28 山野夫婦
高校教師の山野秋葉です。
今は自宅のマンションで夫の山野栄作と一緒に食事中です。
ワインを飲みながらだから、
ちょっとほろ酔いです。
「栄ちゃん、今度の土曜日にウチの学校の新しい『姫』の葵ちゃんを招待するから。
食事をごちそうしながら、相談に乗ってあげることにした。
よろしくね。」
「おおっ、そりゃいいね。
可愛い子なんだろ?
俺も会ってみたかった。
あっちゃんの後輩だもんなぁ。
相談って何だろう?
ところで、あっちゃんのことばらしたの?
そこは大事なところだ。」
恥ずかしいけど、夫は私のことをあっちゃんって呼びます。
私は夫のことをえいちゃんって呼んでるんです。
「ばらしてないよ。
今の在校生は私のこと知らないんだ。
一応、表向きは普通の女性ってことにしている。
教師の一部は私が元男性って知ってるけど、みんな口堅いし。
でもね、今度の『姫』の葵ちゃん、私と同じ感じなの。
女形になるために本気になったら、
男の体でいることに不満になってきたみたいで、
相談してきたの。」
「ええっ?入学して、まだ2カ月たってないよな?
早いな?
もしかして、元々性同一性障害?」
「ううん、GID(性同一性障害)ではなかったみたい。
普通の男の子。
初めて会った時は演劇部に入れば女子校の生徒と仲良くなれるかもって喜んでたから普通に女の子が好きだったはず。
でも、
幼いころから、可愛い顔で、小柄で華奢だったみたいだから、自分が女の子なら
似合うだろうなあって適性を感じてたみたいなの。」
「じゃあ、あっちゃんに似てるな。
あっちゃんも別にGIDではなかったもんな。
えーっと、悩み始めたのは夏休みの頃だったっけ?
俺、初めて相談に乗った時のことを覚えているよ。」
「うーん、懐かしいね。
私も、まさか、女の子になろうって決心するとは思わなかったよ。
中学までは、普通に女の子にモテたい男子だったからね。」
「夏休みになる頃には女の子にしか見えない
感じに変身してたけどな。
そうだな、女の子に見えるって人に言われても満足できないって、夏休みに入って言い出したんだ!」
「そうなの。女子校の演劇部の子たちと
仲良くなって、女の子と接触する機会が増えて、違いがわかっちゃって、悔しくなったんだよね!
女の子って、体やわらかくて、ぷにゅぷにゅしてるし、
おっぱいはあるし、ウエストの位置違うし・・・
女子の制服着ても、可愛いドレス着ても
なんか違うって
すごくコンプレックス感じて・・・」
「うん、いっぱい相談に乗ったよな。
どうしたらいいんだろう?
っていろいろ考えて・・・
それでお医者さんに相談して・・・
確か、ホルモン治療は高校3年からだったかな?」
「そう、精神科医の診断がけっこう長かった。
当時は慎重すぎるくらい慎重だった時代だったと思う。
今と違うんだよね。」
「そういえばそうだった。
当時は簡単に女性にさせてくれない感じだったね。
最近は性に関する考え方がだいぶ柔軟になってきたから、
早く治療ができそうだけどなあ・・・
うん、わかった。
今年の姫がどんな感じなのかわからないけど、
俺も相談の席に加わるよ。」
「あ、それでね。葵ちゃんには
桃花高校演劇部のOBであなたと同じような悩みを持ってた人を紹介する
って言ってあるんだ。
その人が私であるってことはまだ内緒。
学校では、そんな話できなくて。
一応、夫もOBだって話した。
葵ちゃんは桃花高校と桃花女子高校のカップルだと思ってる。」
「なるほどね。無難な考え方だよな。
まさか、高校の時に同じ男子校演劇部に二人ともいたなんて
考えないもんな。
わかった。話合わせるよ。
詳しい説明が終わるまで、余計なことは言わない。」
「うん、お願い。」
「あのさ、私と結婚したこと後悔してない?
性転換手術して、戸籍を変えて女性になったけど、
子供は産めないし、
一生、ホルモン治療継続しなきゃいけない人間だけど。」
「後悔なんて全然してないよ。
幸せいっぱいだよ。
こんなきれいな奥さんと暮らせて、何も不満はない。
夜の生活もばっちりだし。
好きな人と一緒に慣れたんだ。
こんな素晴らしいことはないよ。」
「ありがとう・・・
これで、葵ちゃんの相談にじっくり乗ってあげれそう。
私が女性になったことについて自信を持ってないとはっきりした返事できないもん。
これで大丈夫。」
私は、感動してしまった。
何ていい人なんだろう!
葵ちゃんにもこういう男性ができれば、いいんだろうなあ?
でも、女性が好きだったら、私とは違うし・・・
難しいよね。
私は、高校1年生のとき、えいちゃんといっぱい相談して、少しづつ好きになっていったんだ。
敵わない恋かもしれないけど、私は栄ちゃんが好き!って高校1年の終わりころに
はっきり思った。
まさか、そのあと社会人までつきあって、結婚することになるとは思わなかった。
栄ちゃん、自分の家族も必死になって説得してくれたなあ。
いっぱい素敵なことをしてくれた。
よし、葵ちゃんの相談にもいっぱい乗ってあげよう。
もし、ホルモン治療を開始するなら、早い方がいいしね。
遅くなれば遅くなるほど、男性化進むからなあ。
何か、土曜日が楽しみ。
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山野栄作です。
幸せそうに、ご飯を食べている妻の秋葉をみて、
この子と結婚してよかったなとつくづく思う。
俺たちは普通の夫婦ではないかもしれない。
でも、どの夫婦より心が通いあっている夫婦である自信がある。
高校生の時から
性別を変えるという難しい問題について
一緒になって真剣に考えてきた歴史があるんだ。
葵ちゃんについても真剣にに向きあってあげよう。
日本の医学界ではじっくり考えさせるという
基本があるけど、ホルモン治療は早ければ早いほどいい。
きれいな女性になれる確率が高くなる。
秋葉も高校時代からの治療があったからこその現在の姿だと思う。
あ、演劇部の先輩だから部活についても
アドバイスするかな?
高校時代って短いから、部活も精一杯やって欲しいし。
とにかく葵ちゃんと会うのが楽しみだ。




