6 女子に見えるようにトレーニング開始
翌日の火曜から、部活の練習は始まった。
俺は、他の部員と一緒にランニング、ストレッチ、発声訓練等の基礎練習に加わったが、
途中から抜けて、山野先生にマンツーマンで、女性らしくなる講義を受けた。
生徒指導室で、二人きりになる。
「さて、女の子として過ごす覚悟はできた?」
「うーん、ピンときませんが、がんばります。」
「まあ、今の男の子のカッコだと、気分の転換ができないよね。
来週からずっと、女子のカッコするようになれば、身についてくることが増えるだろうけど。
今週は家では女装してみてね。
お姉さんとか協力してくれるんでしょ?」
「そうですね。今日帰ったら、さっそく、女装させられそうです。」
「そうね、家だけでなく、外出も積極的にしてね。
あなただったら、今のままでも女の子にみえるけど、服装と、話し方、歩き方、仕草を
何とかしないと、変な女の子になっちゃう。
さて、今日は、歩き方と姿勢について、やろうか?そして、話し方かなあ。
まずは、歩き方。
歩いてみて。」
俺は、普通に歩いてみた。
「無難な歩き方だけど、女の子っぽくはない。
ややつま先が外に向いている。本物の女の子でも、そういう歩き方の子は多いけど、
可愛くないの。
つま先は、まっすぐが理想。
一本の線を歩くような感じで、歩いてみて。
つま先を外側に向けるくらいなら、意識して内側に向けたほうが女の子っぽい。
それから、姿勢に気をつけて。
胸を張って歩いてね。
猫背だと、かっこ悪いし、女の子の象徴であるおっぱいが強調されないよ。
小出君、あ、これからは葵ちゃんって呼ぶね。
葵ちゃんには実際にはおっぱいがないけど、服装の力で、あるように見せるわけだから、
その辺も考えて。
はい、歩いてみて。」
俺は、何回も部屋の中を歩く。
確かに、女の子の歩き方なんて考えたことなかった。
「何となくコツがわかったようね。
あとは普段の生活で練習して。
あと、座って見せて。
それじゃダメ。
女の子は太腿から足先までピタっと
揃えて座るの。
うん、そうそう。
そんな感じ。
意識してね。
次は、声の出し方と話し方だね。
教えるより真似したほうがいい。
きょうはアニメのドラマCD持ってきたから、聴きながら、CDの声優の真似してしゃべってみて。
声の高さ、話の抑揚を考えてね。」
山野先生はCDプレーヤーのスイッチを押す。
あ、これ知ってる。可愛い女子高校生のゆるいー日常を描いた人気アニメだ。
登場人物はみんな可愛い女の子だ。
いかにもアニメ声って感じで、わざとらしい声だと思うけど。
「先生、これはいかにもアニメ声って感じで、わざとらしくありませんか。
現実の女子高生はこんな声出さないと思います。」
「そうかもしれないけど、葵ちゃんは普通の男子のしゃべり方をしてるから、
いったん、極端なアニメ声に変えて、全然違う人格になる必要があると思うの。
アニメ声をマスターしたあと、本物の女子高生の声に近づけていくという作戦ね。
葵ちゃんの声は高めだから、ちょっとの練習で、アニメ声をマスターできると思う。
それから、これ貸すね。これはICレコーダー。自分で自分の声を録音して、
声優と同じような声を出しているか確認して。」
「わかりました。やってみます。」
俺は、先生の前で、CDをかけながら、練習を始める。
アニメの台本もあって、それを見ながらだ。
最初はCDに合わせながら話し、そのあと、CDを流さないで話してみる。
けっこう、難しい。高い声は出るが、女の子らしい声にはならない。
俺も一応声変わりはしているので、高めとはいえ、男子の声質なんだ。
アニメ声優みたいに極端な声というのは技術がいる。喉を抑えるような、
声を響かせないようにする話し方?これは試行錯誤がいりそうだ。
「ふふふ、何となく、女子声を出す苦労がわかってきたようね。
いろんな訓練法があるけど、アニメの声優の真似をして練習する方が楽しいでしょ?
自宅でもやってみてね。」
そのあと、2時間にわたって、アドバイスを受けながら、声の出し方の練習をした。
のど飴をくれたので、何とかやり続けることができた。
ちょと、飽きたときは、歩き方の練習や、女性の仕草を先生に教わったりした。
「はい、今日はここまで。
一人でも練習してね。
歩き方とか仕草とかは、通学時でもできるから。
回りに人がいないときやってみてね。
あ、街にいる女の子の仕草や声を観察すると参考になるよ!
テレビやDVDでも練習材料になるね。
明日からは、女子のルールについても教えてあげる。
生理のこととか、心理のこととか、トイレのこととかね。」
うわっ、なんかすごい事まで教えてくれるんだ。
でも、来週から女子校に行くんだから、聴いておいたほうがいいな。
そして、帰途につく俺。
家に着くまで、歩き方や姿勢を実践したり、仕草をちょっと練習したりした。
街中にいる若い女性や女子高生も観察する。
なるほど、かっこい女子は歩き方や姿勢が違う!
服の着こなしや髪型でも、すごく印象が変わる。
あと、髪の毛をかきあげる仕草とか素敵だ。
これは研究しないと。
人がいないのを確認して、アニメのセリフも独り言のようにして練習する。
うわっ、何か楽しい。別の人間になるみたいで面白い。
今まで、女の子に間違われる男の子だったけど、女の子にしかみえない人間に化けなきゃ。
それには、声や話し方、身振り手振り、仕草は大事だ。
服装とかメイクだけではだめだ。
俺のなかに、変身願望がムクムクと沸き上がり成長してくるのを感じた。
家に着くと、びっくりすることがあった。
俺の部屋の色が変わっていた。
カーテンは緑だったのに淡いピンクになっていた。ベッドの掛け布団と枕も淡いピンク。
うわぁ、女の子っぽい!
そしてベッドの上には姉が使用していた女子高生の制服、そして下着が置かれていた。
予想はしてたけど、目の前にするとドキドキする。
俺は変態になっちゃうのか?
そこに、姉が顔を出した。
「お帰り!
ふふふ、部屋の感じ変わったでしょ?
実はタンスやクローゼットの中の男物の服、
ほとんど、処分しちゃった。
代わりに、私が高校の時着てた服や最近着てない服が入ってる。男物の下着も捨てた。
女の子用の下着数着買ったからね。
もう女の子の服着るしかないよ!」
「ちょっと待てよ、めちゃくちゃだ。
あと3日は男のカッコで学校行くんだぞ。
まさか、女の下着で学校行けって言うのか?」
「ふふふ、1着だけ残してるよ。
今着ているのと合わせて2着だから
洗濯すれば大丈夫だよ。」
「ひでえな。わかったよ。
俺の男生活は空前の灯か。」
「何言ってるの?
一刻も早く可愛い女の子になりきらないと。
まずは着替えて!
色々チェックするから。
あ、その前にムダ毛を浴室で剃ってね。
少しはあるでしょ?」
「やれやれ、わかりました!
やりますよ。」
俺は覚悟を決めた。




