。
「そうだな。俺もモヤモヤしたまま新年を迎えたくない。頼んでみよう。」
俺たちは、小出に女子校の二人にまた会いたいから段取りをお願いしたいと頼むことにした。
そして・・・俺たちはお見合いみたいな食事会を経て、グループ交際をすることができるようになった。
小出のおかげだ。相手の気持ちはよくわからないままだったけど。




