62 カミングアウト
板谷翔です。
もしかして・・・と思いついたことがあったので、思わず言ってしまった。
「まさか性同一性障害の治療始めちゃったとかじゃないよな?
まさか・・・な。
女になりたいなんて聴いたことないし。
俺は、小出が性同一性障害だと思ったことはないよ。」
俺は思いついたことを口に出しながら、何をバカなことを言ってしまったんだろうと反省した。
葵はあくまで女形なんだ。
女の子になりすます訓練をしているだけだ。
女の子に見えてしまう素質がたまたまあるだけだ。
性同一性障害なんてありえない。
でも、小出の回答は意外なものだった。
「そのまさか・・・なんだ。
実は私、性同一性障害の診断をもらって、1ヶ月くらい前から治療始めた。
そろそろ身体に変化が始まってきたみたいだから・・・
身近な友達のうち一人は教えとこうと思って。」
「マジ・・・か?
・・・・・・・
入学して知り合って以来、性同一性障害だなんて話は聴いてなかったぞ。
信じられない・・・
ずっと女になりたかったのか?」
「正直言うと、うーん・・・
私も女形を始めるまで自分を性同一性障害と思ったことはないんだ。
・・・・・・・
女形として女の子っぽくしようとしているうちに、自分の本性というか、
心の中に眠っていたものが目を醒ましたというか・・・
そんな感じかな・・・
幼いころから、女の子っぽいって言われて、表面上は嫌がってたけど、
実は嬉しかったことも思い出して・・・
自分の素質も考えて・・・
いろいろ考えて・・・」
「・・・
そうなのか?
複雑そうだな・・・
そうか・・・
もう始めてしまったことだからなあ。
俺としては意見は言えないな。
うーん・・・
まあ、性別は関係ないか?
友達は友達だ。
これからも仲良くやっていこう。
女になるっていうなら、応援するよ。
治療とか手術とか大変なんだろ?
そうだよな、秘密にするのも苦しいよな。
それで・・・もちろん学校や先生は知ってるんだよな?」
「うん、知ってる。
生活に関係するからね。
部活やクラスのみんなには年末ごろ発表しようと思ってる。
家族以外・・・友達で知ってるのは祐希と女子校で仲良くなった女の子二人だけ・・・」
「そっか。
男は俺が最初か?
そりゃ、光栄だな。
・・・そうか、
尾崎にしなかったのは、あいつがからかってくると思ったからだろ?」
「うん、そういうキャラだし。
あまり、いじられたくなかったし。」
「何となくわかるよ。
俺の方が真面目に相手してくれそうだもんな。
任せておけ、俺は口が堅いから、小出が話すまで黙ってるよ。
と言っても、年末までに少しづつばらしていくんだろ?」
「うん、そのつもり。」
「まあ、普段から女装してるから、クラスや部活のみんなはすぐ気づかないよな。」
「うん、そうだね。
ただそれだけじゃなくて、ホルモン治療始めて、はっきり容姿が変わるまで、半年以上かかるからね。
パッと見はわからないよ。
半年かかって、小学校6年生の女の子の体型になれればいいかなってくらいの変化だし。」
「そうだよな。
すぐ変わるわけないかあ。
半年、1年はかかるんだろうな?
どういう風に変わっていくんだろう?」
「私も正確にはわからないけど、
・・・まずはね、わかりやすいところだけど
胸が出てくる・・・かな?
少しだけどね。
時間たってもあまり大きくならないってよく聞くよ。
あと、皮膚が薄くなって、筋肉が落ちて脂肪が付くようになって触るとプニプニの柔らかさになる。
で、お尻にも脂肪が付いてお尻が大きくなるんだ。
顔にも丸みが出て女性らしい優しい顔になる。
そんな変化が進んで行くんだけど、個人差はあると思う。」
「なるほど、ホルモンだけだと巨乳にはならないんだ。」
「あ、そこに食いつく?
板谷君、巨乳好きだったの?」
俺は小出のツッコミに慌てた。
別に巨乳好きではなく何となく感想を言っただけだが、誤解を招く発言だった。
ちょっと恥ずかしくなる。
「イヤ、巨乳好きじゃないよ。だからといって貧乳好きでもない。
サイズなんて気にしないよ。女の子の価値は胸の大きさで決まるもんじゃないだろ?
ただニューハーフで胸がでっかいのっているから、あれってシリコンとか入れてるんだなって思ったんだ。」
「ふふふ、動揺してる。巨乳好きでも
別にいいじゃない?
そんな男子いっぱいいるよ。
それにしても、板谷君詳しいね。
もしかしてニューハーフのグラビア写真とか見たことある?」
「参ったな、まじに巨乳好きじゃないんだけど。
それから、ニューハーフは詳しくはないよ。
ただ小出の言う通り有名なニューハーフの水着グラビアを見たことはある。
ホルモン治療だけでここまで行くのか?って疑問に思った記憶があるんだ。」
「そうなんだ。
私は巨乳にしたいとは思わないけど、
全然ぺったんこだったら豊胸手術考えるかも。胸は女性の象徴だもん。
人並み程度の大きさは欲しい。」
「おお、女心だなぁ!
豊胸手術しないで納得出来る大きさまで成長するように祈ってるよ。」
「私も祈ってる!
ペチャパイはイヤ!
ふふふ!」
「よーし、成長が楽しみだ!」
「ええ?なんかそんなこと言われると
プレッシャーだよ!あんまり観察しないで!」
「男は女の子の胸を観察するもんだぞ。
小出ならわかるだろ?」
「そうだけど、当事者になると恥ずかしい!」
「まあ、女の子は胸だけじゃないんだ。
トータルでいい女になれよ。
それは期待するよ。」
「うん、ありがとう。
とにかく女形のサポートプラス女性化の
サポートよろしくね。」
「了解。
話をここまで聴いたんだから、精一杯フォローするさ。
あと、手術はいつするんだ?戸籍は?」
「手術は高校3年の夏休み。戸籍変更は20才にならないとできないから、
大学入ってからだね。」
「おお、完全に女になるためのロードマップできてるじゃないか?
そこまで見通しがあるなら、応援のし甲斐もある。
あ、そこまでやるなら、結婚もできるってことじゃないか?」
「結婚?!
そんなこと考えられないよ!
やだなあ!
私はまずは普通の女性になることが目標。」
「ははは、そうだな。
結婚は相手がいることだしな。
まずは、女磨きだし、大学に入学することだし、就職も考えないとな。
ま、小出は可愛いから、慌てなくても結婚できそうだ。」
「そ、そうかな?」
俺は、嬉しそうな顔になる小出を見て、
自分も嬉しくなるのを感じた。
今週は土日月と更新します。
話のネタを少しづつ貯めているので、何とか目標の100話は達成できそうです。それより先はわからないけど。
高校生の話を考えるのは楽しいですね。




