74 地区大会始まる
こんにちは、山野秋葉です。
桃花高校の演劇部顧問の教師です。
秋になり高校生の演劇大会が始まりました。
まずは10月に地区大会、そこで上位3校に入れば11月の県大会へ行きます。
県大会で上位2校に入れば12月のブロック大会に行けて、そしてそこで優勝すれば、次の年の夏に全国大会に行けます。
スポーツの全国大会と違ってちょっとわかりにくい日程ですね。
2年がかりの大会ですから。
さて、今年はどうなるでしょう?
桃花高校は実は全国大会に出たことがあります。
それは・・・私が高校3年生の時です。
女形だった私は実は全国大会に行くのが恥ずかしかった・・・。
全国の人に、「男子校なのに、女子生徒が混じっているの?」という目で見られるかもしれない、でも、男だって、すぐばれるから、女形制度についていろいろ聴かれるかもしれないといろいろ考えちゃいました。
まあ、実際にはただの女役として見られただけですけどね。
心配するほどのことはなかったんです。
ただ、全国大会には出ましたが、優勝はしませんでした。
全国にはすごい高校がいっぱいあったのです。
「いつかは後輩に全国優勝をしてほしいな。」と思いつつ、高校を卒業していきました。
で、結局、母校の教師となった私は、顧問として演劇部の全国制覇という夢をまた追ってます。
現在、顧問就任3年目ですが、今年のメンバーにはけっこう期待しています。
まずは、板谷君。
身長が高く、動きも切れ味がよくて、声も通る。
そして、存在感のある演技。まさにエースと呼べる主役級俳優。
最初はズブの素人だと思って、ちょっと心配してたんですが、夏休み終わるころから化け始めました。
プロの役者顔負けの、激しい演技ができます。
これは才能でしょう。
野球で言えば、ピッチャーでホームランバッターみたいな存在です。
あとは、周りを固めるメンバーさえしっかりしてれば、劇がとても魅力的なものになります。
次にはやっぱり、女形役者の小出くん。
葵ちゃんと言ったほうがいいかな?
板谷君と同じように、ズブの素人だし、女性の役がうまくこなせるかな?と当初同じように心配だったんですけど、見事に変わりました。
本人が輝くというより、主役の板谷君を引き立たせるか弱い女の子としての雰囲気がすごく出てきたんです。強さを感じさせる板谷君に比較して、徹底的に弱そうに見える演技を見せる葵ちゃん。
しかも、抱きしめたくなるくらい可憐な雰囲気を見せます。
私が現役の女形の時は、私は女王様のように、強い女性として、劇を作っていったのですが、葵ちゃんはその逆。
彼女は、私と同じように、女性になるために治療を入学後始めました。8月からです。
日々女性らしくなっていってます。
周りの生徒たちは気づいていないのですが、最近では、顔の輪郭や肌の雰囲気がホルモン治療を始める前と違っています。
今までにない色気も出てきています。
うん、男だらけの役者の中で、ちょっとしたアクセントになっていることは間違いなしです。
そして、尾崎君。
彼の裏方としての活動量はすごい。
現在は3年生の片桐君が、台本作りや舞台監督を一手に引き受けているんですが、もう片腕的な存在となっていて、片桐君引退の後、すぐ、その役割を引き継げそうです。
全体に気を配って私に報告してくる役割も自主的に行っていて、実に頼もしいんです。
他校の演技の分析もしていて、情報収集も怠りありません。
野球部で言えば、私が監督的な立場なんですが、彼は、ヘッドコーチになりそうです。
全国を目指すなら、彼みたいな生徒は絶対必要です。
そうは言っても、まずは地区大会を突破しないと話にならない。
よし、がんばるぞ。
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葵です。
なんと、無事地区大会を女子校とともに突破しました!
県大会に行けるんです!!
桃花高校は毎年県大会には出ているので、当然といえば当然なんですが、今年は1年生の板谷君が主役で、
私がヒロインです。未知数の新戦力での勝負ということで、先輩方はかなり心配してたと思います。
山野先生も手探りだったんじゃないかな?
まずは一安心といったところです。
発表があった後、みんなで地元に帰る途中、少しだけ板谷君と二人きりになる時があったので、板谷君に声をかけました。
貸切バスで移動していたのですが、トイレ休憩で私と板谷君だけ、トイレに行かなかったんです。
「板谷君、今日の演技よかった!
オーラがあったよ!」
「うーん、自分としては細かい失敗あったんだよなー。まだまだだよ。
それより、小出の演技もよかったぞ。声の出し方がよくなっていた。
それに・・・だんだん、可愛くなってきてる。」
「そおっ?やっぱり治療が進んでるからかな?」
「おいおい、周りに誰がいるかわからないから、気をつけろよ。
カミングアウトはまだしてないだろ?」
「あ、そうだった。いけないいけない。
でも、女性らしくなっていくのが最近自分でもわかってきたから、演技にも自信が出てきたかも。
私も板谷君に負けないようにがんばるね。」
「頼むぞ。
次は県大会で、審査員も厳しそうだ。ウチの学校、昨年はブロック大会に進めなかったけど、今年は絶対、行こうぜ。」
「うん。」
そこまで話をしてたら、トイレに行ってた演劇部のメンバーが戻ってきて、全員そろいます。
片桐先輩が尾崎君と一緒に話しながら戻ってきました。
「よし、このままなら全国を狙っていこう。ブロック大会を突破すれば、もう全国だ。
来年は尾崎の天下だから、やりたいようにやってくれ。」
「先輩、まだ早すぎますよ。まずは県大会でしょ?強敵いっぱいいますよ。
伏兵に足をすくわれるかもしれないし。」
「そうかもしれないが、今年のメンバーはけっこう充実してるんだ。
全国を目指せる!その気になって、やってくれ!
自信を持たないと、会場の雰囲気にのまれちまうぞ。
県大会は踏み台くらいのつもりになってくれ。
勝負するなら気持ちを大きく持て!」
「先輩がそうおっしゃるのなら、その覚悟でやりますよ。
観客を感動させる芝居、ブロック大会が終わるまで一緒に作っていきましょう!」
「そうだな、俺も最後まで全力を振り絞って、劇をプロデュースするから、付いて来いよ。」
「はい。」
全国大会?まじか?
まさかね・・・・




