31 初めてのジェンダークリニック
小出葵です。
5月下旬の土曜日です。
初めてジェンダー診断を受けるために、あるクリニックにやってきました。
祐希のお母さん、藤原梓さんが院長をやってるところです。
ちなみに、私は未成年なので、母の小出智花と同伴で来ています。
母は私を女の子にしたいと考えているようなので、喜んで同伴してくれました。
私自身はといえば、自分の将来を左右することなのでちょっと不安はありましたが、
診察をしてくれるのが面識のある祐希のお母さんなので辛くはありません。
待合室にはいると、予約時間が決まっているせいか、そんなに待っている人はいませんでした。
なぜか、私と同じMtF(女性化を目指す男性)はいなくて、
いかにもFtM(男性化をめざす女性)と言った感じの短髪の女性が何人かいました。
私は高校の制服で来ました。
母と相談し、女子高生っぽい感じを藤原さんのお母さんに見せようと言うことになったんです。
時間が来て、名前を呼ばれます。
母と一緒に診察室に入ります。
早速母が、祐希のお母さんに挨拶します。
「初めまして、葵の母です。
いつぞやは娘がお世話になりました。
こんな娘ですけど、よろしくお願いします。」
うわっ、お母さん、顔色変えないで、私のこと、娘って言ったよ。
すごい度胸だな。
私は自分のことを娘ですなんて他人に言えない。
「初めまして。
わざわざ起こしいただきありがとうございます。
うちの長女もいい友達ができたって喜んでましたよ。
親としては嬉しい限りです。
ところで、葵ちゃんはもう娘さんとして扱ってらっしゃるんですね。」
「ええ、今は24時間女性として過ごしているので、私は娘として扱っています。
娘としか思えません。
葵の部屋には下着も含めて男物は一切ありません。
男物は全て捨てちゃいました。
部屋のインテリアも女の子風に変えちゃいました。
娘は不便には思っていません。」
「なるほど。
思い切りましたね。
女性になりたいMtFの環境としては申し分なさそうです。
未成年の場合、家族の理解は特に大切ですから。
学校では、女形制度で、女性としての役割を与えられているし、
環境は整い過ぎてるくらい整ってるというわけですよね。
でも、今後のことについて不透明なところあがります。
やはり精神分析が必要ですね。
できるだけ多くの通院をおススメします。
いろいろお願いすることもあると思いますが、よろしくお願いします。」
「娘の一生にかかわることなので、もちろんご指示に従います。
葵、あなたからも、ちゃんと考えを言いなさい。
男性でいるのか、女性になるのかは最終的にはあなたの判断が決め手なの。」
「先生、方向性があいまいなのに相談にのっていただきありがとうございます。
ここのところ、女性になりたい気持ちが強くなってきてます。
でも、まだ揺れています。
診断の方、よろしくお願いします。」
そのあと、生まれてから現在までの生活状況、家族、友人、学校についていろいろと聞かれます。トイレ、更衣室、聞かれました。
家族については全員女性化については抵抗がないこと、
友人、学校は女形制度の関係で女装を普通に捉えてるし、似合っていると褒めてくれていること、
トイレと更衣室は学校では女子職員用を使用していること、
おしっこをする時も常に洋式トイレで座ってしていること、
駅や商業施設では、現在の立場を考え、
多機能トイレを使用していることを説明します。
まあ、先日ご自宅にお邪魔した時にある程度話しているし、祐希からもいろいろ聴いているので、梓さんはスムーズに聞き取りを進めました。
そして、最後に私に自分史を書いてくるように言います。
今までの人生を性別というテーマで、正直な気持ちでまとめることが必要みたいです。
血液検査も実施しました。
血液検査は定期的に行われるようです。
帰り際には、こんなアドバイスをもらいました。
「次回は葵ちゃん一人で来てもいいですよ。
お母さんや家族の考え方がわかりましたから。
それから、女子高生姿、ちゃんとしてますね。
どう見ても、普通の女子高生に見えます。
まあ、専門家が見ると、女装ってわかっちゃいますけど、ホルモン治療してない段階で、
ここまで女子高生に変身している患者さんは、今までいませんでした。
普通の女装男子はもっと不自然なんです。
葵さんは見た目だけでいけば、すぐに診断出せちゃうレベルです。
女性化の診断っていうのは、女性になりたいっていう思いの強さだけではダメなんですよ。
どんなに性別自認が女性で、女性になりたい気持ちが強くても、
見た目が男性以外の何物でもないと言う容姿の人、未成年で家族が反対している人、
経済的に問題を抱えている人、学校や勤務先が反対してたり許容してくれないケースの人、
こうした人たちにはホルモン治療を進めることなどできないんです。
その点、葵さんはかなり女性化に向いている容姿だと思います。
あとは、本人の心の中と将来に対する方向性をきっちり押さえて、診断ですね。
結論は急ぐべきではないと思うけど、やっぱり男性化が進んでしまう前に結論出したいかな。
なるべく早い時期に診断したいので、月に2回以上来てもらえると助かるけど。」
「はい。次は6月上旬に来ます。」
「うん、いいと思います。
それまでに、自分史や悩んでいることをちゃんとまとめてきてね。
長さは任せます。
書いているうちに自分の方向性が決まってくるから。
よろしくね。
性同一性障害(GID)という症状は簡単じゃないんです。
いろいろなパターンがあって、これだからGID、そうじゃない場合は違うって決められない
ものだと考えます。
本人にとって、納得できる性別になれるのが一番ではないでしょうか?
とにかく前向きに考えてくださいね。」
帰り、最寄りの駅まで歩きながら、母に私は打ち明けました。
「やっぱり来てよかった。
自分が何者か考えることができそう。
人生に対する考え方を学んだ気がする。」
「そうね。
一生懸命考えましょうね。
でも、本当に制服似合ってるわね。
やっぱり葵は娘だと思う。」
「そう?」
私は実の母に言われて、ちょっと恥ずかしく、嬉しかった。
次回は来週の土曜日です。よろしくです。




