4 入部します。
ついに、演劇部に入部してしまうお話です。
女形制度の研修制度も明らかになります。
こんな制度があったらおもしろいだろうなあと思って書きました。
部屋に帰って、考える俺。
家族は賛成している。
問題は俺自身だ。
はっきり言って、女装して高校生活を送るなんて、恥ずかしい。
俺は男なんだから。
でも、女の子っぽいのが俺の長所だとすれば、考え方を変えた方がいいかもしれない。
身長は止まっちゃってるし、声も高いし、どうもかっこいい男にはなりそうもない。
そういえば、ウチは家族全員低身長で、痩せてる。
俺の今の身長157センチから、もう伸びないかもしれない。伸びても1、2センチのような気がする。
身長160センチ前後?まあ、男としてはモテない体格だなあ。
でも、女性としては普通の体格なんだ。
地味な俺が、ひのき舞台に立つってことは、この機会を逃したら一生ないかもしれない。
とりあえずやってみるか?
嫌なことがあったり、女装が似合わなかったときは、そこで考えよう。
よし、女形やってみようじゃないか!
姫になってやる!
敷かれたレールに乗ってみよう!
やるからには本物の女の子より可愛い女になってやる。
アイドルみたいになれるかも。
実は某女性アイドルに似てるかもしれないと思ってたんだ!
俺はほぼ決意した。
でも、明後日、先輩方の劇を見て、正式な返事をしよう。
まずは、高校生の劇というものがどういうものか見てみたい。
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翌々日、放課後、新入生歓迎公演が開催された。
30分と時間は短く、
この公演で引退する3年生主体の劇だった。
俺はクラスの尾崎、板谷と観に行く。
話は卒業式のあとの高校生たちが、自分たちの高校生活は何だったのか?これからの人生を
どう生きていくか?と真剣に討論し合うというお話で、女形は出てこない。
青春がテーマの対話劇だった。
まるで、俺たち新入生にこれからの高校生活を悔いのないものにしろと言わんばかりの
熱の入ったセリフの応酬だった。
ぼーっとしていても、時間は過ぎていく。でも人生は一回だ。
若い10代の半ばの時期は宝石のように貴重だが、あっという間にすぎていく。
社会に幻滅、大人に幻滅するのもいいが、何もしないのはあまりにももったいない。
何かに夢中になれば、それが生きていくための財産になる!
そんなような言葉がいっぱい出てきた。
俺の目は何故か輝いてきた。
劇が終わると、俺は、一人で演劇部の部室に向かった。
そして、最後の公演を終えて、くつろいでいる部長に声をかける。
「きょうは、お疲れさまでした。先輩たちの熱い想い、感じ取りました。
俺、小出葵は演劇部にお世話になります。入部します。
女形、やらせてください!」
その瞬間、先輩部員たちは、
「そっか!ありがとう!
ついに久しぶりの姫誕生だ!」
「よーし、がんばれよー。」
「最高の女形めざせよなー。」
「これで、女のいる劇ができるぞ!」
などと、いろんな声をあげる。
越後谷部長は、
黙って、手を差し出す。
「今日で俺は引退だ。残った3年生、
2年生と一緒に頑張ってくれ!」
「はい!」
そして、数日経った翌週の月曜日、
新入部員が部室に集められた。
新入部員は12名。
何とそこに見知った顔があった。
同じクラスで、入学してすぐ仲良くなった
尾崎と板谷だ。
「あれっ?まだ入部先悩んでるって言ってたのに?まさかスカウトされたのか?」
昼休みも一緒に飯食ったけど演劇部に入部するとは2人とも一言も言わなかった。
「ははは、秘密にしてたんだよ。」尾崎が種明かしをしてくれた。
「この間、一緒に新歓公演を見ただろ?そのあと、小出がいなくなったあと二人で相談したんだ。
小出の側にいたら高校生活面白いんじゃないかな?芝居も面白そうだ!って話になって、山野先生のところに直接申し込みに行ったんだよ。
先生も驚いてて、最初は否定的だったんだけど、高校で打ち込む事を見つけたんです!と何度も言ったら、オッケーしてくれた!」
板谷が付け加える。
「ただし、条件があった。
小出のフォローをしてくれってさ。
何しろ、芝居も女役も全く初めてなんだから
悩んだり、行き詰まったり、辞めたくなったりするかもしれない。
だから支えてくれってさ。
もちろんオッケーしたよ。」
おお、強烈な味方ができた!
「ありがとう、よろしく頼む!」
そして2年生による説明が始まった。
演劇部内のルール、毎日の基礎練習、
年間スケジュールをプリント配布の上で
教えてくれる。
そして、女形制度についても、全員が理解するように求められた。
俺が女っぽくなるように全員でフォローすることを指示される。
もし、男っぽくしてたらすぐ本人に指摘するようにとも説明があり、
コリャ油断できないと気を引き締める。
それにしても女形制度。
俺はみんなより早く説明を受けたけど、改めて説明を受けると
とんでもない制度だ。
おまけに、女子高校の男役制度というものもあると知った。
女形が姫なら男役は王子と呼ぶらしい!
すげえな!
新部長が俺の当面のスケジュールを読みあげる。
「小出は、今週は山野先生から男と女の違いについてレクチャー受けること。
それから、今日、保健室に行って制服の採寸をすること。
今週末に制服が出来上がるようにする。
来週からは、女子の制服を着て、女子高で3週間授業を受けて、
向こうの演劇部の部活に参加すること。
家から女装して女子高に直行していい。
授業の内容は全く同じだから心配しないでいいぞ。
3週間といってもゴールデンウイークがあるから実質2週間ちょっとだ。
そのあとはこっちに戻って、女子としての男子校生活スタートとなる。
更衣室は専用のものを使うこと。
トイレは女子職員用を使用すること。
あ、そうだ!みんな、小出が女子高に行った後、
入れ替わりで男役の女の子が女子校からこっちに来る。
面倒みてくれよ。
小出と面識作る関係で、小出が女子校登校始める次の日、
つまり火曜日から来る予定だ。
よろしくな。」
そのあと、新入生は帰っていいことになった。
本格的な部活は翌日からだ。
俺は他の新入生部員とも挨拶を交わした。特に変な奴はいなかったが、
「これから、どれだけ女っぽくなるか楽しみだなあー。」
「今のまんまでも女に見えるな。うん、キスできるかも。」
なんて言われて、ちょっと変な気分になる。
まあ、興味本位で見られるのは当たり前か。
「じゃあ、山野先生が保健室で待ってるから、俺は、行くよ。」
「おお、じゃあな!」
他の新入生と別れて、保健室に向かう俺。
ついに、部活が始まっちまった。
どうなるんだろう?
保健室に着くと、山野先生と山野先生と同世代と思われる若くてきれいな保健の先生がいた。
男子校では貴重な2ショットだ。
女子校の男子教師、男子校の女性教師って、いたらモテそうです。もちろん、若くて容姿がいいことが
条件だとは思います。
明日、5話を更新予定です。間に合えば・・・ですけど。
がんばります。