27 定期公演の準備、そして山野先生のお誘い
葵です。
昼休みは大変でした。
クラスのみんなを相手するだけでも大変なのに、上級生や他クラスからも見物人が来てしまうんです。
「けっこう可愛いぞ。」
「ミニスカの足、いいなあ。」
「抱き着きたくなる。」
「声が女の声だ!」
とかいろいろ聞こえてきます。
恥ずかしいし、ちょっと不安になったけど、
板谷君と尾崎君が仕切ってくれて助かりました。
持つべきは友です。
たぶん、パンダみたいに騒がれるのは最初のうちだけです。
そのうち、珍しくなくなるはずです。
しばらく我慢かな?
そして、久々の演劇部の部活に参加。
6月の定期公演の練習が始まっていました。
ちょっとしたコメディです。オタクをテーマにしたもの。
公演まで1か月ちょっとしかありません。
準備不足になってしまうのですが、新入生を緊張した場面に早いうちに送り込み、
場数を踏ませるということと、芝居への適性を見ると言うことで、毎年開催されるのです。
あらかじめ配布されていた台本に基づき、台本通りにセリフだけの芝居を始めます。
私も女子校にいるときから、予習していました。
だから、他の新入生と違わないレベルで始めることができました。
1年生は全員芝居に参加なんですが、まあ、重要な役はまだ与えられないのが原則。
練習時間ないですしね。
でも例外はいて、それが私。
しょうがないです。専任女形なんだから。
早坂部長演じる主役のオタク少年の妹役で、やっぱりオタクの女子高生という設定。
ヒロインとまではいかないけど、可愛いくて、すごくマニアックな変な女の子ということで、
けっこう出番が多いから大変。
演技には期待していない、とにかく可愛く見えるようにやってくれという部長のアドバイスでした。
山野先生も、そんな感じでアドバイスをしてきました。
まずは心の底から女の子になった気分でやってみてと言われます。
うーっ、でも緊張する。人前に出るなんて経験ないからなあ。
私、今まで地味な人生を歩んできたんだなってつくづく思う。
でも、やるしかない。たった一人選ばれた女形なんだから。
そして、2日後の水曜日。
練習が終わったあと、山野先生に呼ばれます。
着替えて制服になったあと、生徒指導室で二人っきりになりました。
「あのさ、女子校で、いろいろ悩みを福島先生にしたんだって?」
「あ、はいっ。なんか、本物の女の子と違うことがよくわかって、ちょっと
困ったなあって思い始めたんです。」
「具体的には?」
「女の子と一緒にトレーニングしてたりすると、
女の子の体の柔らかさとか、体の線とかが男子と全然違って、
男女って違うんだなって思うんです。
それに・・・」
「それに?」
「スカート履いていても、ウエストの位置が違うとか、プリーツの広がり方が違うとか感じるし、
その・・・やっぱりブラがずれまくるし、ショーツは収まりが悪いし・・・
あの、変ですよね。男だから当たり前なんだけど・・・
胸がないからずれるのは仕方ないし、股間に余計なものがあるから、収まり悪いし・・・
でも・・・
そういう一つ一つのことが不満で・・・
女の子になれないなあ。
嫌だなあ。
なんて、思い始めて。」
「葵ちゃんは女の子になりたいって思ったことあるの?」
山野先生は、ずっと「葵ちゃん」って親しみを込めて行ってくれます。
なんか恥ずかしいけど、うれしいっ。
「性同一性障害ってことはなかったんです。
中学までは女の子みたいって言われて、ちょっと嬉しかったのは事実ですけど。
でも、最近は女性になった方が自分の人生が輝くんじゃないか?なんて思い始めました。
女性として生きたほうが楽しいんじゃないか?なんて思うんです。
一度思い始めたら、悩みが止まらなくなりました。
もちろん、MtFっていうんですか?女性化するための道とか女性化した後のこととか大変だってことは
ネットとかで調べて、何となくわかりました。
軽はずみに考えちゃだめみたいです。
ふつう、診断には2年かけるし、精神科医も二人の判断が必要なんです。
あの・・・
先生だけに打ち明けます。
今のところ学校の誰にも言ってません。
実は今度ジェンダークリニックに行くことになりました。
女性になりたい気持ちが芽生えてきてるんじゃないか?ってことで、ある精神科医に勧められたんです。」
「そうなの?
そこまで悩んで、考えていたんだ。
・・・・・・
なら、私も、本格的に相談に乗らなきゃね。」
「福島先生が言ってました。
演劇部出身であなたと同じような悩みを持っていた人を知っているから
紹介するって。」
「うーん、その人知ってるよ。
ここのOBなんだ。
あのね、
学校にはその人呼べないから、
私の家に来てくれる?
私の家に呼ぶから。
そうだ、うちの旦那がいる時にしようかな?
今週の土曜日、ウチに来て!
そういえばウチの旦那も、桃花高校の新しい『姫』に
会いたいって言ってた。
どう?」
「そうなんですか?その人、桃花高校のOBだったんですか?
っていうことは当然女形だったんですよね。
今は何してるんですか?
今は普通の男性として、バリバリ働いているんですか?」
「それは、土曜日に来たときに教えてあげる。
楽しみにしてね。」
「あれっ?『姫』のこと知ってるって、もしかして旦那さんも、桃花高校出身なんですか?」
「へっ?そうだよ。」
「先生は、桃花女子OGなんですよね?
私の姉が言ってました。
桃花カップルだったんだ!
高校時代からの付き合いですね。
うちの両親も桃花カップルなんですよ。
素敵。」
「えっ?
あっ、そうなの。ははは!」
先生はちょっと恥ずかしそうに照れます。
初めて、ちょっと乙女な先生を見た気がしました。
可愛いっ。
家に帰って、土曜日に山野先生のところにお邪魔することと、
女性化についての相談をすることについて家族に報告します。
「先生も相談に乗ってくれるのね。」
「それはよかった。」
「山野先生の旦那さんって、イケメンだよ!
私、高校時代に一回あったことある。」
家族は喜んでくれます。
やはり、お医者さん以外にも相談に乗ってくれる人がいた方がいいと
思ってくれたようです。
先生の旦那さんって、どんな人なんだろう?
イケメンなんだ。
馴れ初めとか興味あるなあ。
ふふふ。楽しみ。




