56 女装レイヤーと男装女子
今度はこちらが自己紹介です。
祐希から始めます。
「あの、私、祐希です。
こちらのバンドメンバーと一緒で
女子高校生です。
二人とは中学は一緒で高校は違うんですよ!
私はコスプレはしないけど、今日はちょっとボーイッシュな感じで来ました!
胸はナベシャツで抑えちゃってます。」
「あ、私は葵です。
祐希と同じクラスです。
私もコスプレって全然わかんないんですけど
来ちゃいました。
今日はすごい盛り上がりですね!
楽しんでます。」
「うわぁ、女子高生4人に社会人一人なんだ。
すごい!
現役女子高生とおしゃべりできるなんてすごく嬉しい。
じゃあ、私、みんなにクレープご馳走しちゃう!
社会人だからね。太っ腹になっちゃう。
買ってくるね!」
「え、いいんですか?」
「ラッキー!」
「すみません!」
「ご馳走になります。」
さすが社会人、よいしょした成果がありました。張り切って売店に向かう鈴音さんを残りの3人は見送ります。
すると・・・
「ねえねえ、葵さんって、なんか清楚な女子高生って感じで可愛い!もしかして、男役やってる祐希に惚れてる?それとも祐希が惚れてる?」
沙織さんが、いきなり爆弾を投下してきました。
とりあえず私が男ってバレてないみたいですけど・・・
「沙織、変なこと言わないで、私は陽菜と違って男の子が好きなの。男の子っぽくしてるのは部活のため。葵も普通に男の子が好きだから。ね!」
にこっと笑って私に振る祐希に私は答えなければならなくなりました。
私はまだ男の子が好きという感情については曖昧だけど、ちゃんと体が女性になったらやはり恋愛対象は男性になることは間違いない。
うん、ちゃんと答えよう。
「うん、私も普通だよ。
男の子が好き。」
「そうなの?うーん、おもしろくないなあ。
もしかして、祐希も葵さんも彼氏ができてたりして・・・」
「私も葵も残念ながら彼氏はまだいないよ。
沙織はどうなの?」
「へへへ、実はできたんだ。
同じ高校で、同じ軽音楽部の先輩。
ビジュアル系バンドやってる。」
「似たもの同士でくっついたんだ!
高校入って半年もたたずに相手ができるなんて、早いなあ。
いいなー。
陽菜はどうなの?
あんなにおっかけの女の子いるなら、相手には困らないでしょ?
好みの子いるんじゃない?」
「えー?
ファンには手を出さないよ。
それに・・・
ファンの女の子たちって大きな声で言えないけど
あまり可愛くないんだ。
好みのタイプいないし・・・」
あ、わかる・・・
中学の時にイケメンの男子の追っかけやってるような女の子たちって
あまり美少女はいなかった気がする。
可愛い子って、そういう行動しないもんなー。
「私のタイプは・・・そう・・・」
陽菜さんはそう言うと、次っと私の顔を見始めました。
やばい、男だってばれたかな!あまりじろじろ顔見ないで!
「葵さんみたいな感じの女の子。
葵さん・・・
彼氏いないなら、私にもチャンスあるよね?」
「陽菜、葵は男の子が好きって言ったばかりじゃない?
何言ってるの?
葵が困るでしょ?」
「でも・・・好みなんだよねー。
一目ぼれかな?」
私は恥ずかしそうに陽菜さんの顔を見ます。陽菜さんは、けっこう美形です。
女の子らしくすれば、可愛いのに。
もったいないなあ。
私が女形になる前・・・
男性の自意識だった時なら、好きになっちゃったかもしれないくらい魅力的だ。
でも女の子が好きなんだろう?
どうして?
「とりあえず、友達になってよ。友達ならいいでしょ?
連絡先の交換しよ!」
「それは、問題ない…かな?」
「やったー。」
「陽菜、葵を口説いちゃだめよ。
純情だし、男の子と付き合ったことないんだから。」
「はいはい、でも私もまだ女の子と恋人として付き合ったことないけどね。
男の子とはあるけど・・・」
「そうだ、陽菜って、中学の時、サッカー部の秋田君と付き合ってたんだ。
別れちゃったけど・・・
そのあと、私は女の子が恋愛対象かもしれない、可愛い女の子を彼女にしたいって言いだしたんだ。」
「でも、私と祐希は対象じゃないって、言ったんだよね。
身長160センチ以下じゃないとダメって。
安心したよ。
私なんか、バンド組んでる仲間だから、恋愛感情持たれたら困るもん。」
「そう思ってたんだ。
確かにそうかも。
ところで葵さん、身長いくつ?」
「158センチかな?
