61 新学期 ちょっと違和感。板谷君へのカミングアウト。
新学期が始まりました。
2回のホルモン注射の影響でしょうか?1カ月近くたって、あきらかに、胸の感じが変わってきました。
胸が明らかに突っ張る感じです。
そして、乳首周辺が少しだけ盛り上がってきた感じです。
膨らみというより、腫れているという感じかな。ちょっと痛い。
皮膚の感覚も変わってきた感じがするけど、まだ気のせいかな?程度です。
あと、性欲がなくなってきたかも?
女形に夢中になり、女性での生活をするうちに女性への恋愛感情は湧き起らなくなってきたけど、
健康な思春期の少年だから、それなりに男子の現象はあったし、その処置もしてきました。
でも、ホルモン投与によりそれがなくなりました。
女装している時に、その現象が出て困ったことがあったのでこれで一安心です。
もう普通の男子ではないという事が明確になったわけでもあり、ちょっと寂しいけど、欲しいものを得るにはしかたありません。
覚悟は決まりました。
そういえば、私の性転換への道のりを説明した友達は、祐希、純華、文乃の3人ですが、男子には誰にも話していません。
身体の変化が始まったので、男子の誰かには打ち明けたくはなってきました。
何となく、尾崎君には話したくありません。
尾崎君はいい人ですが、人を茶化すところがあるので・・・
菅原君とも仲はいいのですが、冷静に聴くだけって感じがします。
やっぱり親身に話を聴いてくれて、いろいろフォローもしてくれそうな人物というと、
やはり板谷君です。
秘密をばらすのは恥ずかしいけど、体つきや顔つきが完全に変わってしまう半年後には全校生徒はともかく、クラス全員と部活メンバー全員には言わなければいけないから、今の内に何でも話せる男子がいた方が便利なんです。
よし、板谷君にカミングアウトしよう。
思い起こせば、夏休み中に板谷君に説明しようと考えた時もあったんだ。
でも、教室や部活時には言えないなあ。他の生徒に聞かれちゃうもん。
よし、今度の金曜は部活が休みだから、板谷君とこっそり会って、打ち明けちゃおう。
決めた。
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板谷翔です。
9月最初の週の金曜日は部活が休みになった。
まっすぐ帰って、まだ見ていないテレビの録画を見ようかな?なんて授業中考えていたら、
いつの間にかスマホにメッセージが入っていた。
休み時間に気づいた。
小出からだ。
何々、「せっかくの部活の休みの日に、申し訳ないけど、学校帰りにこっそり私と二人きりで会ってくれない?
学校の近くだと誰かに会っちゃうから、うちの学校の生徒があまり行かない横浜駅とかで会うのどうかな?ちょっと、人に知られたくないことで相談があるんだ。」
何?横浜駅?そんなには遠くないけど、やや遠出だな?わざわざ横浜で会いたいっていうことは、
学校のメンバーに知られたくない話があるのか?
一体なんだろう?
部活の話?クラスの話?
うーん、全くわからん。
恋愛相談?好きな女でもできたか?
そりゃないな。自分自身が女子みたいになっちゃったからなー。
部活関係だったら、演技の話か?クラスの話だったら人間関係?
まさか、女形が嫌になったとかじゃないだろうな?もう普通の男子に戻りたいとか言われたらどうしよう?
そしたら、全力で阻止するか?
あんなに可愛くなっているんだから、続けてほしいよな。
とりあえず返信しなきゃと、俺はスマホに入力する。
「別にいいぞ。俺と二人だけで会うということは、人に聞かれちゃ困ることなんだな?」
返信はすぐあった。
「その通り。よろしくね。頼りにしてるよ。」
そのあと、具体的に待ち合わせる場所と時間を決めた。
横浜で1時間くらいお茶でも飲みながら話をすることにした。
それにしても、何だろう。
まさか、好きな男子ができたなんて言わないだろうな。
あいつ、髪の毛をエクステで伸ばして、かなり女っぽくなったからなあ。
うちの学校の生徒で、「小出は女の子にしか見えないから、交際申し込んでみようかな?」
なんて言ってるやつがいるみたいだし。
もし、「好きです。」なんて告白されて動揺してたりして・・・
うーん、あり得る話だ。
あいつはホモじゃないと思うけど・・・
でも、女性心理を研究するために24時間女性になりきっているし、女の気持ちになっちゃったりして。
あいつが、男と交際してみたいって相談してきたらどうしようか?
止めとけ、お前は男だろ?って言うか?
うーん、とにかく、あいつが男と付き合うなんて嫌だ。
あいつをフォローするのは俺と尾崎の役目なんだ。
他の男が入ってくるというのはちょっと・・・な。
別に俺はあいつのことを好きなわけじゃないけど・・・
俺もホモじゃないし…
・・・まずは話を聴いて考えよう。
俺も、あいつが男か女かわかんなくなってきてる。
恋愛相談されたら困るなあ。
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さて、横浜の待ち合わせ場所で無事会うことができた俺たちは、おしゃれなカフェで、
お茶をのみながら、話を始める。
幸運にもその店は空いていた。
俺たちは周囲に客がいないことを確認したうえで、さらに用心深くなって小さな声で会話する。
店に入る前に、小出からの要望があり、その要望に沿ったのだ。
「小出、本題にはいろうか。相談って、何だ?」
「あのさ、私の容姿って少し変わった?」
「まあ、髪の毛をエクステで伸ばしたからな。かなり女っぽくなったとは思うけど・・・」
「実はね、あと半年もすれば、容姿が相当変わると思うんだ。」
「何で?もしかしたら、遅れてきた第二次性徴で男っぽくなっちゃうかもしれないってことか?」
「違う!その逆!
かなり女の子っぽくなるの!」
「ええっ?
もうかなり女の子っぽいぞ。
仕草とか雰囲気とか。
これ以上女の子っぽくなるにはニューハーフみたいに治療しないとダメだろ?
ホルモンとか、手術とか。」
俺はニューハーフについては多少知識があった。雑誌やテレビでのレポートや手記を見ている。確か、最初は女性ホルモンを摂取して身体を女性化させるんだよな?
そのためには医師の判断がいるはずだ。
確か、性同一性障害?性別違和?
LGBT?
そこまで考えて、俺は気づく。
「小出、まさか・・・!」




