9 美容室へ行く。そして、週末のショッピング
金曜、学校から家に帰ると、すぐに女の子のカッコに着替えさせられて、姉と一緒に
いつも行く美容室に連れていかれる。
免許を持っている姉が車に乗っけてくれた。
美容室「アクア・メロディ」に着く。
ここは、幼いころからの行きつけの店だ。
今の女の子っぽいボブカットもここで整えられてる。
いつもカットしてくれてる美容師の環奈さんが、接客してくれた。
「葵ちゃん、『姫』になるんだ?私も柚さんと一緒で、桃花女子高校出身だから、女形制度のことは
よく知ってるよ。
とびっきり可愛くしてあげるっ!
けっこう癖っ毛だから、縮毛矯正でまっすぐにしてきれいな髪の毛にしちゃうからね。長さもちょっと
伸びて、女の子らしくなるはず。あとは、前髪とサイドの髪の毛をアイドルみたいに可愛くしちゃう。
今までは男の子だったから、ちょっと抑えてたけど、もうやりたい放題やるね。
可愛いから、やる気湧いてきた。
それにしても、スカート履いて、胸が出てると、どう見ても女の子だね。
うん、性転換して、女の子になっちゃえば。」
「環奈さん、私、ニューハーフじゃないから。
もう〜。
学校で、先生にも言われたよ。」
アニメ声で、反論すると
「わっ、可愛い。声も訓練してるんだ。それじゃいよいよ男の子って見抜けなくなる。
すごーい。」
盛り上がる環奈さん。
「うーん、とにかくお任せします。
ふつうの女の子に見えるようにしてください。」
「ううん、ふつうじゃなくて、とびっきり可愛い女の子に変身させちゃう。」
そして、数時間後、俺は、縮毛矯正の威力に驚く。
姉がくせ毛をなおすために、時々かけていたのは知っていたけど、自分の髪の毛がきれいにまっすぐなって、しかも長さが伸びて、頭の大きさが小さくなったのには、正直、想像以上だと思った。
確かに可愛い。
女の子のヘアスタイルとして、問題ないというか自然だ。
もっと伸ばして、セミロング、ロングヘアも試してみたいと思ってしまう俺だった。
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土曜日は車で、大規模なショッピングセンターに車でお出かけし、お買い物となる。
父、母、姉、俺という4人で一緒に出掛けたが、父はショッピングセンターにつくと、買い物は任せるといって、一人でぶらぶら、違う方向へ行ってしまった。
どうも、イベントホールで、アイドルのライブがあるようで、そこに行ったようだ。
実は父はアイドルオタクなんだ。
で、買い物で、活躍するのは母と姉だった。
下着、服、化粧品、小物、靴などで、必要なものを買いあさる。
姉からもらったものもあるが、やっぱりないものが多いから、買うことになる。
俺はついていって、ちょっと意見や希望をいうだけ。
女装して、街中に出るのは初めてだったから、俺は緊張で買い物を楽しむ余裕はない。
人の目が気になってしかたがない。
男だってばれやしないか?と心配でしょうがない。
姉のお古の可愛らしいフレアースカートを着て、やはり姉のお古のヒールのある靴を履いて
鏡に映る姿は完全に女の子なんだけど、自信はない。
そして、予想はしていたが、下半身がスースーする。
フレアースカートの下はパンツ(ショーツ)だけ。ハイソックスは履いているけど。
まだ4月だから、けっこう寒い。
学校行くときは、パンチラ防止と寒さ除けで、見せパン履かないとダメだ。
超緊張したのは、下着専門店だった。
若い女性向けの安くて可愛い下着を売ってる店で、母、姉と一緒に下着を選んでいたのだが、店員が近づいてきて、声をかけられた。
母が声をかけられた時に、
「今日は高校生の下の娘の下着を選びに来たんです。」なんて言うからだ。
どうみても大学生か社会人に見える姉を見たら、俺が妹と思うだろう。
「サイズ測りましょうか?今だと成長期で、胸のサイズも変わるから、測った方がいいですよ。」
「いや、大丈夫です。けっこうです。」俺は、懸命に女の子の声を作って、笑顔で可愛く断る。
「そうですか?気になったら測りますからね。」
店員も笑顔で、サイズを測ることをあきらめてくれる。
どうやら、今の時点では男だってばれてはいないかもしれないけど、サイズを測られたらバレそうだ。
なんてったって、トップバストなんてないんだから。
今のブラにはバッドが入ってるから、胸があるように見えるけど、プロの店員がしっかり胸のサイズを測ろうとしたら、普通の女の子とちょっと違うことに気づくと思う。
俺は冷や汗をかきながら、下着を選んだ。
無事に商品をゲットすることはできたが、店員の目が気になってすごく疲れた。
トイレは多目的トイレを利用した。
さすがに女子トイレは遠慮する。
ただし姉に付き合って女子トイレに併設されてるメイクルームには入った。
若い女性だらけでけっこうドキドキした。
俺と同じ年くらいの女の子が結構凝ったメイクに挑んでいて思わずガン見してしまう。
「ふふふ、葵もメイク覚えないとね。今日は基本のメイク用品も買ってあげる。
私の使わなくなったものもあげるけどね。」
初めてのヒールのある靴にも疲れる。ヒールがあると、確かに足長に見えて、女の子っぽい感じも増すし、いいんだけど、スニーカーと全然違って歩きにくい。
まあ、でも途中から、完全に女の子的な自意識が湧いてきて、ショッピングが楽しくなる。
店員さんが、俺のことを完全に女の子と思い込んで接客してくれるのが気持ちいい。
姉に言わせれば、どんなブスでも、おきれいですねって言う店員が優秀だそうだから、
油断はできないと思うが、少なくとも、「あれっ、男の子?」というような対応は全くなかった。
ま、可愛らしいスカートをを身に付けてるし、おっぱいも出てるんだから、女として認識するんだろうけど、それでも嬉しかった。
そういえば、明らかに女装して買い物をしている男性も見かけた。
背が高いし、ウイッグだってわかるし、肩幅もあるので、わかってしまう。
きれいにお化粧しても、何となく変なのだ。
母と姉が、「あの人男性だよ。」って囁いてくれた。
俺も、「うん、わかっちゃうね。」と答える。
本人は完璧に化けてるつもりなんだろうけど、気の毒に。
不思議と周りの人はみんな気づかないふりをしている。
本人が通り過ぎて、しばらくたってから振り返っている。
うーん、現代人すごい。本人が傷つかないように、チェックしてる。
単なる女装趣味なのか、それともLGBTなのかわからないけど、
やはり、普通の女性と違う容姿は目を引くなあ。
姉が、「葵ちゃんは大丈夫。背が低いし、肩幅ないし、髪は地毛できれいだし、
若くて可愛いし、全然自然な女の子だよ。私の自慢の妹だからね。」
母も、「今日から、うちの次女ってことにするから。ね!」
と私をフォロー。
うーん、単に演劇で女役やるのに、ここまで完璧に女になりきる必要あるのか?
でも、完璧に化けることができて嬉しいっ。
お芝居に役に立つはず。
もっと努力しようっ!
月曜日からは女子校に通うんだ。明日も、女の子姿で、外歩こう!
俺は、もう突っ走ることにした。