もう身長伸びなくなっちゃった。」
「うーん、やっぱり!
どストライク!
仲良くしようね。」
顔を近づけてくる陽菜さん。
ま、まずい。あまり観察されると、男の部分がわかる。
顔はともかく、体全体はチェックされたくないなあ。
身体なんか触られたら、柔らかくないのがわかっちゃう。
「お待たせー!
買ってきたよー!」
レイヤーの鈴音さんが戻ってきた。
何となく助かったって気がする。
「いいなー。女子高生って。
私も若返って、女子高生になりたいっ。」
女子高生のコスプレをしている鈴音さんが言うと、説得力あるかも。
「鈴音さんって、何で女装するようになったんですか?」
「聴きたい?
じゃあ、教えてあげる。」
私の質問に鈴音さんは嬉しそうに反応した。
この人、ウイッグや衣装、メイク、仕草から想像すると、相当女装にお金と時間をかけてる。
私がやってる女形に共通するものがある。
「私、子供の頃から女の子になりたかったんだ。
でも、今流行の性同一性障害で、お医者さんにかかるほどではなかったの。
女の子にはなりたいけど、カミングアウトして、家族を説得して、生活を変えるって
勇気はなかった。
それに、高校生のころには、立派な体格に成長しちゃったしね。
でも、ずーっと思ってたよ。
髪の毛を伸ばして、スカートを履いて、街を歩きたいなあって。
で、社会人になって、コスプレの世界を知って、さらに女装コスプレをやっている人が
いることを知って、女装を始めてみようって思ったんだ。
そっからは、もう女装に夢中。
衣装そろえたり、メイクを勉強したり、イベントに参加したりで、毎週末は大忙し。
幸いにして、私の顔、メイクが映える顔みたいで、けっこう評価されるから、
SNSで投稿すると反応がすごく返ってくるし、今はものすごく幸せ。
ねえねえ、これ見て。」
スマホに写っている鈴音さんの写真は完全に美少女だった。
実にうまい構図で可愛く写っている。
加工はもちろんされてるけど・・・
でも、普通の若い女の子たちもやってるから、ずるいとは言えない。
SNSの反応もすさまじい反響で、その人気がわかる。
実物を目の前にして、身体全体を見てしまうと女装だってわかるけど、
SNSの写真アップならわからないなあ。
「女の子からは友達になってほしいって連絡くるし、
男性からは付き合ってほしいって連絡くるし、
けっこう対応が大変なんだ。
実際は会わないよ。めんどくさいからね。
実物と違うって言われるのも嫌だし。
ネットだけのアイドルで満足してる。
こうやって、リアルのイベントで知り合った人達のほうが仲良くなれると思う。
今日は女子高生と友達になれて、すごくよかった。」
沙織さんが、質問する。
「鈴音さん、恋愛対象は当然男性ですよね?
そんな気がする。」
「ふふふ、そうなんだけど、リアルだとおじ様ばかりにモテるの。
私は若いイケメンと仲良くなりたいんだけどね。
あんまり贅沢言っちゃいけないんだけど。」
「いやいや、あきらめないで、がんばりましょう。
私も男の子じゃなくて、女の子が好きなんだけど、
なかなか彼女ができないんです。
性的少数派としては私たち仲間です。
励まし合いましょう。」
「わーっ、現役女子高生に言われると、勇気出る。
じゃあ、女に磨きをかけて、いい男捕まえなくっちゃ。」
私も性的少数派なんだけど、とてもカミングアウトはできません。
祐希以外は私のこと普通の女子高生って思ってるし。
でも、よかった。
陽菜さんと鈴音さんが盛り上がってくれて、私の話題にならなくて・・・
いろいろ聴かれたらぼろが出そう。
早く、ホルモン治療が進んで、触られても問題ない身体になりたいと思う私でした。




